エピソード2.葵に咲く
傑「美晴クン」
美「はい?」
傑「昼間、ボクはキミと出会い、一瞬にしてキミを気に入った。そしてまたここで再開した…」
美「なんですか急に」
傑「これはもう運命と呼んで構わないよね…!?!?」
美「いや構いますねダメです嫌です運命とか」
傑「おやおや〜照れなくてもいいのだよっ」
美「いや照れてないですほんとに」
藤「主様…」(ドン引き)
(藤宮の方を見て)
傑「…ふむ…ボクはこの縁に感謝したいだけなのだよ。キゾクのボクと、一般人のキミがこうして知り合ったのも何かの縁。そうだろう?」
もあちゃん、客席に登場。
観客と一緒に椅子に座る。
美「そ、そうですかね…私に至っては偶然じゃない気もしますけど…」
傑「そうだともそうだとも!ボクとキミの出会いは縁に結ばれた必然なのだよっ!!紗希クンたちもそう思うだろう?」
藤「はぁ…」
竜『そうですね!』
傑「と、いうわけで…ボクらはもう糸で結ばれているということさっ☆」
棒読みに近い感じ↓
美「そ、そうですか〜じゃあそうかもですねー!…ところであのー、キゾクさん」
傑「なんだい?あと傑さん、でいいのだよ」
美「じゃあ傑さん、あの…さっきからすごく視線を感じるんですけど」
もあちゃんの方をチラ見する
傑「え、あ、キミは…」
も「あ!!スグル様じゃないですか〜!!お会いできて嬉しいですぅ!!もあたち運命ですよねぇ〜!!」
あ!!はつい今通りかかったかのようなわざとらしい言い方
傑「あ、ちょっと」
藤宮、ため息をつく
傑の腕に巻き付きながら
も「スグル様ぁ、この女誰ですかぁ?」
傑「えっと…」
美「私ですか?美晴っていいます!貴女は?」
も「へぇ…なんかダサいですねぇ」
美「え」
傑「キミ、失礼な物言いはやめたまえ…そして名前を聞かれているのだから答えようね」
も「はぁい!スグル様ぁ!あたしはもあ、スグル様のことを世界一愛してる女よ。スグル様と結ばれるのはもあだから、そこんとこよろしく♡」
あたしは〜から、急に声が低くなる。
よろしく、を強調
美「う、うん分かった…よろしくね、もあちゃ/
/も「ねぇスグル様ぁ〜今日は何をなさるんですかぁ?」
ここら辺から傑の言い方がカタコトに近くなる↓
傑「んーと…屋敷に帰ってアフタヌーンティーでもしようカナ…アハハ…」
も「えー!さっすがもあのスグル様ぁ〜優雅で素敵ですぅ♡」
傑「う、うん、だから今日はお引取り願えるカナ?」
も「えーもうお別れですかぁ?せっかく会えたのにぃ…あ!じゃあ最後に名前呼んでください〜!」
傑「も、もあクン」
も「きゃー!!ありがとうございますぅ♡また会いましょうね!スグル様ぁ♡今度は抱きしめてくださぁい♡」
もあちゃん、はける
傑「(盛大なため息)本当に嵐のような子なのだよ…」
美「あの…今の子は…」
傑「あぁ、彼女はボクの熱烈なファンさ。どうやらボクに本気で恋してくれているみたいで…嬉しいんだけども少し…こう…ね…」
美「な、なるほど」
傑「さて…もう時間も遅いし、解散としよう。暗いから送っていくよ」
美「いえいえ!!大丈夫ですっ!!」
傑「だが…」
美「ほんと!平気ですからっ!」
舞宙登場
ホ「あれ、君たちまだいたの?」
傑「舞宙」
美「ホストさん!」
ホ「やぁお嬢さん」
傑「キミたち…お嬢さんにホストさん、ってなんだいその呼び方は…」
ホ「あ」
美晴の方を向いて姿勢を正す
ホ「紹介遅れて申し訳ない。俺は片栗舞宙。知っての通り、クラブラズベリーで働いてるホストです。お嬢さんのお名前は?」
美「木五倍子美晴です!」
舞「美晴さん、素敵な名前だね」
美「ありがとうございますっ!」
傑「美晴クン、何も無理してそいつと付き合うことはないのだよ」
藤「木五倍子様には、まだそういうお店は早いかと…」
竜『わたしもそう思いますっ』
美「ちょっと!私ホストには行きませんよ!」
舞「え、美晴さん来てくれないの?」
美「え、あ」
舞「美晴さんが来てくれたら、俺めっちゃ嬉しくて頑張れると思ったんだけどな…」
美「いやあの」
舞「悲しいけど…無理強いはできないからね」
