第130話 ワイバーン殲滅

迫りくるワイバーンをものともせず、クレイは落ち着いてアダモの方を見て頷く。それを見たアダモは頷き返し、手を上げた。


アダモ率いるガルム小隊の隊員達は既に配置を終えている。ずらりと二重の半円形に並んだ隊員たち。前列は座って、後列は立ったまま魔導銃を構えている。(ルルとリリはサイモンとワルドマの護衛をしている。)


隊員達が、アダモが上げた手に合わせて一斉に銃を構えた。


アダモ 「斉射!」


アダモの号令とともにバシュバシュバシュと静かに発射音がする。(サイレンサーをつけているので発射音は極小である。)


そして発射された弾丸はクレイたちに向かってきていたワイバーンの体を貫き、ワイバーン数匹がアッサリ地に落ちて行った。


ワルドマ 「おお!」


だが、まだまだたくさんいるワイバーン。ワイバーンが墜落したのを見て、階層内にいるワイバーンがすべて事態に気づき、一斉にクレイ達のほうに向かい始める。


アダモ 「各自の判断で迎撃!」


連射を始めるガルム小隊のメンバー達。発射された弾丸は強力で、被弾したワイバーンは千切れて墜落していく。


クレイ 「ブレスに注意しろよ」


ブレスを放とうと大きく息を吸い込むような姿勢になったワイバーンも居るが、撃つ前に即座に複数の弾丸が撃ち込まれて撃沈する。


ワルドマ 「これは……


話には聞いていたが……実際に見るととんでもないな……」


サイモン 「聞くと見るとでは大違い、実際に目の当たりにすると想像以上に凄まじいな……。確かにこれなら、ダンジョン攻略も可能かも知れない」


クレイ 「そう簡単ではないと思ってるよ。もっと深層に行けばもっと危険な魔物が、それも上位種や変異種が大挙して襲ってくる可能性があるんだ。これまで攻略してきて、もっと高火力な武器を用意しなければいけないかなぁと考えを改めているところだよ」


実際のところ、火力より防御力が必要かなとクレイは考えているのだが。深層に行けば特殊なモンスターも出現してくるだろう。想定外の攻撃を不意に受けてしまう可能性も否定できないだろう。


クレイ達は岸壁の前に陣取っている。この岸壁は、この階層の境界線でもあるため、背後から襲われる事はないので、前だけ見て戦える。このような陣地が確保できない場合は、メンバーを円形に布陣して360度全周を警戒する必要がある。


このワイバーンが大量出現する階層はクレイたちにとっては楽な階層であった。空を飛ぶ魔物が大量に居る階層だけあって、非常に広いが、待っていればワイバーンが勝手に集まってきてくれる。遠方に居ても空を飛ぶワイバーンは高速で接近してくる。油断せずに撃ち続けていれば、ワイバーンが数百匹居ても、やがてすぐに全滅するだけなのである。魔導銃の弾倉はリルディオンの弾丸工場と亜空間を通じて直接繋がっており、弾が尽きるという事はほぼあり得ない。仮に弾が切れても、転移ゲートで撤退すれば済む話である。


程なくして戦闘は終了した。地表は墜ちたワイバーンの死骸で埋め尽くされている。特に指示を出さずとも、空中に的がなくなってしまったため、自然に射撃は終了する。


しばらく銃を構えたまま周囲を警戒していた隊員達。動くものは特にない。


ワルドマ 「お、わったか…」


サイモン 「あっという間だったな」


だが、地に落ちたワイバーンの死体の中に、僅かに動くものが居た。一匹のワイバーンが、死んだふりをしながらチャンスを待っていたのだ。(ワイバーンはそれほど知能は高くないはずだが、意外と頭が良い個体もいるようだ。)


そのワイバーンは気づかれないように死んだ仲間の死体の影に隠れながら、ゆっくりと首をもたげた。ブレスを放つつもりである。一撃でもブレスが当たれば、数十人の小さな人間達など一掃できる。


だが、ワイバーンが口を開けた瞬間、十数発の弾丸がその頭を消し飛ばしてしまった。ガルム小隊の隊員達は隠れていたワイバーンの動きを見逃さなかったのであった。


ワルドマ 「おっと、まだ生きている奴が居たか」


サイモン 「さすがだな、油断はない、か」


クレイ 「ダンジョンの中では常に何人か周囲を見張る者を配置している」


ワルドマ 「なぁクレイ、お前たちの使ってる銃、ヴァレット家に収められた銃と威力が違い過ぎないか?」


クレイ 「そりゃあ、家に渡したのは、俺が大昔に開発した初期型だからな。その後改良した銃とはモノが違うよ」


ワルドマ 「その銃、俺も撃ってみたいな…」


クレイ 「悪いがそれはなしだ。新型のほうは、俺の奴隷以外に触らせる気はない。威力が強すぎるし、構造も機密事項なんだ」


ワルドマ 「そ、そうか…」


クレイ 「悪いな」


ワルドマ 「まぁ、仕方ないな…」


それから、地に墜ちたワイバーンの素材の回収に入るガルム小隊の面々。もちろん周囲の警戒は怠らない。この階層はワイバーンだけのように見えるが、そう見せかけて他の魔物が居ないという保証はないのだから。


全員、クレイの作ったマジックバッグを持っているので、大量の素材もあれよあれよと収納されていく。


ワルドマ 「アレだけの量を収納仕切るか。マジックバッグも規格外だな」


サイモン 「なぁ、クレイ。もしかして…」


クレイ 「ああそうだよ、ギルドには素材の一部しか卸してない。大部分は死蔵されたままだ」


サイモン 「もっと卸してくれ…と言いたいが、無理だな」


クレイ 「ああ、ギルドの買い取りの予算にも限度があるだろうから、控えてるんだよ」


ワルドマ 「なぁ、領主家にも直接卸してくれないか?」


クレイ 「ああ、それは構わんよ。それでも、予算の上限はあるだろう、全部は買い取れないだろう?」


ワルドマ 「帰ったらさっそく父さんと相談してみる」



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