第170話 犯人を引き渡して全て終了

犯人達が立てこもっていたのは最上階の教室であったが、そこに人質として囚われていたのは幼い子供、低学年の生徒ばかりだった。


(※この国では、貴族の子女は十二歳から十八歳までの六年間、王都の貴族学園に通う事が義務付けられているが、十二歳以下の子供は希望すれば幼稚舎・小学舎に通う事が可能なのである。地方の貴族はあまりしないが、王都に居る貴族は子供を幼いうちから通わせている事も多い。)


十五歳で成人と認められる国なので、十七~十八歳の生徒となれば体も大きくもう立派な大人と言える。テロリストたちは抵抗されると厄介な体の大きい高学年の生徒と教師・職員、それから泣き喚かれると困るので幼過ぎる子もまとめて地下の倉庫に閉じ込め、小学舎の子供ばかりを人質にして立て籠もったのだ。


クレイはマップを見て、最上階と地下に人間が大量に居るのが分かっていた。そこでまず、犯人の首謀者が居そうな最上階から攻略したわけである。地下と最上階は離れているので、順番に攻略しても気付かれないだろうと踏んだのだ。


予定通り、最上階で犯人達を全員飛ばした・・・・クレイは、次に地下階へと向かった。


マップには、地下室に大量の人間が居る表示があるが、その廊下にも数人の人間が居る事が示されている。最上階と同じように、廊下に見張りが配置されているのだろう。


クレイは別の教室にあった花瓶を持ち、廊下の端に転移で投下した。そして花瓶が割れた一瞬後に廊下の反対側に自身が転移で移動する。


花瓶が割れた方を見て、クレイに気づかない男達。見れば、体格、服装……手には武器。どうみても学校の職員ではなさそうである。


犯人の可能性が高い事が分かったので、即座に転移開始である。まず、武器だけ亜空間収納に直接転送、そして、犯人達の身体をダンジョンに作った空間に転送した。(二度目なのでクレイも先程より少し手際が良くなっている。)


次に、室内の様子を伺う。マップに表示されるマークは偏りなく室内に散っている。また、ドアには南京錠が掛けられている。この様子なら、おそらく室内には犯人は居なさそうであるが、一応警戒はしておく。


南京錠を転移で外し、そーっとドアを開けてみるクレイ。


ドアの傍に居た男が気付いて振り返った。大人なので生徒ではなさそうである。


クレイは男に騒がないよう人差し指を口に当て、小声で中に犯人が居ないか尋ねてみたが、予想通り、中には人質しか居ないという事だった。


廊下に居たテロリストは四人だったが、他に仲間が居なかったか確認してみたが、地下には犯人は四人しか来ていなかったそうなので、やっと一安心と言う事で、クレイはドアをガラガラと大きく開けた。


地下室は他にいくつかあり、分散して人質が閉じ込められているらしい。


後の救出は職員と生徒達に任せる事にして、クレイは事件解決の報告に王宮に戻る事にした……のだが、王になんと報告しようかと考え始めて、クレイは転移を思いとどまった。


事件解決は良いが、当然、ダンジョンに捕らえている犯人達を引き渡す必要がある。だが、転移能力を秘密にしたまま、どうやって引き渡せばいいのか…?


ダンジョンに居ると正直に言う事はできない。言えばどうやってそこに送ったのかという話になる。


方法については委細問わないと約束してもらっているとは言え、それでは転移能力がバレバレになってしまうだろう。ダンジョン管理者の特殊スキルだと言い張るか?


少し考えて、マジックバッグに閉じ込めたという言い訳を考えついた。これはあながち嘘ではない。ダンジョンというのは、そもそも亜空間内にあるのだ。魔法による亜空間収納と同系統の空間魔法なのである。


ダンジョンの管理者になった事で、その空間魔法の能力が強化されたとでも言えば……、もともとクレイはマジックバッグを製造販売していた経歴もあるので、なんとか誤魔化せそうな気がする。


ただ、“収納” してあるとは言え、テロリスト達を拘束してあるわけではない。出した瞬間暴れだす可能性がある。一応、武器は別の亜空間に収納してあるので丸腰ではあるのだが、騎士を用意してもらって、一人ずつ出して捕縛していってもらう必要がある。


クレイ 「……なんか面倒だな」


…………チーン。クレイは名案を思いついた。目の前にある、人質が閉じ込められていた地下倉庫である。生徒や教師達は皆外に出て、そろそろ空になろうとしている。そして、クレイの収納の中にはまだ先程外した南京錠が入っている。


クレイは人質が全員出たのを確認すると、扉を閉め南京錠を掛け、騎士団を呼びに行った。




  * * * *




学校を取り囲んでいる騎士団は、校舎の中から生徒達が出てきたのを見て、ざわめき始めた。


ジャクリン 「どうした…? 犯人が解放してくれたのか?」


※王宮騎士団長であるジャクリンも当然現場に来ていた。


すると、生徒達を掻き分けながらジャクリンの見知った者がやってくるのが見えた。それを見て、ジャクリンは事件が解決したことを理解したのであった。


騎士 「止まれ! 何者だ?!」


ジャクリン 「ああ、いいんだ、そいつは私の知り合いだ。クレイ! こっちだ」


クレイ 「……どうも」


ジャクリン 「なるほど、お前が解決したのか」


クレイ 「犯人は地下に閉じ込めてありますので、捕縛をお願いできますか、騎士団長殿?」


騎士達とジャクリンを連れ、クレイは地下倉庫に行く。そして、ダンジョンの中に閉じ込めていたテロリスト達を倉庫内に転移させた。(先に転移させておくと暴れるのではないかと思い、直前に転移させる事にしたのだ。地下室の扉は、鍵が掛かっているとは言え、攻撃魔法でも浴びれば壊れてしまいそうで心配だったのだ。)


クレイ 「後は騎士団に任せてまえば、後は俺は何もする必要がない。我ながらなかなかナイスアイデア」


ジャクリン 「心の声が漏れてるぞ…」


クレイが鍵をどうしようかと迷っているうちに、騎士達は鍵を壊し中に突入してしまった。犯人達が暴れるかも知れないと戦闘準備をしての突入であったが、テロリスト達はヘロヘロで抵抗する力はなく、拍子抜けであった。


クレイ 「あれ……? もしかして、酸欠?」


クレイがテロリスト達を閉じ込めたのは、ダンジョンの洞窟型フィールドの中に作り出した “空洞” であるが、出入口は作っていない。転移で出し入れする前提であったため、通路など一切繋げていないのである。空気穴もない、それほど広くない密閉空間に十数人の人間を閉じ込めたら、酸欠になるのは当然であろう。


じっとしていればもう少し持った・・・と思うが、テロリスト達は大声を出して騒ぎ、脱出しようとして暴れたため、早く酸素を消費してしまったのであった。


(※通常の洞窟型ダンジョンなら光る石や苔などを配置してある事が多いが、そんな親切なモノは設置していないので、完全な闇でもある。それが余計に恐怖心を煽り、冷静さを欠いたのである。)


クレイ 「なるほど、今後、人間を閉じ込める必要があった場合は、忘れずに空気穴をつけるようにしよう……そんな機会がそうあっても困るが。


まぁ、逆に、死んでもいい相手の場合は、そのまま埋めとけばいいな…」


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