美「ちょ、ちょっと!!」
舞「なーんて、冗談だよ。ごめんね?」
美「は、よかった…よかったのか分かんないけど」
傑「お前…」
竜『かっこいいです!』
傑と藤宮、引いた目で見る
舞「やだなぁ傑、そんな目で見ないでよ。あと紗希さんもその目やめてね?ほのかさんはありがとう」
美晴、笑う
舞「美晴さんは周りのガードが硬いね。でも、そんなガード抜け出して、ほんとに俺の姫になってくれてもいいんだよ?」
美「え、でもわ、私まだお酒飲める年齢じゃないですし!!だから!!もう少し待ってください!!!!」
傑、藤「待つ…!??」
舞「そっか。…わかった、待ってるよ」
傑「ホストなんて行くもんじゃないのだよ美晴クン…」
藤「お金いくらあっても足りないと聞きますよ」
美「う、やっぱりそうですよね…」
舞「はは、無理はしなくて大丈夫だからね」
傑「まったく…。こんな年寄りの言うことなんて聞かなくていいのだよ」
美「え、年寄り?」
傑「こいつは葵家に初代から仕えて来た魔法使いなんだ」
美「え、魔法使い…!?え、え、魔法使いって魔法族の…!?魔法族ってあれですよね、昔からキゾクに仕えてきた不老不死の一族…」
舞「そう、でも訳あって魔法が使えなくなっちゃって。今は一般人と変わらないんだよね」
美「でも初代からってことは…えっと傑さんはたしか…」
傑「ボクは六代目だよ」
美「じゃ、じゃあ相当前…?」
舞「あ、美晴さん気づいちゃった?そう、俺二百歳超えなんだよね」
美「え、えええ!?二百歳!?」
舞「まぁ、それで傑の先祖さんたちとは主従関係だったんだけど…今は魔法が使えないから友達ってとこかな」
舞宙、傑と肩を組む
傑「鬱陶しいのだよ…本当に…」
傑、舞宙の腕を払う
舞「まあまあそんなこと言わないでよ」
舞宙、傑の頬をつつく
傑「ところで、お前ボクたちと会う前にどこか行ったか?」
舞「なんで?」
傑「なんか…臭う」
舞「え!?」
美「そうですか?甘い匂いはしますけど…」
傑「そのことを言っているのだよ」
舞「香水…なわけないか」
美「うーん…この匂いは百合とかですかね…」
舞「あぁ、百合?それならたしかにそうかも」
傑「百合って…舞宙、もしかして墓地に?」
舞「うん、だって今日は三代目の命日だろ」
傑「あぁ…そうだな」
舞「あの人は、俺の中でいろんな意味で一番だからさ。何年経っても命日は忘れないよ」
美「そうなんですね」
舞「そう、あの方は…革命戦争の時代の人だから。不老不死の俺を気味悪がって嫌ってたくせに、俺を庇って死んじゃった。俺が守る側のはずなのにね」
傑「舞宙…」
舞「魔法が使えるのに生身の人間を守れなかった、無能の魔法使い…。俺は今もずっとそれを後悔してる」
美「そんなことが…」
傑「痛ましい話だな…」
舞「それで俺、後悔を引きずりすぎちゃってさ。百年ぐらい魔法を使う気が起きなかったんだよね。で、いざ使おうと思ってみたら…」
傑「魔法が使えなくなってた、というのだろう」
舞「その通り」
美「後悔で魔法が…」
舞「そ。ほんと馬鹿だよね、俺」
全員、黙る
舞「って!!急にこんな暗い話しちゃってごめんね!」
美「いえ…!」
舞「…さてと、長話しちゃったし、今日はこれくらいでお暇しようかな」
傑「あぁ。早く仕事に行け」
舞「えぇ〜もう、酷いなぁ傑は」
一同、笑う
舞「じゃ、俺はもう行くね。話付き合ってくれてありがとう」
美「こちらこそ…!」
藤宮、竜胆、お辞儀
舞宙、上手にはける
美「ふぅ…」
傑「(大きなため息)まったく…暗い話を聞いたのだよ…。いくら痛ましい話とは言え、もう百年も前の話。今更どうこう言ったところでどうにもならんのだよ…やれやれ…」
藤「主様…」
傑「ボクはどうも昔の話は苦手なのだよ。話を聞いたところで、今が変わるわけでもない。なんのために聞くのか分からない」
同時↓
美「は…?」
傑「だいたい、先祖様は自ら舞宙を庇ったのだろう?なら死んでしまってもそれは自業自得…」
美「ちょっと」
傑「ン?」
美「そんな言い方、ないんじゃないですか」
傑「え…」
