第182話 ダイナドーの最後

どうしてこうなった? ダイナドーは自問するが、答えは出ない。いや、自業自得なのであるが、得てしてこういう人間は、自分は間違っていないと本気で思い込んでいるモノなのである。


つまり、自分は間違っていないが、クレイという悪人に理不尽に脅されて従うしかないという感覚であった。


ダイナドー 「まぁ、儂もそろそろ引退して、悠々自適な隠居生活に入るのも良いか。爵位は息子に渡すが、実質は儂が裏で操ってやれば良い事だしな」


もちろん、悠々自適な隠居生活など送らせる気はクレイにはない。こういう人間は、死ぬまで治らないのをクレイは理解している。反省したと謝っても、お仕置きが怖くて言っているだけなのだ。喉元すぎればまた元に戻る、そういうモノなのである。


ダイナドー侯爵は、急ぎ王都の屋敷に戻り、自領の運営を任せている息子を至急の用件だと言って呼び出した。


そして、理由は言わずに引退して爵位を譲ると伝えた。息子が来るまでに引き継ぎの書類は全て用意しておく。肝心な部分は自分で握ったままにしてあるが、大部分は引き継ぐ。


王宮に届け出て、承認され、無事代替わりを終えたのはクレイの与えた期限一ヶ月ギリギリであった。


そして、別荘に移り悠々自適な生活を送りながら、裏から息子が継いだ新侯爵家を操る気満々であったダイナドーのところに、最後の手紙が舞い落ちる。


それを読んだダイナドーは話が違うと青い顔になったが、その直後、頭を撃ち抜かれダイナドーは息絶えたのであった。


話は違っていない。最初からクレイが言った通りに実行されただけである。お仕置きをした上で、処刑する、と。これ以上苦しめず、一瞬で殺してやったのがクレイの温情であった。


また、家を潰さずに引き継ぎをさせてやったのも温情でもあったのだが、これは、王や宰相の思惑通りに動く(貴族を減らす手伝いをさせられる)のがちょっぴり気に入らなかったという捻くれた理由もあった。


だが王宮側も海千山千。ダイナドー侯爵家の突然の代替わり、そして前ダイナドー侯爵の死去の報に驚きはしたが、貴族のお家騒動などよくある話。まぁ薄々はクレイが裏で関わっている事は察してはいたがそこはスルーし、この機を逃さず、ダイナドー家の権限・利権を根こそぎ剥奪してしまったのであった。


裏事情をほとんど何も知らされていなかった新ダイナドー侯爵には抵抗する事もできず、侯爵家は大幅に影響力を失ってしまったのであった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る