第165話 ミト王、ショボン顔になる
クレイ 「黒幕が判明したら、その者には……
……きっちり報復するつもりですが。構いませんよね?」
王 「うむ。暗殺を指示するような奴じゃ。手加減なしにやって構わん」
ルル 「許可が出たにゃ、やっつけるにゃ」
リリ 「ルルはちょっと黙るにゃ。王様の前で許可なく発言すると処刑されるって聞いたにゃ」
ルル 「それは嫌にゃ」
リリ 「だから黙るにゃ」
王 「あー、別に処刑はせんし、好きに喋って構わんよ。
―――ところで宰相、例えばの話じゃが、ダイナドー侯爵家がなくなると問題があるか?」
宰相 「…ダイナドーは侯爵家の中でも大きい方です、さらに国防大臣でもあったので、突然居なくなれば混乱は避けられないでしょう……
……が。
別に問題ないでしょう。
他に侯爵家はたくさんありますし。居なくなれば別の人間がすぐに穴を埋めるだけの事。そもそも貴族が増え過ぎなのです、この国は…」
宰相(クレイのほう見ながら) 「多少減らしたほうがよい」
クレイ 「だから(貴族を)減らす手伝いをする気はありませんよ? まぁ、降りかかる火の粉は遠慮なく払うという事で」
王 「うむ、どんどん払ってくれ」
クレイ 「なんか、利用する気満々な気がしてきたぞ……」
宰相 「ところでクレイ? 最後に一つ、聞いておきたい事があるのだが…?」
クレイ 「なんでしょう?」
宰相 「ダンジョン攻略に、【転移ゲート】を使用していたという報告が入っているのだが、それは本当か?」
クレイ 「それは…」
ついに来たかと思うクレイ。そもそも転移ゲートの噂は自分で広めたのだから仕方がない。
クレイ 「…はい。迷宮都市のダンジョンで手に入れた
事前に決めておいた “設定” で乗り切るつもりのクレイ。
もちろん、本当はダンジョン産の
宰相 「それはどのようなモノなのか、詳しく教えてくれるか?」
クレイ 「それは……冒険者としての私の実力の一部ともなるモノですので、公開する気はないのですが…」
王 「もちろん強制ではない。だが、できれば、可能な範囲で良いから教えてもらえれば、政を司る立場としてはありがたい」
宰相 「ダンジョン以外の場所で、人間が自由に使える【転移ゲート】なんてモノが存在するとなると、それは大変危険なモノとなってしまうのだよ。敵地に一瞬で兵を送り込む事すら可能になるのだからな…」
クレイ 「なるほど。では、そのような心配は無用である、とは言っておきます。登録者以外使えない代物ですので、私達専用とご理解頂きたく…」
宰相 「そうか……それで、それはどのような物なのだ?」
クレイ 「…二組でひとつの魔導具で、それぞれを置いた場所の間で行き来する事ができます。ドアとドアを結ぶようなものですね。」
本当は “転移先固定” という設定にしたかったのだが、それを使って攻略したダンジョンの階層まで移動していた事になっている、そのように噂を流していたのだから固定とは言えないのであった。
宰相 「それはどこにでも自由に設置できるのか?」
クレイ 「…行きたい場所に誰かがゲートを運んで行く必要があるのですから、どこへでも自由に行けるというのはちょっと違うかと」
王 「例えば、片方をクレイの家に、もう片方をこの部屋に設置すれば、いつでもその間を行き来できるようになると言う事か?」
クレイ 「まぁ、そうなります。でも、登録者のみしか使えませんから、もしここに設置したとしても、王様や宰相が使う事はできませんよ?」
王 「そうか…」
しょぼんとした顔になるミト王。
宰相 「その、登録者は変更できないのか?」
クレイ 「できません。また人数制限もあります。ので、軍隊を送り込むような事もできません」
魔法陣の術式をコンパイルし直せば制限事項を外す事は実は可能なのだが、それを言う必要はないだろう。そもそも、この時代の魔導具師は、既存の魔法陣を道具に付与する事はできても、魔法陣の術式をカスタマイズする事はできないのである。一般常識がある者ほど、改変ができるとは思わないのである。
クレイ 「ちなみに私の仲間だけで(人数制限の)枠は全て埋まっていますので」
宰相 「なるほど、無制限に使われる心配はない、と言う事か」
王 「別の転移ゲートは手に入らないのか? ダンジョンを探せば見つかったりしないかのう…?」
宰相 「ひとつ見つかったのなら、もう一つみつかる可能性もあるでしょうが……仮に冒険者に依頼しても、お宝を見つけた冒険者がそれを正直に国に提出するとも思えません。
どうしても欲しいなら、王自身がダンジョンに潜って探して来るしかないでしょう」
王 「行ってもいいのか?!」
宰相 「駄目にきまってるでしょうが」
王 「じゃぁジャクリン、騎士団を率いてダンジョンを攻略~」
宰相 「それも駄目です」
王 「じゃ、じゃぁ」
宰相 「ヴァレット子爵に行かせるのも駄目ですよ。そもそも、行けば確実に手に入るというわけじゃないんですから」
王 「そうじゃ、ペイトティクバは管理ダンジョンになったのだから、好きな魔導具を作れるのではないのか?」
ブランド 「それが、そうでもないようです。ダンジョンによって特性がそれぞれ違っておりまして。転移ゲートが見つかったのは迷宮都市リジオンです。あそこは転移罠が非常に多いダンジョンとして有名です。それに対して、ペイトティクバは帰還用の魔法陣すらない、面倒なダンジョンなので…【転移】は得意ではない、と言いますか、そもそも魔物ばかりで、魔導具などが出てくるようなダンジョンではないので…」
王 「では、クレイならどうじゃ? もう一度、リジオンに潜って、転移ゲートをみつけてきてくれるよう依頼をだそうじゃないか」
クレイ 「その依頼はお断りさせて頂きます。行けば必ず出るというモノではない、むしろ、何百年あるいは何千年に一度しか出ないようなレアモノなのですから」
ショボンとした顔になるミト王。
クレイはその
実は、今のクレイなら何個でも “どこへでも行けるドア” を簡単に作り出せるのだが、それは決して言うつもりはない。そんなものが現実に大量に存在していたら世界が混乱してしまうのは間違いないのだから。戦争に使おうとする者は現れるだろうし、テロリストや侵略国家の手に渡ればどうなるか…。
その時、執務室のドアがノックされ、ドアの外を警備していた騎士の声がした。
護衛騎士 「陛下、伝令の騎士が参っておりますが、如何いたしましょうか?」
宰相 「人払いを命じてあったはずだが?」
護衛騎士 「申し訳ありません、どうしても、緊急の報告があると言うものですから」
王 「良い、入れ」
入ってきた来た伝令騎士の声は緊迫していた。
ジャクリン 「マルスか、何事だ?」
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