第142話 ルルとリリ解放、そして…?

王都には魔法契約を扱う公的機関がある。国に認定された上級の魔法使いが契約魔法を掛けてくれ、どんな内容の契約であったかも記録保管し、必要であれば保証してくれる。


ただ、別に魔法契約が許可制になっているわけではない。そのため、必ずしもその機関を利用する必要はない。貴族や大商人になると、契約魔法を使える人間を直接雇って魔法契約を交わす者も多い。


そして、そのような契約の中には、奴隷契約に等しいようなものもあるのだが、一般的な奴隷と違うのは、身分が法的に定義された【奴隷】ではない、という点である。(外見からは契約魔法によって行動が制限されているとは見えないし、普通に国民として権利を保証されている。)


もちろん、ルルとリリに対してそのような奴隷的契約をする気はクレイにはないが。


クレイ 「二人には、今後もリルディオンの秘密は守ってもらうという魔法契約を結んで貰う事になる」


クレイ 「魔法契約はあるので完全な自由とは言えないかも知れんが、その代わり【奴隷】の身分からは解放される。これからは誰の命令もきく必要はなくなる、自由にどこへでも行けるようになる」


ルル 「いまのままでいいにゃぁ…」

リリ 「奴隷のままでもいいですにゃ…」


それでもグズる二人であったが、クレイは問答無用で二人の解放を実行する事にした。本人達が納得しておらずとも、奴隷の状態である二人はクレイの命令には従うしかないのだ。


まずは、二人を連れてリルディオンに行く。クレイは契約魔法は使えないので、契約魔法はエリー(リルディオン)に頼んで施術してもらうためである。



―――――――――――――

※魔法の内容を解析して魔法陣を作り上げればクレイも契約魔法を使えるようになるかも知れないが、クレイはそのような魔法にはあまり興味はないので研究する気もなかった。最近はあまり魔法の術式コードの解析・研究をする時間はないし、クレイは自分に興味のない術式について無駄に時間を費やすつもりはなかった。この世にある全ての術式を学ぶには、一人の人生では時間が足りな過ぎるのだ。(クレイが主に興味をもって研究しているテーマは主に時空間に関する魔法術式である。それさえも、まだ模倣の段階に過ぎず、理解したとはとても言えない段階なのだ。)

―――――――――――――



隷属の首輪は装着したまま、開放はせずに契約魔法を上から掛ける。その施術が終わった後、今度は王都の奴隷商へと移動し、奴隷からの解放の手続きを行った。


これは、二人が奴隷から解放されたという記録を奴隷ギルドに残しておくための処置である。


勝手に解放してしまう事も可能だし問題はないのだが、そうなると、奴隷ギルドには二人が奴隷として売られたという記録が残ったままになる。犯罪奴隷や戦争奴隷と違い、借金奴隷の場合はそれでトラブルになる事もあまりないだろうが、解放されたという記録をキチンとしておいたほうが気分は良いだろう。(開放されたとしても、奴隷であったという記録は消えない可能性が高いが。)


王都の奴隷商で隷属の首輪をはずされたルルとリリ。


クレイ 「さぁ、これでお前達は自由だ。すっきりしたろう?」


ルル 「うー。これでうちらはお払い箱にゃ?」

リリ 「私達は捨てられるにゃ?」


クレイ 「別に捨てるとかそういう話とは違うだろう。自由になったんだよ。どこへでも自由に行けるし、誰の命令もきく必要はなくなったんだ。


どこに行ってもいいし、どんな職業についてもいい。あ、魔導銃とか装備は全部返してもらう事になるから、冒険者を続けるなら慎重にな」


ルル 「これからもクレイと一緒に居たいにゃ…」

リリ 「どうしても離れなければ駄目にゃ…?」


クレイ 「ふふふ、言ったろ? 自由だと。つまり…


…俺と一緒に居たいなら、それも自由って事だ」


ルル 「え、それって?!」

リリ 「一緒に居てもいいにゃ?!」


クレイ 「その…、お前達さえ良ければ、だが……俺とパーティを組むか?」


実はクレイも、二人の事を可愛く思っており、離れがたいと思っていたのだ。ただしそれは恋愛的な意味ではなかったのだが。


クレイは二人の事をとても可愛いと思っていはいたが、それはどちらかというと可愛い飼い猫ペットの感覚に近いものであった。


二人は確かに若く可愛い。だが、いくら人間にそっくりだと言っても、クレイは “ケモミミ” や “尻尾” のある者を性的な対象としてみる事ができなかったのである。


実は、クレイは前世の日本で、短い間であったが、子猫を二匹拾って飼っていた事があった。二匹は最終的に里親が見つかり貰われて行ってしまったのだが、ブラックな職場でパワハラに耐えながら働いていた頃、クレイにとっては二匹の子猫は癒やしであった。


そして、なんとなくルルとリリはその二匹の猫に雰囲気が似ていたのである。二人の存在は、今生のクレイにとってもまた癒やしであったのだ。


ただ、二人が奴隷から解放された後、さっさとクレイから離れて行ってしまう事も覚悟はしていた。そうなったら、それはそれで、すんなり諦めるつもりでいた。(もしそうなったら、獣人ではなく本当の猫でも探して飼おうか、などと思っていたのだが…)


ルル・リリ 「「組むにゃ!」」


食い気味に即答し、クレイに飛びつく二人。


クレイ 「おっ、お前達、本当にいいのか? 俺と離れて冒険者活動をしてもいいし、冒険者以外の仕事をしてもいいんだぞ?」


ルル 「私達に冒険者以外の仕事なんてできないにゃ!」

リリ 「これからもクレイと一緒に冒険者するにゃ!」


クレイ 「そうか…。と言っても、俺は当分は冒険者は休業する予定なんだがな…」


ルル 「それでもいいにゃ」

リリ 「一緒に居るにゃ」


クレイ 「いや、休業中は自由にしてろよ」


ルル 「自由にするにゃ」

リリ 「ずっと一緒に居るのも自由にゃ」


クレイ 「うーん、もしかして、失敗だったか…?」



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