3話

ボタタッ──っと床に血が滴り落ちる。

 ルナがごくり、と唾を飲み込んだ。視線も血に釘づけだ。

「ルナ、私は大丈夫よ。我慢しないで…」

「は、恥ずかしいからこっちは見ないで」

 とりあえず下を向くとルナに手枷足枷が付けられていたことを初めて知った。

 …とルナが顔を近づけて……ごくん、と血を飲む音が聞こえた。


 1分くらい経ってからルナが顔を上げた。 

 ……そして、手枷と足枷をバキンッと何事もなかったかのように引きちぎった。

「…え?」 

「ふぅ、お腹いっぱい。お姉さん、ありがとう。大丈夫、ですか?」

 ルナは急に心配になってしまったのかおそるおそる私の顔を見た。…そんなルナに私は笑顔で…

「なんともないわ」

 と、答えた。正直くらくらするわね。貧血、かしら…?気のせい、よね。

「あ、そうだ。傷治したよ」

 ルナは当たり前、とでも言うように言ってきた。……うーん、吸血鬼の間では普通、なのかしら。まあ、気にしても仕方ない、わ!

「ありがとうルナ」

「えへへ。でも、こちらこそありがとう。お姉さんっ」

「あ、そうそう。ソフィアって呼んで」

 私は試しにルナにそう提案してみた。ふふっ。すっごく悩んでるみたい、かわいい!

「お姉さん…ソフィアはなんで僕によくしてくれるの……?」

 ルナの問いは私の考えていることの斜め上をいった。急なことで私は黙りこんでしまい、気まずい空気が流れてしまった。

「僕、自分の姿はわからないけど僕を見たらみんな言うんだ。醜いって、吸血鬼は美形なのが普通だって……」 

 確かにルナは美形とは言えない。痩せすぎて骨がくっきり見えてしまっているし、ボロボロの服にのびきったボサボサの髪の毛。

 確かに醜いという表現がしっくりくる。私がなんて答えようか悩んでいるとルナが……

「もういいよ、ソフィア。明日からは来なくても…醜い僕とは居たくないでしょう?」

 そう…ルナは悲しそうな声色で告げた。

 ああ、今、私がルナにそんなことないよ、ルナは美しいよ、と告げられたらどれだけ良いことだろう…私は無力だわ。

「ほら、早く早くっ。僕ならもう大丈夫だから、ね」

 ……あ。ルナ、暗くてよく見えないけどたぶん、泣いてる。

 ほうっておけるわけ……ないじゃないっ─でも……一体どうしたらいいのよっ。…っ。そうだわ!ルナに自信をつけさせればいいじゃないっ。そうと決まったら……

「ルナ、不安にさせてしまったのならごめんなさい。そんなつもりじゃなかったのよ」

 それでもまだルナは不安そう…こうなったら、覚悟を決めるのよ、ソフィアっ。

……ギュウッと私はルナを抱きしめた。ルナは混乱しているのか私の腕の中でじたばたともがいている。

「ソ、フィアっな、なんなの?」

 そう言うルナの顔は真っ赤だ。そんなルナに私は告げた。

「ルナ、よく聞いて。ハグをするとね、幸せ

ホルモンが高まるらしいのよ…?」

 …たぶん、という言葉は言わないでおいた。

「そう、な…の?」

「そ、そうよっ!私がこれからあなたを幸せにしてあげる」

 納得したのかしてないのか、とりあえずおとなしくなったので私はルナをよりいっそう強く抱きしめた。するとルナが……

「ありがとうソフィア、少し、安心したよ。今日はもういいよ…」

 と、言ったので私はルナから離れた。

「今日はもう暗い。聖女寮に帰りなよ」

「そうね、ルナ。またあし…」

 あ、れ?なんか…くらくらす、る……そう思った時には私の体は傾いていて、私、は?

「…っ、ソフィアっ」

「ル……ナ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る