第143話 クレイを取り込みたいダイナドー
王都のダイナドー侯爵邸。
トニノフ 「侯爵様、お待たせいたしました、ダンジョンを攻略した冒険者について調べて参りました」
ダイナドー侯爵 「戻ったか…して? その冒険者は何者だ?」
トニノフ 「ダンジョンを攻略したのはクレイという正体不明の冒険者でした」
ダイナドー 「正体不明? 私はその
トニノフ 「え、ええ、まぁ、その、そうなんですがね……一応ヴァレットの街の出身らしいという事は分かったのですが、ヴァレットの街では冒険者としてほとんど活動していなかったようでして、ほとんど情報が得られなかったのです…」
ダイナドー 「ヴァレット出身なのにヴァレットで情報が得られないとはどういう事だ?」
トニノフ 「はい、どうやら別の街で冒険者活動をしていたようで」
ダイナドー 「なるほど。だが、冒険者になる前の情報はあるはずだろうが? どこの家の生まれだとか…まぁ平民なら家名もないのは仕方がないが」
トニノフ 「それが、幼少期についてもまったく不明で。このクレイという冒険者の幼少期について、街の人間で知っている人間がほとんど見つからないのです」
ダイナドー 「ヴァレット出身というのがそもそも嘘という事か?」
トニノフ 「いえ、一人知っている者がいましたので、嘘ではないかと。ただ…、知っていると言った人物は鍛冶の仕事をしているドワーフでして。非常に偏屈で、クレイについてもほとんど何も話してくれないのです。ドワーフは頑固ですからね」
ダイナドー 「…まぁ幼少期の事などどうでもいい。冒険者としてはどうなんだ?」
トニノフ 「冒険者になってからは、迷宮都市リジオンで活動していたという噂です」
ダイナドー 「確か、
トニノフ 「はい、どうやらクレイは、そのダンジョンで運良く
ダイナドー 「ほう? 難攻不落の高難易度ダンジョンを攻略できるほどの
トニノフ 「はい…それが…噂に過ぎないのですが…」
ダイナドー 「なんださっきから? 噂話程度の情報を掴んだだけで戻ってきたのか?」
トニノフ 「すっ、すいません…、
ダイナドー 「ふむ…逆に言えば、それほど価値のあるモノが隠されているという事にもなるな。それで、その
トニノフ 「はい、現物を確認する事はできなかったのですが、噂によると、【転移ゲート】のようです」
ダイナドー 「転移ゲート…?! それはあの、転移する、ゲートの事か?」
トニノフ 「そのまんまですが。多分その転移ゲートだと思います。なんでもリジオンというダンジョンは、内部に転移トラップがたくさん現れるダンジョンだそうで。そこで出るお宝の中に転移ゲートがあってもおかしくはないかと。それを活用することで、クレイとその仲間達はダンジョンの攻略済み階層まで一瞬で行き来できたようです」
ダイナドー 「なるほど、転移ゲートがあれば、
しかし、ダンジョン深層には高ランクの魔物が出現するはず。いくら転移ゲートがあってもそれだけで攻略ができるものなのか?」
トニノフ 「はい。クレイとその仲間達は魔導銃という妙な武器を使うそうです。おそらくこれもリジオンで手に入れた
ダイナドー 「どんな武器だそれは」
トニノフ 「はい、なんでも、礫を打ち出して相手に当てるという武器のようです。これが、かなり強力な武器のようで。未確認なのですが、Sランクの魔物も一撃で倒してしまうという噂でした」
ダイナドー 「ふん、礫を打ち出すだけでSランクの魔物を倒せるものか? …まぁ、噂はオーバーに尾ひれが着くものだしな。しかし、ダンジョンの攻略を成し遂げたのだから、何らかの強力な武器を持っているのは間違いないか…
…ん? 仲間と言ったな? それはそうか、ダンジョン攻略を一人でできるわけはないな。―――だがグループで攻略したのなら、なんで一人の名前だけしか出てこない? リーダーの名前という事か?」
トニノフ 「はい、どうやら、そのクレイは、奴隷を買い集めてダンジョンを攻略したようなのです。冒険者はクレイ一人、残りは全員その奴隷。と言っても、冒険者登録はしているようです、奴隷冒険者ですね。どうやら、ダンジョン攻略のためというよりも、
ダイナドー 「…なるほどな。だが、その奴隷達も只者ではあるまい? 優秀な戦闘奴隷でも手に入れたか」
トニノフ 「はい、先の戦争で捕虜になった元兵士だという話です。クレイ自身は、冒険者としてはBランクという事でした」
ダイナドー 「そいつ自身はそれほど実力はないと言う事か」
トニノフ 「まぁ冒険者のBランクというのは、並の騎士と渡り合えるくらいの実力はあると言われていますけどね。ただ、その程度ではダンジョン踏破は難しいでしょうから、奴隷達が優秀であったのと、強力な武器と転移ゲート、さらに幸運も揃っての結果だったのではないかと…」
ダイナドー 「それで、行方は分かったのか? ヴァレット子爵も接触できていないような口ぶりであったが」
トニノフ 「いえ……。ただ、ヴァレットの街には見張りを置いております。戻って来次第、連絡が入る事になっています」
ダイナドー 「うむ、その冒険者を発見次第確保しろ」
トニノフ 「ええっと、どうします? 不敬罪で逮捕、みたいな感じで捕らえる手もありますが、ダンジョンの管理権限を持っている者に大っぴらに手を出すとさすがに王家や他の貴族から非難されるかも…」
ダイナドー 「そうだな……では、私のところに連れてこい、褒美を取らせると言ってな。なんなら爵位を与えても良いと言え。高待遇をチラつかせれば冒険者などすぐ靡くだろう」
トニノフ 「ヴァレット家は子爵ですから、爵位を与える権限はないですからね」
ダイナドー 「子爵より侯爵家の下についたほうが得な事くらい、計算高い冒険者なら分かるだろうて」
トニノフ 「ですよね~」
揉み手をするトニノフに向かって、ダイナドーはフォッフォッと悪人の親玉らしく笑った。
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