わたくし落ちこぼれ聖女、吸血鬼なんかに負けませんっ!!

風鈴 美鈴

1話

 たくさんの吸血鬼と吸血鬼に仕える聖女たちが暮らしている協会。

 その協会の中にあるとてもまがまがしいオーラを放つ一室の前で私は───

「こ、こわい…」

 ……立ち尽くしていた。ただし、私に諦める、なんて選択肢は与えられなかった。

「だ、大丈夫よ。なんとかなるっ」

 私は覚悟を決め、震える手で扉を開けた。

「し、失礼しま…す?」

 そして私は、目の前に広がっている光景に驚愕してしまった。 

 ボロボロの家具に剥がれかけの壁紙、そして、光すらも通さない汚れた窓、その中で…膝を抱えてうずくまる醜い吸血鬼──

 吸血鬼に近づこうと思い、物をよけて進んでみるが物が多くて近づけない。

 そもそも、なんで私がやってるのよ……。

今すぐ逃げ出したいけど、許されない。

 だって、どんなに醜くても、怖くても私はこの方の聖女を命じられたのだから──。

            

 ことの発端は3日前。


 思い出すのは聖女試験に落ちた私が部屋に引きこもっていた時、幼馴染みのエルがスカーレット家に訪ねてきたことだ…。

「父様、何事ですか。なんで、試験に落ちた私が聖女になれるというのです?」

 私はいぶかしげに父様に問う。

「ああ、それはだな…、ちょっと来てくれる

か」

 父様がそう言うと、父様の後ろからひょこっとエルが出てきた。

 彼女はエル・アメジスト。アメジスト家の令嬢だ。

「あ、あのね…ソフィ。私、試験に受かって聖母になったの、よ」

 信じられなかった、でも、それ以上に……うそ、聖女よりも上の位の聖母っ。いくらエルだからって…エルは全く努力してなかったじゃないっ……悔しさが勝ってしまった。

 聖母とは、1番位の高い吸血鬼に仕え、聖女たちをまとめる存在のこと。つまり一言で言うと、とてもなるのが難しいのだ。そんな試験に受かるなんて…。

「それでね、ソフィ。私、やっぱりソフィといっしょに聖女をやりたくてお願い、した…のよ」

 ゆっくり、ゆっくりとエルは言葉を紡いでいく。 

「許可、もらえたから、いっしょに聖女、やりましょう。お願いよ」

 そう言ってエルは目をうるませ、上目遣いでお願いしてくる。

「え……?」

 私は困惑しながらも父様のほうを見て、助けを求めた。なのに…父様は視線を反らして無言で首を左右にふった。その行動で、これは決まったことなのだと悟ってしまった。

 これは…もう、決まったこと、なら……

「……わよ」

「え?」

「いいわよっ。とことんやってやろうじゃないっ」

 私はそう、大声で宣言していた。

 エルは一瞬びくっとしたあと……。

「う、うれしいわっ。それじゃあソフィっ。早速3日後迎えに来るわね!」

 とだけ言って部屋を出ていった。ほんと、騒がしいわね。悪い子ではないのだけど……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る