2話
やるとは言ったけど……ここまでひどいなんて聞いてないわよぉ。うぅ…最悪。
「はぁ…」
私は思わずため息をついてしまった。エルは善意でやってくれたのだろうけど……。
そもそもっ。エルはお願いしたらなんでも
聞いてくれるとでも思っているのかしら…。
「あの、お姉さん……」
思い出したらイライラしてきたわ。ほんっとむかつくぅ。
「お姉さんっ…?」
ん…?い、今、誰かに呼ばれたような…?
「ねえってばっ」
「きゃあっ。び、びっくりした……あ…」
私は…気付いてしまった。どうか、間違いでありますように…。
「もしかして、吸血鬼…さ、ん」
「はい…そうだと思います」
ああ、やってしまった……。ええと、ええと…と、とりあえず……
「気付かなかったとはいえ無視してしまい、すみませんでしたっ」
「ううん、大丈夫だよ。それよりあなたは…誰、ですか?」
吸血鬼さんは不思議そうに聞いてきた。や、ヤバイ。そうだよね、私不審者だよねまずは自己紹介しなきゃっ。
「申し遅れました。私、今日からあなた様の聖女として仕えさせていただきます。ソフィア・スカーレットと申します」
そう告げてから私はスカートのはしをつまみ上げて礼をした。
「あ、僕の方こそごめんなさい。名前はないので好きに呼んで下さい。よろしくお願いします」
「ううん。そうね、何かないかしら」
そう言って私は力いっぱい古びた窓を開けて、あたりを見渡した。
「もう、夜なのね…。今日は本当に月がきれいね、そうだわ。ルナ、あなたはルナ・スカーレット、今日から私の家族よっ」
そういって私が勢いよく振り向くと、なぜかルナ(仮)は泣いていた。
「も、もしかして名前が気に入りませんでしたかっ?それとも私と家族は嫌、ですか?」
私は大慌てで駆け寄り声を掛けた。
「ううん。いい名前をありがとうっ」
そう、無邪気に笑うルナは一瞬、とても…美しく見えた。
「…ふふっ。落ち着きましたか?」
「さっきは取り乱してごめんね」
「いえ、気にしないで下さい。大丈夫ですから」
なんだかよくわからないけど少し…仲良くなれた気がするわ。……案外、うれしいものなのね。
「あ、そうです!食事を取られて下さい。100年近く何も口にされていないのでしょう?」
私がそう言うと、ルナは全力で首を左右にふった。
「え?な、なんでですか」
私が問うと、ルナはうつむきながら、とても小さな声で言った。
「誰も、傷つけたくないんだよ…」
その言葉にうーん…と私は少し考えて……
「だったらあなたが傷つけなきゃいい」
そう言って私は聖女服の袖を乱暴にまくりなぜか近くに落ちていた刃物を拾い上げ……手首を軽く切りつけた。
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