第105話 猫娘ズ、ラルクと再戦
クレイが猫娘二人に渡したのは思考加速用の魔導具である。カチューシャのようなデザインだが、頭部に被せるのではなく額に水平に
その魔導具の中央部には小さな魔石が嵌っており、それを中心に美しい紋様(魔法陣)が左右に描かれている。装着するとサイズが自動調整され、簡単には外れない。
最初、クレイは、頭部に被せるカチューシャタイプで作ったのだが、ふざけて猫耳付きのデザインにしてしまっていた。だが、相手がリアル猫耳娘だったため装着できそうになかったので、額に付けるタイプで作りなおしていたのだ。
クレイが部下にする者達には当然、身体強化の魔導具を支給する予定であった。ただ、今まで猫娘二人に魔導具を装備させていなかったのは、まずは銃の扱いに慣れてから順番にと思っていたためである。最初からフル装備でも問題なかったかも知れないと後で思ったが、クレイにとっても初めての事なので、結構行き当たりばったり、手探りで進めている状態である。
リリ 「およ、ちょっと頭がクラクラするにゃ」
ルル 「なんか変な感じにゃ~」
ルルとリリも初めての思考加速体験である。
クレイ 「すぐに慣れる」
そして、クレイの指示でリリがラルクの前に進み出た。
クレイ 「今度は身体強化有りでやる。先程と同じだと思うと足を掬われるぞ」
ラルク 「ふん、結果は変わらんさ、身体強化を使っていなかったのは俺も同じだからな」
リリ 「さっきは勝負がつかなかったけど、今度はちゃんと決着をつけるにゃ!」
リリとラルク、再戦である。構えたラルクに小太刀の木剣でリリが打ち込んでいく。受け止めるラルク。切り結び始める二人。
リリは、最初は加速された思考と身体の動きのズレに慣れておらずぎこちなかった。だが慣れてくると、リリが徐々にラルクを圧し始める。元々、勝てないまでもそこまで大きな実力差はなかったのだ。思考加速が加われば、リリがラルクと互角に戦えても不思議ではない。
ラルク 「おお、なかなかやるな」
Eランクの剣士が、Aランク剣士と互角に戦っている、それだけで十分に異常なのである。
ランクが一つ違えば絶対に勝てないほど実力に開きがあると言われている。ましてやAランクとなれば、神業を使う人外の存在と一般人からは見えるレベルなのだ。しかもラルクはAランクの中でも上位に位置する実力者である。
勢いに乗るリリ。
徐々にラルクの癖も見切るようになり、ついにラルクは防戦一方になってしまう。
だが…
ラルク 「でぇわ! 俺も本気を出そうか。俺も身体強化を使わせてもらう」
そう、ラルクは未だ身体強化を発動していなかったのだ。
身体強化の短い呪文を唱えると、ラルクの体内に魔力が廻り、ラルクの身体能力が強化される。
再び撃ち合う二人。ラルクを圧倒しつつあったリリだが、ラルクの身体強化で再び互角の展開まで戻されてしまった。
互角の展開、のよう見えたが…しかし、剣術についてはラルクに一日の長がある。一方リリは、小太刀が得意と言っても特に誰かに師事した事があるわけではなく、身体能力に任せて剣を振り回しているだけである。そのため、リリの攻撃はバリエーションが少なく単調になりがちだが、その隙を突かれた。ラルクの見事なカウンター技が決まり、リリは小太刀を弾き飛ばされてしまう。
いくら思考が加速されていても、判断を誤れば同じである。隙を見せ相手を騙し誘導する技に乗ってしまえばどうにもならない。思考は加速していても、体の動きは変わらないのだ。回避不能な体勢に誘い込まれ、もう間に合わないのであった。
リリ 「うにゃぁ! …やられたにゃ…」
喉元に木剣を突きつけられ、ガックリ肩を落とすリリ。
クレイ 「リリが勝つかと思ったんだが…」
ラルク 「いや、俺のほうが技の引き出しが多かっただけだな。その娘、ちゃんと剣術の技を学べば化けるぞ…」
戻ってきたリリの頭をポンポンと撫でるクレイ。それを見てルルが前に出た。
ルル 「次は私にゃ! 今度は負けないにゃ!」
クレイ 「ルルはコレを使え」
クレイはマジックバッグから木製の爪刃を出して渡す。それを装着し、素振りをして確かめるルル。
ルル 「ぴったりにゃ!」
これは、リリがラルクと戦っている間にクレイがリルディオンに指示して作らせておいた。先程まで着けていたミスリル合金製の爪刃と同じ設計で、刃だけ木製にしたものである。既に設計図もあるし、材料も木なので入手が困難ということもなく、リリが戦っている間に製造可能であったのだ。
休憩不要とラルクが言うのでそのままルルとの模擬戦が始まった。
前回、ギルドの訓練場で戦ったときはラルクの勝利で終わっている。ルルはその雪辱をしたかったのだ。そして……
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…結果は見事、ルルが勝利した。剣を飛ばされ、地面に倒されたラルクの喉元にルルの爪刃がつきつけられていた。
リリ 「うにゃぁ! 私は勝てなかったのに」
クレイ 「仕方ないさ、リリはラルクと同じ、剣同士だからな。剣術ならラルクが培った経験と技が生きる。だが、ルルの武器は変則的、戦い方も変幻自在。ラルクも実力をあまり出せなかったってところだろう」
ラルク 「くそっ、俺もまだまだ修行が足りん…」
ルル 「主様、褒めてにゃ!」
だが、クレイの元に駆け寄ってきたルルは膝が抜けて倒れそうになる。それを慌ててクレイが抱き支える。
クレイ 「ルル、さては無茶したな?」
ルル 「バレたにゃ?」
リリ 「どういう事にゃ?」
クレイ 「リミッターを外したな。というか、初めて使ったのによくそこまで制御できたな?」
リリの時は思考の加速は通常の五割増し程度までであったが、それをルルは戦闘中に三倍まで引き上げて使ったのだ。
初めて使うので、慣れるまで思考加速には制限を掛けてあったはずなのだが…。思考加速に副作用はないが、初めて使うとちょっと脳に負担が大きいのだ。
だが、ルルは自分の強い意志でそのリミッターを外してしまった。ラルクに雪辱したいというルルの闘志がそれを成し遂げたのである。(もともと、精神の集中・緊張に連動するように作られているのでそのような事が起きたのであった。)
クレイ 「少し休んでろ。ま、少し目が回る程度だ、すぐに戻る」
リリ 「ズルいにゃ! 私もパワーアップして再挑戦だにゃ」
クレイ 「まぁ待て、次は俺の番だ」
そう言いながらクレイがラルクの前に出る。
クレイ 「休憩はいるか?」
無用というラルクの返事を聞いたクレイは、全身の身体強化を高強度でオンにした。
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