第168話 潜入!

勢いで引き受けてしまったが、このような捕物の依頼を受けたのは初めての事である。クレイはダンジョン内で魔物を狩る以外の活動はほとんど経験がないのである。


だが実は、クレイにはダンジョン攻略中から温めていた技があった。それは、魔導銃を使わない攻撃方法である。まだ検証が十分ではないが、ある程度行ける目処は立っていた。


まずは、学園内部のマップを見ながら、人が誰も居ない部屋を選び、クレイは転移した。


そこでもう一度、学内の間取図マップを確認する。


妙に人が大勢居る部屋が地下にある。人質が押し込められているのだろうか。その部屋の外の廊下に何人か人間が居る。これは見張り、つまり犯人達ではなかろうか。


さらに、校舎の最上階の一つの部屋にも人間がいる。こちらは切れ目なく窓際に人間が並び、中央に数人の人間が居る。犯人は人質を盾にしたと伝令騎士は言っていた。人質の生徒達を部屋の周囲に並ばせ盾とし、自分達は中央に陣どっているのだろうとクレイは予想した。


最上階の部屋の外の廊下にも何人か人がいるようである。犯人の仲間が見張りをしているのだろう。


まずはクレイは廊下に居る見張りを片付ける事にした。見張りの居る廊下に続く別の廊下に転移し、曲がり角からそっと見張りの様子を覗き見るクレイ。


マップ上に表示されているのは小さな丸印だけなので、予想は立てたが本当にそうであるか、ちゃんと見て確認する必要があったのだ。


結果、犯人で間違いなさそうなので、クレイは早速攻撃に移る事にした。


クレイが亜空間収納から取り出したのは、小さな “爆弾” 。クレイがヴァレットの屋敷の書庫で見つけた、曽祖父の魔導具のコレクションの中にあった最初期型の魔導銃の薬莢部分を改造して小さな爆弾にしたものである。


大した破壊力はない。仮に手の中で爆発しても、強い痛みはあるが、大怪我まではしない程度である。


だがこれを、体内に【転移】で送り込み、内側から爆発させれたらどうなるか?


ダンジョンの中には強力な鎧を纏ったような魔物も多数存在していた。とりあえずダンジョン攻略は、その鎧を撃ち抜けるよう魔導銃の破壊力を上げる方向で力尽くで成功させた。


だが、破壊力が強すぎる武器は使い所が難しい。そこで、後に、もっと小さなエネルギーで相手を倒せる方法はないかと考えるようになったのだ。


いかに強力な鎧のごとき外骨格を持つ魔物であっても、内部から内蔵を直接破壊されたらどうしようもないだろう。特に、臓器の中でも一番強度が弱そうなのは “脳” である。それを破壊するのには、大した破壊力はいらないだろう。


クレイは魔物に対して使う事を想定していたが、対象が人間であっても同じである。


クレイは超小型爆弾のピンを抜くと、床に置き数秒待つ。爆弾は手榴弾方式で、起動レバーがはずれると10秒後に爆発する仕組みとなっている。失敗して床の上で爆発しても大した被害はないので、ギリギリまで待つ。


クレイは7数えたところで転移魔法陣を爆弾が置いてある床面に投写する。転移先魔法陣が浮かび上がっているのは、廊下に立っている男の “頭蓋骨の中” である。


8~9のタイミングで爆弾は転移され消え、廊下の一番手前側に立っていた男が倒れた。倒れた男の目は飛び出し、目・耳・鼻から血が吹き出している。倒れる直前、ブッという小さな音がしたが、それは爆発音だったのか、男が血を吹き出した音だったのかは分からない。 


だが、ここでクレイは失敗した事に気付いた。狙い通り、男を殺す際にはそれほど大きな音はしなかったのだが、倒れた拍子に男が持っていた剣が床にぶつかり、大きな音をたててしまったのだ。


その音を聞きつけて、廊下に居た残り二人が倒れた男のほうを振り返る。


だが、二人が声を発しようと口を開きかけた瞬間には、二人とも絶命していた。


クレイがとっさに転移を発動したのだ。ただ、頭の中に爆弾を放り込む余裕はなく、クレイは二人に向かって直接魔法陣を投写。二人の脳髄をまるごと直接転移で抜き取ってしまったのである。


やっぱりコレで良かったな、と思うクレイ。爆弾は必要なかったのであった。薄々そんな気はしていたが、手榴弾式の小型爆弾を作るのに結構苦労したので、どうしても使ってみたかったのだ…。


さらに、倒れた時に大きな音がしそうな武器や防具なども全て転移で奪い取った。(相手の持っている武器や身につけているモノを転移で奪う。これは以前から何度も実験していて、かなり上達していた技である。)


ギリギリのタイミングであったがなんとか間に合い、二人が倒れた時には肉体が床にぶつかるドサッという鈍い音だけで済んだ。


だが、やはり音が聞こえてしまったのか、ドアが開き、室内から声が掛けられた。




  * * * *




■教室内


テロリスト達は、外から魔法などの攻撃を撃ち込まれないよう、生徒達を縛り、窓際に一列に立たせている。


室内に居るテロリストは7人。リーダーの名はバイガと言った。


バイガは偶々、比較的廊下に近い位置に立っていたため、クレイが見張りの男達を倒した時、その音が聞こえたのだ。


バイガ 「ん? 何か音がしなかったか?」


ドアの前に立っていたハタンが頷く。


バイガ 「確認しろ」


ハタンがドアを少しだけ開け、廊下の様子を伺う。


ハタン 「おい、ベン? どうした? ベン?」


廊下に居るはずの仲間に声を掛けるが返事がない。


バイガが顎で合図する。ハタンはドアを大きく開けてみる。


一瞬待ってから、ソロソロ頭を出して廊下を確認してみるハタン。だが、そこに居るはずのベン達の姿がない。


ハタン 「ベン達はどこにいったんだ?」


廊下に出てキョロキョロ見回すハタン。室内からバイガが問いかける。


バイガ 「どうなってる?」


ハタン 「ベン達が居ません…」


バイガ 「どういう事だ?」


ハタン 「さぁ…? 小便にでも行ったんですかね? ベンだけに…」


バイガ 「くだらねぇ事言ってんじゃねぇ」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る