第115話 王都の騎士団へ道場破りに行く

新たな仲間達を連れ、冒険者ギルドへ向かったクレイ。


いきなり大量の冒険者登録、しかもそれが全員奴隷と言うのは、ヴァレットの冒険者ギルドでは前代未聞の事であった。そのせいでギルドは少し異様な雰囲気にはなったが、ルルとリリを連れて行った時のようにあからさまな拒否はなく、粛々と対応された。ルルとリリの時の事がサブマスターのゴーンがギルドマスターのサイモンに報告し、職員に周知されたためである。


そう、ギルドマスターサイモンが戻ってきたのである。


早速サイモンに呼ばれたクレイは、登録作業をルルとリリに任せ、ギルマスの執務室へと入った。


クレイ 「サイモン、戻ってきたのか」


サイモン 「色々と、騒ぎを起こしたらしいな?」


クレイ 「俺のせいじゃないと思うんだがなぁ」


サイモン 「まぁ、ウチの職員の対応がよくなかった部分もあったようだ、その点は謝る。ちょっと色々と、教育が行き届いていないところもあってな。冒険者の質も下がっているし、頭が痛いところだ。あ、お前のランクはCに戻すよう指示しておいたから、後でカードを受け取ってくれ」


クレイ 「ああ、ランクと言えば、ちょっと訊きたいと思っていた事があるんだが、オークを狩れないような連中がDランクを名乗っていたが? ランク認定が甘すぎないか?」


サイモン 「ああ、実は、スタンピードの影響で、冒険者の数が減ってしまってな。色々と、甘くせざるを得ない事情があったんだ。職員も新規採用を増やしたはいいが、教育が行き届かなくてな」


クレイ 「なるほどねぇ…」


サイモン 「まぁ、今後は少し引き締めて行くつもりだ。


しかし……まさか、よりによってこの街に、奴隷を大量に連れてくるとはな。当然領主に報告はせざるを得ないが、まぁやってるのがお前だから大丈夫だろうけどな」


クレイ 「ああ、領主様にはどこかで一度説明をしないといけないかもな」


サイモン 「奴隷を集めてどうするつもりだ? 全員冒険者登録させたようだが」


クレイ 「ああ、奴隷ならば、絶対に裏切らないからな」


サイモン 「街を離れていた間に、仲間に裏切られた体験でもあったか?」


クレイ 「……まぁそんなところだと思ってもらってもいい。だが、奴隷扱いする気はないよ。冒険者として自由に活動させるつもりだ。普通の冒険者と同じように扱ってくれるとありがたい」


サイモン 「そうか、分かった。職員にも周知徹底しておく。そうだな、人数が多くなるなら、クランにしてもいいかも知れないな」


クレイ 「なるほど、そういう手もあるな。ところで……ちょっと相談があるんだが」


サイモン 「相談? おお、いいぞ。お前はなかなか頼ってくれないからな。なんだ?」


クレイ 「王都の軍が投獄している捕虜を開放させる方法を知らないか?」


サイモン 「なんだって??? 捕虜を開放?!」


クレイ 「もちろん敵国の捕虜を無条件で開放は無理だろうが、奴隷として払い下げさせるとか。既にそうして奴隷商に売られた捕虜も居る。それと同じように放出させる良い方法はないかな?」


サイモン 「…なるほど、今回連れてきた奴隷達は戦争奴隷の払い下げを購入したというわけか。そしてその捕虜たちに、上官も助けてくれと頼まれたというところか? …図星か。だが…


…それは、難しいだろうなぁ。放出できる捕虜は奴隷として既に払い下げられている。今の時期に捕虜として虜われたままの者というのは、放出できない理由がある者だけだろう」


クレイ 「だよなぁ…」


サイモン 「だが、お前には強力なコネがあるじゃないか。それを使えばあるいは……?」


クレイ 「親父に頼んでも、軍にそこまでの伝手はないだろう」


サイモン 「何を言ってる、今、王都の騎士団のトップに居るのはお前の叔母だろう? 頼んでみたらどうだ?」 


クレイ 「…ジャクリンか。あのオバサンは俺は苦手なんだよ。一度殺されそうになったし」


サイモン 「殺されそうに…?」


クレイ 「ああ、魔力がない俺の存在は、ヴァレット家にって災いでしか無いからってな。本気で殺そうとしてきた」


サイモン 「ジャクリン・ヴァレットは剣の腕だけで騎士団長の座にまで上り詰めた実力派だろう? それなのに(お前が)生きてるってことは、本気じゃなかったんだろう?」


クレイ 「いや、本気も本気。あれはマジだった。だが、魔導銃を使ってなんとか撃退したんだよ」


サイモン 「ああ、なるほど…」


クレイ 「あの頃の魔導銃はまだ試作段階だったから、かなり苦戦を強いられたけどな。今なら…」


クレイ 「うん、思い出したらだんだん腹が立ってきたな。そうだな、あの時の文句を言いにいってもいいかも知れないな。謝罪と賠償を要求してもいいだろう」


クレイ 「そうだ、ラルクも連れて行こう、王都の騎士団まで案内させよう」


サイモン 「ああラルクが元騎士だったのを聞いたのか。奴も強い奴と戦うのが好きだから、王都で古巣の騎士達と練習試合でもさせると言ったら喜んで行きそうだな」


クレイはルル・リリとガルム組に、今後はこの街で指示があるまで冒険者として活動しているようにと指示をし、ラルクを探しに行った。




  * * * *




『たのも~!』


王都の騎士団の屯所。そこに二人の冒険者がやってきた。


騎士 「なんだお前らは?」


ラルク 「道場破りに来た」


騎士A 「なんだと? ここだどこだか分かって言ってるのか?」


ラルク 「もちろん。王都を守る騎士様達の詰め所だろう? 奥に訓練場もある」


騎士A 「武者修行に来た冒険者というところか? 王都の騎士団に来るとは命知らずな奴め。面白い、相手をしてやろう。来るがいい」


そうしてラルクとクレイは騎士団の訓練場へと通された。そこには若い騎士達が何人か剣の鍛錬をしていた。


騎士B 「なんだ? 誰だ?」


騎士A 「武者修行に来た冒険者らしい」


騎士C 「武者修行? 王都の騎士団にか? 命知らずにも程があるだろう」


騎士D 「いいじゃないか、練習相手に丁度いい。少し遊んでやろうぜ」


ラルク(クレイに向かって) 「手を出すな、俺一人で十分だ」


ラルク(騎士たちに向かって) 「さて、稽古をつけてやろう。木剣でやるか? なんなら真剣でも構わんぞ?」


騎士A 「その生意気な口、いつまできいていられるかな…」


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