5話
「はぁ、はぁ……少し、言い過ぎてしまったかしら…」
あのあと私はルナの部屋から全力で逃げたあと、聖女寮に帰ってきた。
聖女寮とは吸血鬼に仕える聖女たちが住まう寮だ。吸血鬼と同じ部屋で暮らしている聖女もいるらしいがほとんどの吸血鬼が狂暴なため、寮暮らしの聖女の方が多いという。…のを、私も昨日知った。…そしてもう1つ、聖女には専属の従者、もといメイドがいる。
昨日会ったばかりだが、とても明るくて、優しい人だった。確か名前は──
「聖女様ーっ。大丈夫ですかーっ」
急にバァンッ─と扉が開いて、無駄に元気なメイドこと、シイナ・エメラルドが半泣きで突っ込んできた。どうやらシイナは心配で様子を見にきてくれたらしい……?
「ぜいじょさま。シイナはずっとずっと、心配しておりましたー」
そう言うとシイナはガバッと私に抱きついてきた。ずっとそうされていても困るので私はシイナの頭を撫でながら告げた。
「シイナ、私はなんともないわ。それよりもご飯を食べましょう、シイナ。用意してくれるかしら?」
するとシイナは何故か満面の笑みで──
「聖女様と、ご飯。わぁ!もちろんですよ。このシイナにおまかせくださいっ」
するとシイナはルンルンで食事の用意をし始める。
「ふっふーんっ!ご飯ご飯、聖女様とごっはんー」
しかも意味がわからない鼻歌まで歌っているわこの子……。
「お待たせしました。今日はシチューを作ってみたのですっ。さぁ、食事にしましょう!早くしないと冷めてしまいます」
手際が良いわね、凄いわ。シイナはなんとほんの30分ほどで料理を完成させた。
「では、手を合わせて…」
「「いただきます」」
お、美味しい…
「シイナはとても料理が上手なのね。今度、教えてくれる?」
「も、もちろんです。シイナ、全力でやらせていただきます」
ううん…そんなに硬くならなくても良いんだけどなぁ。なんだかさみしいわ……あっ、そうだわっ……
「ねぇ、シイナ」
「はい?どうしたんですか、聖女様」
「あ、あのね。は、恥ずかしいか、ら…敬語はやめて。あと、聖女様呼びも……そんな、大層じゃない、から。お、お願いよ」
「む、無理ですからっ」
キズツイタ…カナシイ。
「あうぅ。そんな顔されたら……わかりました、わかりましたよぅ」
え、いいの?と私が期待の目でシイナを見つめると…
「はい…じゃなくて、ええと、うん。ソ、ソフィア…」
無理をしている…わけじゃなさそう、よかったわ。
「ふふふ、シイナ。顔が真っ赤よ、もしかして、うれし…」
「ふわあっ。あ、ソフィア。お皿が空よ、おかわりを…って、きゃあっ」
ガッシャーンッ──
「あ、あわわわわっ…お、お皿がぁ」
あーあ、手伝わないとな……でも、この明るくて、ちょっと騒がしいこの日常が………私は、すっごく、楽しいっ。
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