第162話 褒美は…

宰相 「金額でないなら爵位が不服か? 平民の冒険者からの取り立てであれば、本来なら准騎士爵当たりから始めるのが普通だ。それをいきなり男爵位を与えられるのは破格の扱いなのだぞ?」


クレイ 「いえ、そうではなくて……逆です。いささか失礼ではございますが、爵位についてははっきりと辞退させて頂きます」


宰相 「なんと、王命を断るのか」


クレイ 「先程、『私さえ良ければ…』と王はおっしゃっていましたよね…?」


王 「ふっふっふっ、左様。お主さえ良ければ、じゃ。強制ではない…」


ブランドはほっとした表情をし、宰相はがっくりと項垂れた。


王 「良かろう。褒美は何か別のものを考えよう」


こうして王との謁見は終了したのだが、そのままクレイ達は王の執務室へ呼ばれた。


今度は非公式、国王の個人的な会合ということであった。


部屋に入ると、クレイの叔母ジャクリンも居た。いや、ジャクリンは王宮騎士団長なので、護衛として居てもおかしくはないのだが……


王 「王家の盾、ヴァレット家集合じゃな」


クレイ 「……?!」


宰相 「隠さなくとも良いぞ。クレイ、お主がヴァレット卿の実の息子である事は知っておる」


クレイはブランドの顔を見た。


王 「別にブランドが漏らしたわけではない。王家は各貴族家の家督争いなどについてもすべて調査し、把握しておるのじゃよ」


宰相 「お主が叔母ジャクリンに殺されそうになった事も知っておるぞ」


クレイ 「そうだったんですか…」


バツの悪そうな顔をするジャクリン。


王 「ところでクレイ…、男爵位は断られたが、貴族に戻る気はないか? ヴァレット家の一員として貴族に復帰する事も可能じゃぞ?」


クレイ 「いえ……私は自由な冒険者が好きですから、貴族の立場は窮屈なのです」


宰相 「ヴァレット子爵の言った通りだな」


王 「ヴァレット子爵は、クレイは爵位は断るであろうと言っておった。無理強いすれば国外に逃げてしまうかも知れん、とな」(笑)


宰相 「多少強引に事を運べば、勢いで(爵位を)受け入れるかと思ったのだが。王を前に萎縮せずにはっきり自分の意見を言うとは、なかなかの胆力だな」


王 「宰相、クレイはダンジョン踏破者であるぞ。おそらく、ダンジョン深層の魔物に比べれば、王族貴族など怖くはないのだろうて」


宰相は何か酸っぱいものでも口にしたような表情かおで残念そうに首を振った。


王 「できれば貴族となって仕えて欲しかったが、望まないとあれば無理強いはせぬ。だが、そうなると、褒美をどうするか…。金も地位もいらぬと言われると…」


クレイ 「…それでは、二人が望めばですが、もし爵位を下さるというのであれば、私ではなくこの二人(ルルとリリ)に…」


ルル・リリ 「いらないにゃ!」


クレイ 「(即答かっ)…では、ヴァレット子爵を陞爵させて頂く事は可能でしょうか?」


王 「ほう? 苦労してダンジョンを踏破したのに、その褒美をヴァレット子爵に譲ると申すか? …ヴァレット子爵とお主にどんな関係があるのやら…?」


クレイ 「そ、それは…ヴァレット子爵にはダンジョン攻略に当たって色々と支援して頂きましたので…」


王 「ふっ、まぁ良かろう。と言っても褒美の陞爵を人に譲る事などできないのだが…実はな。もともとヴァレット子爵は伯爵に陞爵する予定であったのだ。なかなか口実が見つからなかったのだが、今回の件はちょうど良い。


だが、それはこちらの事情。お主への褒美とは関係ない話だ。それでは国として、お前に対しての義務を果たせん。他に何か欲しいものや、してほしい事はないか?」


クレイ 「……


……では、奴隷解放の許可を頂けますか?」


王 「…どういう事だ?」


クレイ 「実は……こちらの二人、ルルとリリは奴隷から解放する事ができましたが、まだ、十七人の奴隷を所有した状態でして。できればその者達も解放してやりたいのですが、その者達は戦争で捕虜になり、奴隷として払い下げられた者なのです。戦争奴隷であるため、売却はできても解放は禁じるという契約の縛りがつけられておりまして。その縛りを解除し、解放する許可を頂きたいのです」


宰相 「……


……アダモか!」


ガルム小隊の隊長アダモは、クレイの叔母ジャクリンの働きかけで宰相が奴隷として払い下げる事を許可したのだ。そう言えば、ジャクリンがどこぞの冒険者にアダモを引き渡したという報告書も見た記憶がある…。


クレイ 「……確かに、アダモは私の奴隷達のリーダーを任せております」


だが、確かアダモは重篤な身体欠損状態であったはず。そんな状態では何もできないだろうと払い下げを許可したのである。だが…


宰相はヴァレット子爵をちらりと見た。確かヴァレット子爵も大怪我をして再起不能に近い状態であったと報告を受けている。だが、今のヴァレット子爵の五体はすべて揃っており、特に健康に問題があるようには見えない。


つまり、アダモも……。


王 「…そうか。宰相、構わぬか?」


宰相 「いいえ、それはできません。その者達は戦争で負け、国を失った者達。いわばこの国に恨みを持つ者達です。特にアダモは高いカリスマ性と優れた戦のセンスを持っており、敵に回せば国にとっては脅威となりかねません」


クレイ 「それは、敵に回る事はないと思います…。…が、どうしても心配であるなら、魔法契約を交わすという事ではどうでしょうか? 解放はするが、この国に対して敵対行動は取れない成約は残す」


王 「なるほど、それなら問題なさそうだな。宰相?」


宰相 「……良いでしょう。ただし、魔法契約は王城で行います。その上でなら解放してもよいでしょう」


クレイは黙って頭を下げた。


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