美「自業自得って、なんですかそれ。彼は舞宙さんを庇ったんです。嫌ってても守ったなんて、本当は大事な人だったってことです!!誰かのために身を呈すのはカッコいいです。それで果てた彼を自業自得?ふざけんなよ」
傑「み、美晴クン…?」
美「カッコいいキゾクを悪く言うのは許さない。貴方は絶対、そういうことできないでしょ!?変な格好して意味不明なことしかしない貴方がキゾクを名乗った瞬間、絶句しましたよ私。私の中のキゾクは少なくとも貴方みたいな人じゃなかった」
藤「木五倍子様、これ以上主様を…」
傑、藤宮を片手で制す
美「貴方みたいなキゾク、認めたくない。今の発言、許しませんから」
傑「すまない美晴クン。先人を軽んじた発言をした。キゾクのボクではなく、友のボクとして謝罪しよう」
美「友…?私、貴方と友になった覚えなんてありませんけど。…初対面のときから、ぐいぐい来たのは貴方です。私のこと、勝手に気に入って勝手に友だと呼んでるだけです。私は…私はそう思ったことなんてありませんから!!」
傑、呆気にとられ黙る
美「………失礼、します」
美晴、はけようとする
ここでアナウンス(音響)が流れる
ア「ここで速報です。ただ今国際連合より、現在存命のキゾク全員の処分が決定したと、日本法務省から報告がありました。先月、他国のキゾクが国家へ反乱を蜂起したことをきっかけに、全キゾクを危険分子と判断したことが決め手だったと報じています。これにより日本最後のキゾク、葵傑を処分対象とすることとなりました。繰り返します」
繰り返します、からだんだんボリュームを下げる
美晴、聞き終わったらはける
藤「主様…」
傑「……ボクは一人で思い上がっていたようだね」
藤宮、黙る
傑「このままでは最悪な別れになってしまいそうだ。しっかりと謝らなければ…」
藤「別れ…ですか。やはり収集に応じるのですね」
傑「あぁ…政府からの命令だからね。キゾクの、一斉処分」
キゾクの、で顔を上げる
藤「主様、今ならまだ逃げられます」
傑「逃げても、どうせ捕まって殺されるだけなのだよ。だったら自分から行った方がいいだろう。もうこの世界に…ボクの居場所はないのだからね」
藤「でも、このまま死ぬなんておかしいです!もっと、もっとなにか…!!」
傑「紗希クン。ボクは行くよ。でも、二人は逃げなさい」
藤「は?」
竜『そんなのダメですよ!』
傑「キミたちは一般人なんだ。ボクさえいれば、見逃してもらえるかもしれな/
/藤「そんなこと駄目ですよっ!!」
傑「紗希クン、ありがとう。でも…キミたちは死ぬべきじゃない」
藤「主様が向かわれるのなら、私たちも向かいます」
傑「あのなぁ、紗希クン。本来であれば、キミたちにまで収集がかかることはおかしな話なのだよ。キゾクではないキミたちが、命を無駄にすることはない」
藤「それを言うのなら、主様の命だって無駄にすることはありません…!だって私たち、何もしていないのですよ!?」
傑「…それでもボクはキゾク。収集がかかっている張本人だ。行かなければ追跡されて無惨に殺されるだけなのだよ。紗希クンはボクと逃げ、その果てに目の前でボクが殺されるところが見たいのかい?」
藤「…なぜそんなに行こうとされるのですか。なぜ自ら死にに行かれるのですか。今の主様を見ていると、死にたがっているようにしか見えません!!」
傑「そんなわけがないだろう!!!」
傑、藤宮を突き飛ばす
藤宮は地面にへたりこむ
傑「死にたいわけがないだろう……。生きたいに決まってる。…それでも、行かなければならない。行かなければならない理由がある」
藤「理由って」
傑「ボクは向かわせてもらうよ」
傑、一人ではける
途中、足を止めて振り返らずに
傑「言葉使いには、気をつけたまえ」
藤「どうして…。私たちが逃げないって、一番分かってるのは貴方でしょ…。………馬鹿みたい」
藤宮、泣く
竜『行こう』
竜胆、泣いている藤宮に手を差し伸べる
藤宮、その手をとって立ち上がり、手を繋いだまま二人ではける
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