第三部 暗殺者編
第134話 報告
結局、ダンジョン・ペイトティクバの総階層数は、当初の予想(二千以上)ほど多くはなかった。それどころか千にも僅かに届かず。最終階層は998階であった。
クレイ 「惜しい、もうちょっとがんばって千の大台に乗せればよいのに」
そんな事をダンジョンに要求しても意味がないのだが。
また、Sランクを超えるクラスの魔物が数千・数万も出現して一斉に襲ってくる、などとという事もなかった。
冷静に考えれば、それは当然かも知れない。高ランクの魔物を用意するには、ダンジョンもエネルギーを大量に消費するのだ。さすがにSランク超級の魔物を大量に用意する事は、長い年月をかけて成長し、エネルギーを溜め込んできた
そもそも、深層まで冒険者が来ない状況であったのだ。深層の魔物生成にエネルギーを割いても益はあまりない。(そこまでの事を考える知性がダンジョンにあるのかどうか定かではないが。)
今後は、クレイがダンジョンマスターである。ダンジョンの構成も自由に変えられる。これからどんな風にダンジョンを構成するか、じっくり考えて行く必要があるだろう。
余談だが、実は、クレイが
リルディオンの上にあるリジオンは、リルディオンが生み出した実験場に過ぎず、リルディオンによって自由にできる。つまり現在リルディオンの唯一の主となっているクレイが命じれば自由に変更・改造も可能であるのだ。
ただそれは、正面からダンジョンを踏破して手に入れた立場というわけではないので、ダンジョン踏破の経験としては初となるが。
そもそもリジオンは自然発生ダンジョンではない。そのためダンジョンコアなど存在しない。仮に最終層まで攻略されても管理権限を冒険者に明け渡す必要はないし、そもそも最終層まで行ってもリルディオンに行くことができるわけではないのだ。
自然発生ダンジョンというのは、入ってきた人間の生命エネルギーを吸収して成長すると学者達は言っている。そのためダンジョンは、人間が入りたくなるような魅力的な要素を用意して人間を誘うのだと。
だが、リジオンは人間のエネルギーなど吸収していない。そしてリルディオンには、現在地上にいる人類に配慮する義理も義務も一切ない。
なんならリジオンはいつでも消滅させてしまっても構わないし、現在の人類が誰も入ってこなくなっても構わないのだ。
では、クレイはペイトティクバについてはどうするつもりなのか?
ペイトテクィバは人間達に大きな利益を齎している。一番大きな利益を得ているのはもちろん、クレイの故郷ヴァレットである。父親が治める、家名がそのまま街の名前として冠された街ヴァレットにクレイもそれなりに思い入れがある。できたらダンジョンは、今後は人間のために利益を齎すものとしたい。そのためにコアを破壊せず、管理者となったのだ。難しいところもあるとは聞くが、うまく運用すれば、莫大な資源として活用できるはずである。
歴史上何度もヴァレットの街を悩ませてきたスタンピードであるが、それも二度とは起こさせない予定である。
だが、スタンピードはダンジョンの健康維持のために必要な代謝であると専門家は言う。ダンジョンに溜まってく何らかの不具合を、定期的に解消するために起きる現象であるというのだ。それを起こさないといことは、ダンジョンの不具合が解消されない事になり、いつか問題が起きる可能性もある。そうならないように調整・改造が必要だ。だが、どこをどう修正していけばよいのか…?
まぁ、比較的安定しているダンジョンなので、すぐに何か問題が起きる事もないはず。しばらくは様子見であろう。なんならダンジョンの研究家にでも研究させても良いかも知れないとクレイは一旦考えるのをやめた。
* * * *
クレイはついにダンジョンを踏破、攻略完了した事の報告に向かう。ただ、向かった先は領主家ではなく、冒険者ギルドである。
領主家に報告する前に、冒険者ギルドから、冒険者がダンジョン【ペイトティクバ】を踏破したと正式に発表してもらう話になっていたのだ。
そして、ギルドから領主家に報告をあげて貰う形とする。
これは、事前にサイモンと相談して決めていた事である。
最初はクレイも、まずは領主家に報告するつもりだった。だが、貴族には柵が多いので、色々面倒なことが起こる可能性があるとサイモンに忠告されたのだ。
ダンジョンを攻略したならば、領主は王家にそれを報告する義務がある。それも、正式発表前にである。
だが、未発表のまま王家に報告すれば、ダンジョンをそのまま王家に接収されてしまう可能性もあるという。
ダンジョンは資源として極めて有用である。そしてペイトティクバは比較的王都に近いダンジョンである。それを管理下におけるとなれば、それは王都にとって極めて重要な資源となる。
現在の王は公正な人物なので、横暴な真似はしないとは思われるが、長く続いた王国であるがゆえに王族同士や貴族達の間でのパワーバランスが複雑になっており、王と言えどもそう好き勝手はできないのだそうだ。
それに、子爵という低位貴族でありながら王家の守りの一端として重用されているヴァレット家の事を快く思っていない貴族も居る。ヴァレット家がさらに
だが、冒険者が勝手に挑戦して成功した事にして、報告を受けた冒険者ギルドが正式に発表してしまえば、王家や貴族も手が出しにくくなる。
冒険者ギルドは世界にまたがる組織であり、基本的に王族・貴族とは独立した組織という事になっているからである。
領主家は事後に報告を受けただけという事にすればよい。
もちろん、各地域に根付いて活動している性格上、各地の有力者・権力者の意向はある程度配慮する必要があるが、間に冒険者ギルドが挟まりワンクッション入る事でヴァレット家への王族貴族から圧力は少しは緩和されるだろう。
そうして、正式発表後にサイモンから報告を受けたという
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます