第129話 高難度ダンジョンにビビるギルマスと領主嫡男

クレイ達が攻略を進めているダンジョン【ペイトティクバ】。


定期的にスタンピードが起きるのは他のダンジョンと変わらないが、その発生間隔は他のダンジョンよりはるかに長いため、安定しているダンジョンとも言われている。


また、長い間攻略されていない難易度の高いダンジョンであるにも関わらず、初心者から上級者まで冒険者が活動しやすいダンジョンとも言われていた。それは、出現する魔物が細かく段階的で、階層ごとの難易度の落差が小さいためである。階層も非常に深く、浅層ではあまり強い魔物も出現しないので、浅層のみに関して言えば、冒険者が活動しやすいダンジョンと言えるのである。


構成としては、初期の階層ではゴブリンやコボルト、オークなど、比較的弱い部類の魔物が出てくるが、同じような種類の魔物の亜種や上位種が段階的に出現してくるのが特徴である。


最初の階層は通常種のみ少数

次の階層は亜種のみ少数

次は通常種と亜種混合(少数)

次は上位種のみ(少数)

その次は通常種・亜種・上位種が揃って出てくる(少数)


という具合である。


少数しか出現しない階層をいくつか過ぎると、今度は構成パターンは同じだが、出現する数が増えていくようになる。最初は5~6体で出てきていたのが、次は十数体、次は三十~六十体という具合である。


そして同じく通常種~上位種まで回ると、今度は同じパターンで、途轍もなく膨大な魔物が出現する階層となる。


このパターンを繰り返しながら、およそ知られているあらゆる系統、あらゆる種類の魔物が出現してくるのだ。そのため、階層が非常に多くなっているわけである。(おそらく長い年月の間攻略されなかったためにダンジョンがかなり大きく成長したため、このような構成が可能になったのだろう。)


この世界の魔物は、大きく分けて、動物系、爬虫類系、鳥系、昆虫系、植物系、無機物系、アンデッド系と分かれている。さらに、レアであるが、巨人系、鬼系、怪物系、ドラゴン系、悪魔系、幻想系、神系というような危険度が高い種もいる。


各系統ごとに数十種類、それらの魔物がすべて、前述の出現パターンで階層を構成しているとなると、階層数がどれほどになるのか?


ある程度パターンが分かってきたクレイは推測してみたが……


魔物の種類が百あったとして、一種につき15階層あったとしたらそれだけで千五百階層。魔物の種類はおそらく百以上あるだろうし、魔物が複数種、混合で出てくるような階層もあるだろう事を考慮すれば、ペイトティクバの総階層数は少なくみつもっても二千を越えているのではないだろうか。


ただ、ペイトティクバは歴史の長いダンジョンである割に、あまり深い階層までは攻略されていない。出現する魔物が大量になる階層が厄介だからである。


例えば、最弱の魔物であるゴブリンであっても、その上位種であるゴブリンキングとなるとまったく侮れない。上級の冒険者でなければ危険な相手となる。それが、数百・数千と大量に現れて飽和攻撃を仕掛けてくるような階層があるのだ。これでは並の冒険者ではなかなか突破は難しい。突破できたとしても、そこでの消耗が激しすぎて、次の階層へと進む余力がなくなってしまうのだ。


さらに、深層まで行けば、見たことも聞いたこともないような強力な魔物も出現してくる。ドラゴンの上位種=危険度SSSランクが数百数千と束になって襲ってくるような階層があると考えると、完全攻略は無理だと言われるのも分からなくはない。


想像すると不可能とも思えてくるが、とにかくクレイは、行けるところまで行ってみる事にした。




  * * * *




サイモンとワルドマを連れてやってきたのは、ワイバーン(普通種)が大挙して出現するフロアである。


ワイバーンは竜種の中では最底辺に近い危険度ではあるが、それでも人間から見ればAランク級の大変危険な相手である。


まず、空を飛ぶので遠距離攻撃しか当てることができない。(基本的に、空を飛ぶ魔物は厄介である。)だが、外皮が頑丈で、弓矢や槍程度ではその外皮を貫通する事ができない。


空を飛ぶ(または高くジャンプできる)者が強力な剣を使えばダメージは与えられるが、そもそもワイバーンを一撃で切り裂く事ができる冒険者は少ない。


必然的に攻撃は高火力の遠距離魔法という事になるが、そのような攻撃力を持つ冒険者は意外と少ない。一撃でワイバーンを倒せるほどの威力のある魔法攻撃は、高ランクの冒険者でも数発撃てば魔力が枯渇してしまうのだ。


しかも、ワイバーンは火属性と風属性に強い耐性を持っている。火属性と風属性以外の魔法が使える者で、高火力の遠距離攻撃を持っている魔法職の冒険者はかなり少ないのである。


しかも、ワイバーンは龍種のはしくれであるため、龍種特有の高火力攻撃であるブレスを放ってくる。高空からブレス攻撃を放ってくるワイバーンに遭遇すると、攻撃手段を持たない冒険者パーティはブレスで全滅させられてしまう事も珍しくはないのだ。


そんなワイバーンが数百匹もウヨウヨ空を埋め尽くしている階層に降り立ち、サイモンとワルドマは真っ青になっていた。


サイモン 「おっ、おいっ、撤退だ! 逃げるぞ!」


クレイ 「何言ってるんだよ、この程度では雑魚だぞ?」


クレイ 「まぁ、ただの作業だけどねぇ」


そう、クレイ達の武器は空にいる魔物とは相性が非常に良いのだ。わざわざこの階層を選んだのは、その優位性を見せやすいからであった。


大量に並べられた魔法陣から射出されるレールガン。魔力を消費する事もなく、物理的な弾丸を超高速で射出するため魔法耐性のある敵も関係ない。


クレイ達を見つけたワイバーン達がこちらに向かってくるのが見えた。


サイモン 「おい!」


ワルドマ 「だっ、大丈夫なんだよな? 本当に大丈夫なんだよな?」


そう聞きながらも、ワルドマはすぐにも転移ゲートに飛び込める体勢である。


だが、クレイは殺到してくるワイバーンを見て、ニヤリと笑った。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る