第106話 超人クレイ
以前は身体強化用の魔導具をいくつも装着していたクレイであるが、現在はほとんど何も身に着けていない。ほぼ全ての機能について、魔法陣を直接肌に特殊インクで焼き付けるように変更したためである。
以前は、外部に
※一度描くと簡単には消すことができないのだが、もし万が一魔法陣の差し替えが必要になった場合は、リルディオンの治療で皮膚をキレイな状態に
魔力供給も、外部
さらに、魔法陣も最適化され、効率も以前の数十倍にもアップしている。
これらをフルに発動すれば、クレイはこの世界の常識を凌駕する超人となれるのである。
当然、テストはしてきたが、いつもダンジョン内の魔物相手であり、人間相手に使った事はなかった。人間相手にもどこまで通用するか試してみたいと思っていたのだ。十分通用する自信はあるが、とは言え相手はAランクの中でも上位の剣士、侮れない、何があるか分からない。果たしてどうなるか―――
――結論から言うと、予想通り、クレイの圧勝であったのだが。
いや、圧勝というレベルではない。勝負にすらなっていなかった。なぜなら…
クレイは銃を使うに当たって思考加速だけしか普段は使っていない。それもそれほど高強度の思考加速はしていない。だが、今回は思考加速以外の身体強化もすべて起動。それも、かなりの高強度強化を行ったのだ。
思考加速、視力聴力増強、骨・関節の強化、筋力増強。それにより、思考だけでなく身体の速度そのものが加速される。加速された思考の速度に身体の動きが追従してくるようになるのだ。
しかも、強化率はリルディオンからのエネルギー供給により天井知らず。それにより、世界の時間が止まって見えるほど、クレイと外界の速度差が生じてしまう。まるで、止まった時間の中で一人だけが動けるような状況である。
(クレイは前世で幼い頃好きだったとあるアニメから、この身体強化総動員加速を【加速装置】と心の中で名付けたのであった。)
クレイは半停止した世界の中で、一歩踏み込み、剣を横に薙ぎ払う。狙ったのはラルクの構えている剣である。(さすがにこの速度領域で本気でラルクの体を打ったら、木剣と言えども
クレイに打たれた剣はそのままラルクの手をすっぽぬけ、飛んで行ってしまった。木剣を
クレイ 「まぁ達人ほど、ゆるく握ると言うし、仕方がないか」
ラルク 「……あ、れ?」
気がつけば眼の前に剣を振り切ったクレイが居り、自分が構えていたはずの剣がなくなっている。
クレイの打った衝撃が強すぎて、ラルクの持っていた木剣はどこか遠くに飛んで行ってしまった。
クレイ 「結構良い木剣だったのに、もったいないことをした」
叩き斬ろうとしていたのだから何をか況やであるのだが。
ルル 「大丈夫にゃ! 取ってくるにゃ!」
それを聞いたルルが止める間もなく走り出して行った。
リリ 「私も行きますにゃ!」
クレイ 「あ、おいまて……、まぁいいか、ルルとリリなら大丈夫だろう」
とは言え、木剣は草原フィールドの生い茂る草むらの中に落ちたようで、発見するのは困難だろう。ルルとリリなら発見できるかも知れないが、戻ってくるのには少し時間が掛かかりそうである。
そこで、クレイは二人を待たず、もう一本木剣をマジックバッグから取り出してラルクに渡した。先程の高級木剣とは違い、今度は量産品の安物の木剣なので、壊れたり紛失したりしても惜しくない。
クレイ 「今度はよそ見するなよ?」
ラルク 「あ…ああ。そうだな…ちょっと気を抜いてしまったか…?」
ラルク (…なんだったんだ、今のは? まったく反応できなかったが……クレイの言うとおり、ちょっと油断して余所見をしていたか…? いやいや、余所見した憶えはないんだが……たとえ余所見していようと、攻撃される前にその気配は察知できる…はず。いや…まさかな)
気を取り直して、再び仕切り直すラルクとクレイ。
今度はクレイの木剣による攻撃をラルクはなんとか剣で受け止める事ができた。
ラルク (お…っと。なかなかやるな。だが、反応できないほどじゃない。やはり先程のは偶々か…)
クレイは、先程の【加速装置】では強化が過ぎるのが分かったので、大幅に強化の度合いを下げたのである。―――それでも十分ラルクを驚かせる速度ではあったのだが。
クレイ (コレくらいなら余裕で受けられるか、さらにパワーアップしても良さそうだな。技は相手のほうが勝っている、剣術について俺は素人なのだから。あまり極端に手加減していると足を掬われるかも知れんからな。)
※クレイは全身の
そして、さらにクレイの速度が段階的にアップしていく。
どんどん加速し続ける高速の連撃。
それでも、何発かは受け止めたラルク。剣の腕はやはり大したものである。だが…
ついに受けきれなくなったラルクの腕にクレイの木剣の一撃が決まる。ラルクの腕は折れ、剣は地に落ちてしまった。
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