第133話 ダンジョン踏破

階層は、千の大台への到達が見えてきたあたり。その階層で現れたのは、キングアシッドスライムの亜種であった。


深層でスライムが出てくるというのは意外であったが、さすが、千も近い階層に出現するだけあって、かなり手強かった。


まず大きさが巨大である。そして、ブヨブヨと柔らかい身体で物理攻撃が一切効かない。魔法攻撃は効果があるが、巨大過ぎてほとんど効かない。そんな巨大ゼリー状魔物が階層内にウヨウヨ居るのである。


しかも、このスライムは一瞬で全てを溶かす、とんでもなく強力な溶解液を出してくる事がすぐに分かった。(偵察用ドローンがスライムの射出した液に当たって溶けてしまったのだ。)この溶解液が厄介であった。


スライムの倒し方は、体内にある核を破壊する事である。巨大であってもそれは変わらないのだが、スライムの体内にはその溶解液が満ちているようで、剣で切ろうとすると剣が溶けて使い物にならなくなる。(そもそも半液状なので物理攻撃は意味がないし、仮に切れたとしても大きすぎて効果がないのだが。)


魔導銃から射出された弾丸もスライムの体内で溶けてなくなってしまい、スライムの核に到達できない。


しかも、撒き散らされる溶解液のせいで、ダンジョンの内部の壁や地面が溶けてドロドロになっているような状況である。その泥の中に迂闊に足を踏み入れたら足が溶けてしまう。


だが、クレイの作った弾丸で事態はアッサリ解決した。ガラス製の弾丸である。地球での科学の知識で、金を溶かす王水(濃塩酸と濃硝酸の混合物)でもガラスは溶かせないと言う話をクレイは思い出したのである。もしかしてと思って試してみたところ、成功であった。スライムの溶解液の成分が何なのかは分からないが、やはりガラスは溶かせなかったのだ。


この世界にもガラスはあるが、ほとんど普及していない。貴族の贅沢品という扱いである。脆く割れやすく価格の高いガラスは庶民には縁がないものなのだ。そのため、この世界の常識内の知識では解決が難しかったであろう。


だが、リルディオンにはガラスが普通に使われていた。それも絶対壊せない強化ガラスのようなものまであった。クレイは早速エリーに頼んで強化ガラス製の弾丸を作らせたのである。(ついでに浮かぶ足場もガラスコーティングし、ガラス繊維を使った溶解液の防護服も作った。)


もし、地球の銃の弾丸をガラスで作ったら、発射時の衝撃で砕けてしまうかも知れないが、クレイの魔導銃はレールガン方式で徐々に加速されていくものなので、割と柔らかいモノや脆いモノでも弾丸として射出する事が可能なのである。


足場と有効な武器、防具を手に入れれば、あとはスライムの核の位置に向けて弾丸を撃ち込めば討伐完了である。スライムの体内に撃ち込まれたガラス製弾丸は、そのゼリー状の体内を溶けずに突き進んでいく。


だが、なにせ身体が巨大であるのに比して核が小さいため、なかなか核に当たらないのであった。(もちろん、通常のスライムよりは核ははるかに大きいのだが、それ以上に身体が巨大過ぎるのだ。)


クレイが左眼の解析能力を使い、狙撃用のスコープ付きのライフルで撃てばなんとか当てられるが、クレイの仲間達には核の位置も勘で撃つしかないのだ。


クレイが当てられると言っても、相手がじっとしていてくれればの話である。こちらの存在を認識したスライムは移動を開始するし、核も体内を移動していくので、なかなか当たらない。


結局、バスターランチャーを再び持ち出してきて、ガラス製砲弾を音速の数十倍の速度で打ち込んで爆散させる方式が有効となった。直撃しなくとも衝撃波で核を破壊する事ができたのである。


そうしてなんとかその階層の魔物を一層し、次の階層へ進んだクレイ達であったが……


それは唐突に訪れた。


次の階層が、このダンジョンの最終階層であったのだ。


だが、さすがは最終階層、その難易度はこれまでの階層の比ではなかった。


出現する魔物は……否、その姿は、背中に羽と神々しい後光を背負った天使達であった。


余談だが、ドラゴン系の上位種は意外にもダンジョン内に登場する事はなかった。もしかしたら、ドラゴンの “上位種” は知能も人間より高くなるため、生み出したとしても、ダンジョンの思惑通りに人間と戦おうとはしない傾向があるので、ダンジョンから生み出される事は少ない、という説がある事をクレイは後に知った。


実際、最終階層に出てきた天使達は会話ができるような知性はなく、敵対するだけの人形のようであった。彼らはそれほど特殊な攻撃方法なども持ってはいなかったが、ただただ、全ての能力が桁違いに高レベルであった。


攻撃力・防御力・魔力、その全てが人間の想像を越えた強さなのだ。正直、クレイも折れそうになったほどであった。


このレベルになると、もはやガルム小隊やルルリリでは対処不能で、クレイが一人で対応するしかなかった。幸いにも、すべての天使と一対一の戦いであったのでなんとかなったが。


天使達の、文字通り神がかった強さは、全て、天文学的な数値となる膨大な魔力に裏打ちされている。


つまり、それを上回る魔力を動員して強化すれば勝てるわけである。


クレイの魔力はリルディオンの魔力発電所(発魔所)から供給されている。つまり、伝説級の魔物とリルディオンの発電(発魔)能力の勝負になってしまうわけである。


幸い、万単位の人間を何年間も収容できるシェルター都市として設計されたリルディオンの発魔能力は膨大であり、天使になんとか打ち勝つことができた。長く、またギリギリの戦いであったが。


特に八体目の天使は手強かった。リルディオンはその機能を全て停止し、魔力を総て動員してクレイを支援して、僅差で上回る事ができたというところであった。


もう少しダンジョンが成長して力を着けていたら、勝てなかったかも知れない。


九体目以降はもう勝てないだろう。


仮に天使達を退けても、さらにその後出現するダンジョンボスは、当然天使達を上回る強さがあるはずである。天使種? が出てきたのだ。ボスは伝説系・神系が出てくる可能性がある。天使で苦戦しているのに、神系の魔物ボスが出現したら、間違いなく勝てないだろう。


ここまでかと諦めて撤退しようとクレイは考えたが……


だが、唐突に、ダンジョンの攻略は終わった。


八体目の天使を倒した後、それ以上天使もボスも出てこなかったのだ。


どうやら、立ち塞がってきた八体の天使達がダンジョンボスという扱いで、最終階層は最初からボス戦という仕様であったようだ。


そして、クレイの前にはダンジョンコアが現れていた。


コアを破壊すればダンジョンは消滅する。


―――破壊できればだが。


これほどの規模のダンジョンコアは、それだけで強度が高いはず。もしかしたら壊せない可能性もある。


まぁクレイはダンジョンコアを破壊するつもりはなかったのだが。ダンジョンは貴重な資源なのだから。


ダンジョンコアに触れるクレイ。


そして、クレイがダンジョンマスターとして登録された。



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