第163話 困ったこと…

王 「…だが、クレイよ。お主への褒美なのに、お主自身にとっては益のない話ばかりだな? お主個人として、何か望むモノはないのか?」


クレイ 「…特にはありませんね。私は、冒険者をしながら旅をしたり、趣味に興じたり、何者にも縛られず、のんびり自由に生きられるのが何より幸せだと感じておりますので。


幸い、それができるだけの資金もありますので、欲しいモノというのは、今は特に思い浮かびません」


宰相 「欲のない事だ。あまりに無欲であるのも、信用されないぞ?」


王 「いや……儂にはこの者の言ってる事がよく分かるぞ。何者にも縛られず、のんびり自由に生きる。これほどの贅沢はあるまい?」


宰相 「……だがなクレイよ、ダンジョンを攻略するほどの実力者を、周囲は放っておかないと思うぞ? 貴族達が寄ってたかってお主を配下に置こうとするだろう。それで面倒な事になるくらいなら、爵位をもらい、王の庇護下に入ったほうが楽かも知れんぞ?」


クレイ 「いえ……もし、どうしても煩わしくなるならば、私の事を知る者の居ない、どこか別の国にでも行きます」


それを聞いた宰相は渋い顔をし、王を見た。


王 「クレイよ、ぶっちゃけて言ってしまうがな。お主に国を出て欲しくないのだ。だからこそ褒美を与え、爵位を与えて縛ろうとしているのじゃ」


クレイ 「それ、本人に言っちゃいけない話では…」


王 「実はここだけの話、儂は腹芸が苦手での」(笑)


王 「それに、お主のようなタイプには、腹を割って正直に話したほうが良かろうと思ってな。


国としては、優秀な冒険者には、国内に留まってほしいのが本音じゃ。


とは言っても、お主を縛れるとは思っておらんし、縛ろうとも思わんがな。最悪でも、お主と敵対関係になる気はない。そして、もし可能であれば、国難の時には手を貸してくれればありがたいと思っておる」


クレイ 「…国外旅行を禁じられても困りますが、ヴァレットは、私の生まれ育った故郷です。ヴァレットのある祖国に何かあれば、力になる事は吝かではないです」


王 「そうか。助かる。…そうだ、良い事を思いついた。王家から “お墨付き” を出そうではないか。『この者に一切手出し無用』とな。もし本人の意志を無視して強引に召し抱えようとした場合は、王家を敵に回すと思えと、国内の貴族達に通達を出し徹底させよう」


クレイ 「…そのような事がもし可能であれば、ありがたい話だと思います」


王 「うむ。宰相、用意いたせ」


宰相 「御意。


…ではクレイ、これを持っていくが良い。王家発行の身分証明書だ」


王は思いつきで言ったていなのに、何故既に身分証が用意されているんだよ? と心の中で突っ込みながら受け取った身分証は、ギルドカードによく似ているが、表面に王家の紋章が刻まれていた。


宰相 「【これを持つ者への手出しは一切無用】という “ただし書き” 付きだ。魔力紋を登録すれば本人以外使用不可、偽造不可の代物だ」


クレイ 「偽造不可……?」


宰相 「なんだ?」


クレイ 「あー、とてもありがたい話なのですが、それはもしかしたら、役に立たないかも知れません…」


宰相 「王家の後ろ盾など不要か? まぁ確かに謀反を企てているような貴族であれば無視するかも知れんが…」


クレイ 「いえ、そうではなくてですね、私が家から出た経緯をご存知ならば、私の体質もご存知かと思いますが…」


宰相 「体質?」


クレイ 「私は生まれつき魔力がない体質なのです。そのため、魔力紋の登録がうまく行かないのです。冒険者ギルドの身分証明書も、それで一部エラーが出るので、トラブルになった事があるのですよ」


宰相 「それならば大丈夫だ。このカードは魔力紋だけに頼っているわけではない。血を垂らすと、その血の中に含まれている情報を登録するようになっておるそうだ。どういう理屈なのかまでは詳しくは知らんがな」


王家発行の身分証明書は、残念ながら戦争奴隷達の分までは用意できないとの事であったが、ルルとリリの分までは用意してくれたと言う。


二人はそれほど多くはないが魔力が普通にあるので、魔力紋の登録が普通に有効なはずだが、クレイを真似して血を垂らして登録していた。


王 「魔力がない体質という事は、魔法が使えんという事ではないのか? それでよくダンジョンを攻略できたな?」


クレイ 「魔法は使えませんが、別の方法でなんとかやっています」


王 「ほう! どのような方法なのじゃ?」


宰相 「ミト王様、冒険者の強さの秘密は探ってはならないのがルールですぞ。秘密が漏れる事で、その者の命に関わる事もありますからな…」


王 「詳しく話さなくても良いが、なんとなくでいいから、教えては貰えんか?」


クレイ 「う~ん……まぁ、少しだけヒントを言うならば…私は先程言った通り魔力がないので、生活魔法も一切使えなかったのですが、父が色々と魔導具を揃えてくれて、なんとか普通に生活できるようになりました。それから魔導具に興味を持つようになりまして…。私は魔力がない代わり、かどうか分かりませんが、魔導具を作る才能スキルを授かっていた事が分かったのです」


宰相 「ほう、魔法陣を道具に刻む【職能スキル】を授かっていたという事か?」


クレイ 「そのようなモノです。名前が違ったので最初はよく分からなかったのですが、後にその使い方が分かったのです」


王 「なるほど、魔導具を開発して魔法の代わりに使っているという事か! どんな魔導具を作れるのだ?」


宰相 「確か以前、ヴァレット家から王家に魔導具が献上されておったはず。確か、先から火の魔法が出る杖であったと報告を受けている」


クレイ 「ああ、初期型の魔導銃ですね。ダンジョンの攻略には、それを改良したものを奴隷達に持たせました」


王 「なるほど…! 他にはどんなモノを?」


クレイ 「それ以上は……冒険者の秘密となりますので、ご想像におまかせ致します」


宰相 「ううむ、興味は尽きないが、無理に聞き出す事もできぬか。しかし、ダンジョン踏破を成し遂げた事を考えれば、“魔導具” も侮れないという事になりますな」


王 「うむ。ところでクレイよ、一つ言っておきたい事がある。それは、王家はお主の味方だと言う事じゃ。何か困った事があったら国を、王家を頼って欲しい。できる限りの協力を約束しよう。


奴隷解放や身分証程度の褒美で、ダンジョンの問題を解決してくれた事の恩が返せたとは思っておらぬでな


先程、優秀な冒険者を国内に留めおいて利用したいとは言ったが、それ以上に積極的に力になりたい、良い関係を築きたいと思っておるという事じゃ」


クレイ 「…そうですね、お互いに助け合える関係が築ければ、それは良い事だと思います」


宰相 「今現在、何か困っている事などないか? あれば相談に乗るぞ?」


クレイ 「特には……


……ああ、ひとつありますね。実は…暗殺者に狙われていまして」


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