第169話 捕獲完了
バイガも頭を出して廊下を覗いて見たが、確かにハタン以外、誰も居ない。
バイガはハタンに廊下の先も見てくるように指示した。
ハタンは警戒しながら廊下の少し先まで歩いて確認するが、誰も居ない。
ハタン 「誰もいやせんぜ?」
バイガはハタンにそのままドアの前で見張っていろと命じ、室内に戻った。
バイガ 「……クソ、何かおかしい。
コレはヤバイ空気だ。
お前達、警戒しろ」
そう言うとバイガは近くに居た女子生徒を手繰り寄せ、背後に回ると短剣を首に突き付けた。それを見習って他の男達も次々と近くの生徒を引き寄せて武器を突きつける。こうして人質の子供を盾にしておけば、いきなり攻撃を受ける事はないだろうという計算である。
緊張感が高まる室内。
その時、バイガの背後でガチャンと音がした。
* * * *
■別の空き教室
クレイは倒れた三人の死体を転移で片付けた。行き先はダンジョンの中である。クレイの管理するダンジョン=ペイトティクバの中に閉鎖された空間を作り、そこに送り込んだのである。(犯人二人の脳髄の転移先も同じ場所である。)
だが、死体は消えたが、最初の男の流した血が廊下に残ってしまっていた。クレイがそれに気付いた時には、ドアはすでに開き始めていた。ただ幸いにも、犯人はドアをいきなり開けず、声を掛けて確認しようとしたので見られずに済んだのであった。クレイは大急ぎで血痕も転移で消し、自身も少し離れた空き教室に転移で移動した。
改めて犯人の居る教室内をマップで確認する。室内に無数に表示される丸印。おそらく窓際に並べられているのは人質であろうと推測できる程度で、どれが犯人でどれが人質なのか正確には分からない。室内に入って人質と犯人を識別する必要がある。
少し考えて、クレイは室内にあった花瓶の下に転移魔法陣を投影した。そして、花瓶は消え―――犯人が居る教室内の角部分に現れる。
空中、かなり高い位置に出現した花瓶は、当然、床に落下し、大きな音を立てて割れた。
* * * *
■教室内
突然花瓶が割れる音がして、ビクリとする犯人達。犯人達は(そして人質達も)一斉に音のしたほうを見た。
バイガは瞬間的に身を翻し、音がしたほうに抱えていた人質を向け盾にする。だが、そこには誰もおらず、花瓶が床に落ちて砕けているだけだった。
バイガ 「……なんだってんだ?!」
モス 「花瓶が倒れて割れたみたいだな」
バイガ 「……花瓶なんかあったか?」
モス 「さぁ? あったから落ちて割れたんだろ?」
バイガ 「
人質をぐるりと見回すバイガ。人質の生徒達は青い顔で首を横に振っていた。
人質を疑っては見たバイガであるが、しかし人質は縛られているし、花瓶は人質からは離れた場所で割れている。
バイガ 「…単に不安定な置き方されてた花瓶が落ちただけか…?」
だが、その時、子供達の影に妙な人間が居るのにバイガは気付いた。クレイである。
クレイは花瓶を落とした場所と対角の隅に転移で移動してきたのだ。大きな音がすれば当然、犯人はそちらの方向を見る。その隙に室内に転移したというわけである。
ただ、計算外だったのは、室内の人質は全員子供であったのだ。その中に大人のクレイが増えればすぐにバレてしまう。慌てて子供達の背中に隠れて小さくなったクレイであったが……
バイガ 「お前誰だ?! どっから入ってきやがった!!」
バレてしまっては仕方がない。ゆっくりと立ち上がるクレイ。
バイガ 「動くんじゃねぇ! これが見えねぇか?!」
クレイ 「何を見ろと?」
バイガ 「ガキを殺すぞ……あ?」
だが、バイガの手の中にあったはずの短剣はいつのまにかなくなっていた。
クレイが武器だけ転移で奪ったのである。他の犯人達が持っている武器も転移で消し去り……
…続けて犯人達自身も消えて行った。
クレイ 「おっと、もう一人居た」
バイガが叫んだのを聞いて、ドアから覗き込んでいたハタンもダンジョンに飛ばしてやる。
最初に三人殺してしまったが、冷静に考えるとあれが本当に犯人であったのか、確認すべきであった。まぁ、多分間違いないが、しかし何らかの理由で学校の職員などが廊下で手伝わされていたという可能性だってあったのだから、もう少し慎重にすべきであったとクレイは反省したのだ。
そこで、残りの七人は、殺さずにダンジョンに閉じ込めることにした。もし、犯人以外の人間が混ざっていても、閉じ込めておくだけなら問題ない。
後でまとめて騎士団に引き渡して確認してもらえばいい。
そもそも、いちいち確認せずに、マップを見ながら人質ごと全員を転移させてしまえば良かったのだ。ダンジョンの部屋は無限に作れるのだから、一人ずつ個別の空間に閉じ込めてしまえば、人質も犯人も隔離できる。
クレイ (……しかし、数百人を小部屋に一人ずつ転移するのは骨だし、後で一人ずつ確認しながら解放するのも大変か?)
やはり、事前に確認できるならしてからの方が良いかも知れないと思い直したクレイであった。
さて、次は地下である。
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