第183話 ダギル・ダイナドー(1)
■ダギル・ダイナドー(34歳)
突然、王都に居る父から急ぎ王都の屋敷に来るよう指示があった。
しかも普通なら領地から王都まで一週間は掛かる所を、とにかく大至急と急かされ、強行軍で三日で移動させられた。
早朝から深夜まで馬車に揺られてヘトヘトになって王都にたどり着いたが、屋敷に着くなり親父から引退するから後を継げと言われたのだ。
非常に驚いたが、理由を尋ねても教えてくれない。黙って指示に従えば良いと言うだけである。
親父はいつもこうなのだ。
親父は王都で国防大臣をしており、その仕事が忙しいということで、俺が代官として領地の運営を任されているのだが、実際には何の裁量権もなく、何事についてもとにかく細かく報告をあげさせられ、父の指示を受けないと何もできないという状況であった。また、指示通りやったかどうかも、細かくしつこく確認されるのだ。代官というよりただのメッセンジャーボーイのような気さえしていた。
恐らく父は実権を全て自分で握って居ないと気がすまないのだろう。そして、細かく報告を求めるのは、自分で全て把握していないと心配で夜も眠れないという、小心の現れなのだろう。息子である俺すらも信用できず、家宰のウスター以外誰も信用していなかった。(ウスターに関しては、厳重な魔法契約でダイナドー家を裏切れないように縛っているのだそうで、身分は執事(家宰)であるが、ダイナドー家のために働く奴隷のようなものだと思う。確かに、奴隷ならば裏切られる心配はないな。)
それでいて、権力欲が旺盛で、細かい管理と相まって、気がつけば大臣の地位まで上り詰めていた。
だが、俺には一切、王都での、政界での情報や立ち回り方は教えてくれなかった。
口ではいずれ俺に後を継いでもらうなどと言っていたのだが、そうする気配は微塵もなく、当分は当主の座を譲らないだろうと思っていたのだが。
バタバタと手続きをし、王宮に代替わりを届け出て承認されると、親父は領地へ帰ると言った。
領地へ戻っても、領主をするつもりはなく、代官を別において、自分は領地の中でも自然が豊かな地域にある別荘に引っ込むと言うではないか。
これは、本気で隠居する気なのかと思ったが、侯爵としての業務について、例によって逐一細かく報告せよと言われた。都度指示を出すからそれに従えと。
一応引き継ぎはあったが、表面上の感が否めないと思っていたが、そういう事か。
これでは場所が領地から王都に変わっただけで何も立場は変わっていないではないか。
まぁ、親父にはとっと領地に引っ込んでもらおうととりあえず従うフリをした。形式上とは言え、俺が侯爵家当主になったのだ。徐々に実権を奪い、本当に引退させてしまえばいい。そう思ったからだ。だが…
領地に帰った父の訃報が折返し届いた。すぐに領地に飛んで帰ったが、何者かに殺されたらしい。頭部を何らかの武器で貫かれて即死であったそうだ。
一応、領地の騎士団によって犯人の捜査は行われたが、何者かが屋敷に侵入した気配は一切なく、何の痕跡も見つけられなかったと報告を受けた。
慌ただしく領地で葬儀を行い、王都に戻ってきてきた俺は、別の侯爵家が国防大臣に任命された事を聞いた。まぁ仕方あるまい。大臣職は世襲制ではないし、そもそも俺にいきなりそんな仕事を振られても、親父からは何も教わっておらず、何の知識もない状態なのだから。
その後、俺は執事のウスターから、侯爵家の運営について色々と指導を受けることになった。
それで、どうやら俺は、本当に何も知らされていなかったのだと思い知った。
引き継ぎにおいても、親父が権力を維持しておくために、裏の情報や重要な部分については俺に隠していたのだそうだ。だが、その親父が居なくなってしまったので、それを全て俺に引き継いでもらわなければならないとウスターは言う。
どうやらダイナドー侯爵家は、裏ではかなり悪どい事もしてきているらしい。だが、それはどこの貴族家も同じ、王宮も貴族も裏ではドロドロとした血塗られた駆け引きの世界だとウスターは言う。
俺は、一応貴族としての礼儀作法や教養等の教育は受けてきたが、それは一般的な教育に過ぎず。つまり、清廉潔白な表向きの運用しか教わってこなかったのだ。それが、急に侯爵家や貴族界、王宮での裏側の事情を色々と聞かされる事になり、なかなか頭がついていかない。
どうやら父が殺されたのも、色々と裏でやっていた悪行で恨みを持った者にでも殺されたのだろう。
ウスターから侯爵家には専属の暗殺部隊が居たという話も聞いている。ダイナドー侯爵家が暗殺部隊を持っているなら、他の家も当然持っているという。持たない者も、暗殺者ギルドという裏組織があり、そこに頼むという手もあるそうだ。
貴族界の勢力が頻繁に変わる時、その裏に暗殺合戦があるなど、よくある話なのだそうだ……。
そんな時、一人の冒険者が屋敷を訪ねてきたので遭うようにとウスターに言われた。
その冒険者は平民で、アポもなく突然やってきたそうだ。だが、ウスターが言うにはただの冒険者ではないとのこと。なんでも、長らく攻略されていなかた難関ダンジョンを攻略した、最近話題の冒険者らしい。
「私がダギル・ダイナドー侯爵だ」
「クレイだ」
俺は威厳を示す必要があるかと、ギロリとクレイを睨んでみたが、慌ててウスターが首を横に振っているので、すぐに止めた。
「ああ、済まないが、敬語は使えないが気にしないでくれ。冒険者はそういうものなんだ」
ウスターが小さく頷いている。まぁ、俺も領地で冒険者と関わった事もある。確かに連中は、そういうものだな。気にしても仕方がないだろう。
「それで、冒険者が何の用だ? ダンジョンで獲れた貴重な素材でも買い取って欲しいのか?」
「新しい侯爵がどんな人物なのか確認と……警告にきた」
「警告…?」
「そこに居る執事から聞いていないのか?」
まだなにかあるのか? と俺は呆れた顔でウスターを見た。
その冒険者がジロリと
……面白い!
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