第114話 熱望する奴隷達
ダブエラ共和国の特殊部隊に所属していた十五名が新たにクレイの仲間になった。(奴隷の身分ではあるが、クレイは奴隷ではなく部下として扱うつもりである。)
ちなみに彼らの部隊の正式名称は第一特別攻撃隊だったそうだが、通称ガルムと呼ばれていたそうだ。
とりあえず、ガルムの十五人にはしばらくはリルディオンで過ごしてもらう事になる。何はさておき、まずは治療である。体を治し、洗浄し、キレイな服を着せて食事をさせる。その後は念のため、心と体を癒やすため、2日ほどは宿泊施設でゆっくり休んでもらった。
その後はいよいよ、装備を与え教育である。クレイの奴隷として守って欲しいこと、冒険者としての基礎知識、魔導銃の扱い方…教える事は色々ある。
もちろん、リルディオンに関する事はすべて秘密、絶対に誰にも喋らないように命じる。リルディオンの時代の魔導技術は今の時代の文明を超越してしまっている。その気になれば世界を征服する事も可能であるほどに。だが、リルディオンは今の時代の人間達にその技術を提供する意向はないらしい。今協力してくれているのはクレイに協力しているに過ぎない。クレイがこの時代・この世界の唯一の旧時代人=リルディオンが仕えるべき主であるとリルディオンに認定されているためである。もちろん、クレイがその気になれば世界を征服し王になる事も可能かも知れないが、クレイはそんな事に興味はない。
ガルムの隊員達の教育は、カラザに任せるつもりだったのだが、いまひとつカラザはメンバーとギクシャクしたままなので、ルルとリリと一緒にクレイも教育に参加する事にした。
元々訓練された兵士だったので覚えは非常に早く、二週間後にはダンジョン内でバリバリ狩りをしていた。もう冒険者として十分やっていけるだろう。
クレイ 「さて、今後はヴァレットの街に移動し、しばらくは冒険者としてやっていってもらう」
ライザ 「アンタ…、いや、主様には、感謝している、います」
※ライザはガルムの副隊長だったそうで、捕虜奴隷組のリーダー的な存在であった。
クレイ 「別に敬語はいらないよ、冒険者は敬語は使わないもんだ。気をつけてくれ」
ライザ 「…そうか。本当に冒険者として扱ってくれるんだな。正直未だに半信半疑なんだがな…。手足を斬られ惨めな奴隷だった俺達が、こうして冒険者の真似事をしているとは…」
クレイ 「真似事じゃ困るんだがな。いずれダンジョンの攻略を予定しているが、まずは冒険者として生活を安定させてくれ」
ライザ 「なぁ…主様…」
クレイ 「呼びにくいだろう、クレイでいい」
ライザ 「クレイ……様?」
クレイ 「様もいらない」
ライザ 「いや、俺達は奴隷なんだから、様ぐらいはつけさせてくれ」
クレイ 「まぁいいけど」
ライザ 「クレイ様には、本当に感謝している。これ以上、ワガママを言ってはいけないとは思うんだが……」
クレイ 「なんだ? 何か足りない物があるなら遠慮なく言ってくれ」
ライザ 「その…、もう一人、助けて欲しい人物が居るんだ」
クレイ 「誰だ? 別の奴隷商に売られた仲間がまだ居るのか?」
ライザ 「…俺達の部隊の隊長だった人物、アダモ隊長だ」
クレイ 「ほう…。それで、そのアダモ隊長は今どこにいるんだ? どこかの奴隷商で売りに出されたか?」
ライザ 「いや、隊長は…今でも王都の軍の地下牢に閉じ込められたままだと思う。数々の戦果をあげてきたアダモ隊長は、ダブエラ共和国の英雄的存在だ。捕虜としての価値と危険度が俺達とは違うので、払い下げられる事はないと聞いた」
クレイ 「捕虜のまま…? 奴隷として売られたのならともかく、俺に軍の重要な捕虜を開放させるようなコネはないぞ…」
ライザ 「だが、クレイ様なら、転移を使って捕虜をコッソリ連れ出す事も可能なんじゃないか?」
クレイ 「おいおい…。俺はこの国で生まれ育ったこの国の国民だぞ? この国の法律を犯してまで他国の捕虜を救出する義理はないぞ? 大体、救出した後どうする気だ?」
ライザ 「国外へ脱出させるとか―――祖国はもうこの国の一部だから、帰っても無駄だろうが、どこか他の国にでも」
クレイ 「それをして、俺に何のメリットがある? お前達は俺の仕事を手伝ってもらうが、犯罪者になってまでお前たちの隊長を逃しても、俺にはメリットが何もないな。それどころか、国外に逃がせば、いつか再び軍を率いてこの国に戦争を仕掛けてくる可能性もあるんじゃないか? 確かに、この国がやってる事は褒められた事じゃない部分もあるとは思う。お前たちの境遇を気の毒には思うところもある。だが、それでも自分の国だ。わざわざ自分の国が危険に晒されるような真似を俺がする理由はないよ…」
ライザ 「…この国を攻める事はしないとアダモ隊長が約束してくれたら? せめて、どこかで静かに暮らさせてやりたい」
クレイ 「悪いが…その約束は信用できない」
ライザ 「…まぁ当たり前か。しょせん、俺達は他国の人間だ。助けてもらったとは言え、立場は相容れないのは仕方がないか…」
クレイ 「別にお前達の隊長が約束を守らない人間だとは思わないが、時が経てば状況も変わる。状況が変われば……人生何が起きるか分からんからな。まったく想像もしていなかった道へを進む事もあるもんだ」
ライザ 「…ああ、俺達も、奴隷になって冒険者になるなんて、想像もしていなかったからな」
クレイ 「とは言え、まぁ、なんとか正規のルートで牢から出せないか、当たっては見るよ。
例えば、完全に自由にさせる事はできないにしても、お前たちのように、奴隷として買い取る事ができるかも知れないしな」
ライザ 「本当か! それでも十分だ、よろしく頼む」
ライザ達十五人から熱い期待を込めた眼差しがクレイに注がれている。それを見て、いらぬ約束をしてしまったかと焦るクレイであった。
クレイ 「ただ、かなり難しい、というか、ほぼ無理な気がするから、期待はしないでくれよ…」
ヴァレットの街に転移で移動したクレイ達。
転移先は城外、門からは影になって見えない場所である。ちょうど良さげな場所を見つけてあるのだ。
わざわざ城外に転移したのは、門から入って入場記録を作るためである。居ないはずの奴隷が十五人も町中に居たらマズイことになるだろう。
門番にも、今後この奴隷達も街で生活する事になるからと挨拶したが、門番は渋い顔をし、この街では奴隷の商売は禁止されていると忠告してきた。
奴隷商と間違われた事に気づき、クレイは慌てて自分は冒険者であり、奴隷達も全員冒険者として働く予定だと説明した。
門番も、それ以上は特に止める理由も見つからず、そのまま記録だけして入場することができた。(ヴァレットの街は奴隷の売買は禁止されているが、奴隷の入場が禁止されているわけではない。)
クレイは、まずは宿をとる事にした。
ただ、十五人が泊まれるほど部屋がまとめて空いている宿はなかったため、三つの宿に分かれて泊まる事になった。
宿代は前払いが普通なので、三日分の宿代をクレイがまとめて支払った。以降はダンジョンで魔物を狩り、それを売って自分達で払うようにと指示する。というか、訓練の間に狩った魔物がマジックバッグに入っているので、それを売って当面の資金とすればよい。
そのためには、まずは冒険者登録である。
クレイは奴隷達を連れて冒険者ギルドへと向かった。
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