第164話 黒幕は

王 「……なんじゃと?」


クレイ 「もう何度も襲われました。まぁなんとか今のところは生き伸びておりますが」


ブランド 「なんと…!」


クレイ 「今後も暗殺者に狙われ続けるのも堪らないので、黒幕を突き止めて反撃したいのですが、相手の正体が掴めないのです」


王 「よかろう、宰相。クレイを暗殺しようとしている組織、そしてそれを指示した黒幕についても直ちに調査せよ」


宰相 「御意。王宮の諜報部隊に指示を出せば、すぐに答えは出るでしょう」


クレイ 「ああいえ、その、大丈夫なんですがね。いずれ自力で突き止められると思いますので…まぁ多少時間は掛かるかも知れませんが」


※待っていればそのうち【ザ・ワールドレコード】から情報を取り出せるようになる。そうすれば黒幕に繋がる確実な情報も手に入るはずである。この国の法的に認められる証拠ではないが、クレイは自分が確信を持てればそれで十分なのであった。


正直に言えば、クレイはこの国の法と裁きにはあまり期待していなかったのだ。むしろ王家の調査が入り、法に乗っ取った裁きを受けさせるという流れになるのは、自分でさっさと報復しようと考えていたクレイにとっては少々迷惑にさえ思える。


だが、王も引き下がらない。


王 「いや、暗殺者を甘く見ないほうが良い。解決できる前に殺されてしまっては元も子もないぞ? これまではうまく生き延びられたかも知れんが、今後も(暗殺が)続くとなると、万が一という事もある」


クレイ 「それは……まぁ…」


宰相 「王家の諜報部隊は優秀だ、信じてもらってよいぞ。お主も何か情報ソースを持っているようだが、別角度からの情報があれば、より真実が見えやすくなるやも知れんぞ?」


クレイ 「それはまぁ、そうですね…。それでは、何か分かりましたら教えて下さい…


…実は、なんとなく、犯人に心当たりはあるのです、証拠はないのですが…」


宰相 「聞こう」


クレイ 「実は先日、とあるお貴族様・・・・に呼ばれまして。雇ってやると言われたのですが、丁重にお断りしたのです」


王 「ほう、誰じゃそれは?」


クレイ 「ええっと、あれ、なんだっけな……確か、ダイ……ダイなもん…そうだ、ダイナドー! ダイナドー侯爵だ! …デス」


それを聞き、呆れた表情で顔を見合わせる王と宰相。


ブランドも顔を顰めていた。ダイナドーは以前からヴァレット家を何かと目の敵にしていたからである。


ジャクリン 「なるほど、ダイナドー侯爵ならやりそうだ」


クレイ 「…まぁ、断定できる証拠はないのですが。本人を問い詰めても惚けるでしょうしね。


まぁ、本当に無関係だったら拙いので、確証・・を探しているところです」


王 「……実はな。数日前、ダイナドーが儂のところにやってきてな」


目を見開くクレイ 「…え?」


宰相 「私も立ち会ったが、侯爵曰く『ダンジョンを攻略した冒険者に謀反の恐れ有り』と言い出してな…」


王 「クレイの存在はこの国にとって、王家にとって非常に危険だ。王命にて討伐命令を出すべきだ、などと言っておった」


クレイ 「謀反など……そんな事に興味はありませんが」


王 「分かっておる。そもそも『謀反の恐れ』だけでまだ何もしていない者を討伐などできようはずもない」


宰相 「謀反を計画しているよほど明確な証拠でも無い限り、実行前に捕らえるのは難しいな」


王 「だが、ダイナドーは、人間に害を及ぼす魔物であれば、被害が出る前に駆除するのは当たり前だなどと言いおってな」


クレイ 「…俺は魔物扱いか」


宰相 「侯爵は危険性を実体験したと言っていてな。なんでも、その者は侯爵の屋敷に乗り込んできて騎士達を打ちのめしたあげく、魔物を召喚し屋敷を汚し、侯爵を脅しつけて帰って行ったのだとか…」


クレイ 「…ああ…まぁ…、それは、事実ですけどね…」


宰相 「ほう? ダイナドー侯爵はその冒険者に、


『ダンジョンの深層にいる高ランクの魔物を王都内に放って壊滅させてやる』


と言って脅されたと言っておったぞ。


『貴族だろうが王族だろうが自分を止められる者などない』


と、酷く傲慢不遜な態度であった、とな」


クレイ 「……それで、その冒険者・・・・・は侯爵を脅して、何を要求してきたと?」


王 「それは……はて? なんと言っておったかな?」


宰相 「侯爵は危険だと言うばかりで、それについては何も言っておりませんでしたな」


クレイ 「その冒険者は『自分に手を出すな、関わるな』と言っただけですよ。『王都を壊滅させる』なんて言った覚えもないし……まぁ『侯爵の屋敷に魔物ゴブリンを大量に放り込んでやろうか?』とは言いましたがね」


王 「……そんな事が可能なのか?」


クレイ 「ダンジョンの管理者ですからね。それに、そもそも俺が侯爵の屋敷に行ったのは、侯爵に呼ばれたからですし? 俺が暴れたのは、地下牢に閉じ込めて拷問に掛けて言う事を聞かせようとしたからですからね?」


王 「なんじゃと?!」


ルル 「そんな事があったにゃんて」

リリ 「知らなかったにゃ」


クレイ 「ああ、その日のうちに解決して帰ってきたからな」


クレイ(王の方を向き) 「侯爵の屋敷の地下には拷問部屋があり、マッチョな専属拷問官まで居ましたよ」


ジャクリン 「侯爵らしい悪趣味だな」


クレイ 「いつもそうやって平民に無理強いしているんでしょう。それは貴族と言えども法に反する行為じゃないのかと尋ねたのですが、法律は貴族を守るためにあるのだから問題ないと嘯いていました」


王 「ううむ…。貴族の都合に合わせて法律を捻じ曲げる事など許されん、が、現実にはそんな風に考えている貴族も多いのも事実だろうな……


儂の不徳のなすところじゃ、誠に申し訳ない…」


王 「それにしても、最近のダイナドーの言動は目に余るな。宰相、ダイナドーの力を削げないか」


宰相 「クレイの証言を以って罰する事は可能でしょうが、冒険者や平民に多少無茶な要求をした程度では、失脚させるまでの材料にはならないかと…」


王 「いっそクレイに潰してもらうか?」


宰相 「それもいいかも知れませんな」


ルル 「それがいいにゃ」

リリ 「いやだめでしょ」


クレイ 「貴族・王族の勢力争いに利用されるのはちょっと……


まぁ、暗殺者をけしかけて来た黒幕が判明したら、その者にはきっちり報復をさせて頂くつもりですが」



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