第104話 なんでお前が居るんだよ?

棍棒を振りかぶり襲いかかってきたゴブリンを軽快なフットワークで躱し、すれ違いざまに小太刀で斬り捨てるリリ。だが、小太刀を持つ手に手応えがまるでない。斬られたゴブリンはまるでプリンを斬るようにプルリとふたつに分かれて地に落ちた。


リリ 「! これは…すごい切れ味にゃ!」


それを見たルルも、自分もと即座に走り出す。後ろにいた数匹のゴブリンの中へ走り込み、縫うように走り抜けながらすれ違いざま猫パンチ? を放って行く。


ルルが走り抜けた後、ゴブリンは全て輪切りになって崩れていく。


ルル 「おおー、これ、凄いにゃ、最高にゃ!」


リルディオンで作ってもらったのはミスリルを混ぜた合金製の刃を使った爪と小太刀である。


ミスリルは魔力を非常によく通す。ミスリルを使った武器や防具は、魔力を通す事で様々な効果を付与する事ができるのだ。(もし街の鍛冶屋で同じものを作ってもらおうとしたら、目玉が飛び出るほどの金額になるのは間違いない。)


刀身に魔法陣を刻み付与した効果は、まず刀身の強化。これはミスリルを使った武器防具では基本である。ミスリルは鉄より軽量でかつ強度も強いが、そこへ魔力を流す事でさらに頑強になるのだ。


そしてもう一つ、魔力の刃を形成する魔法陣も加えた。剣の実刃の上にさらに魔力によって鋭い刃が形成され、恐ろしい切れ味となるのだ。


ただし、魔力を通して強化される武器や防具は、通常は使用者の魔力を吸って効果を付与するため、使用者の魔力が消費されてしまうのだ。魔力が少ない者だとあっという間に魔力が底をついてしまう場合もある。


だが今回製作したブレードは柄の部分(手甲部分)に装着された魔力を充填した魔石を動力源となっているので、使用者の魔力を消費しない。


使われている魔石も、以前クレイが使っていた魔石バッテリーとは違う、リルディオンで作られた超高圧縮魔石である。容量が以前とは段違いに多く、丸一日程度は連続使用が可能となっている。


使用時には魔石に充填された魔力が消費されるが、未使用時には使用者と周囲の空気中にある魔力を少しずつ吸い込んで自動的に魔力が回復する自動充電式となっている。あまり長期間連続して使用し続ける状況でもない限りは、魔力が切れることはないだろう。(仮にバッテリー切れを起こしても、充填済みの魔石と交換すれば使い続ける事が可能となるのだが。)


新しい武器が気に入ったようで、ブンブンと素振りをするルルとリリ。


ただ…


二人とも高速で駆け抜けながら斬ったので返り血を浴びる事はなかったのだが、当然、斬られたゴブリンの死体から血が流れ、辺りに広がっていく。


クレイ 「…臭いから、違う階層に移動しようか…」


ルル 「それがいいにゃ」

リリ 「そうするにゃ」


獣人は人間より鼻が良いので、臭いもなおさら辛いのであった。


さらにクレイは転移を発動し、階層を移動した。段階を踏まず、いきなりオークが居る階層に転移である。


オークの皮は強靭で、初心者と安物の鉄の剣の組み合わせでは斬れない事もあるのだが……


鬼に金棒・ルルに爪刃・リリに小太刀。二人の身体能力と合わせて、オーク程度であれば無双できる。調子にのって遭遇したオークを次々と蹂躙していく二人の猫娘。さすがに魔導銃乱射とは違って階層のオークを根絶やしにしてしまう事はなかったが、切りがないので適当なところで二人を止め、帰る事にしたクレイ。


だが…そこでなんと、予想外の人物と遭遇してしまった。


クレイ 「なんでお前が居るんだよ?」


ラルク 「…って! 原因はお前だよな?! お前が! 飛ばしたんだろう?! ダンジョンに! 俺を!!」


クレイ 「ああ? …ああ、まぁそうだが…送ったのはダンジョンの一階層だったはずだが? なんで三階層に居るんだ?」


ラルク 「それはなぁ…」


クレイ・ルルリリ 「?」


ラルク 「俺が方向音痴だからだ!!」(どやっ)


ずっこけるルルとリリ。


クレイ 「…いくら方向音痴でも、上下くらい分かるだろうに…」


ラルク 「知らん、適当に歩いてたらここに来た」


ルル 「Aランクなのに方向音痴にゃ?」

リリ 「方向音痴でもAランクになれるにゃ?」


クレイ 「いや…Aランクだからこそ、方向音痴でも今まで生き残ってこれた、というべきかもな…」


ラルク 「いつもはパーティの仲間メンバーと一緒だから迷う事はないんだよ。というか…


…ここで会ったのも運命だよな、お前もそう思うだろうクレイ? 今度は逃さない、模擬戦の続きと行こうぜ!」


クレイ 「ことわ……いや、待てよ、ここでちょっと練習台になってもらうか! いやでもさすがにソレ・・じゃ厳しいか…」


ラルクが手に持っていたソレ・・は、おそらく魔物が持っていたであろう錆だらけの鉄の剣であった。


ラルクほどの剣士であれば木剣でも魔物を両断できる。だが、何匹も魔物を斬り裂いているうち、さすがに木剣は持たず、折れてしまったのだ。仕方なく、ラルクは倒した魔物が持っていた剣に持ち替えたのである。


ラルク 「俺はコレで構わんぞ? 優れた剣士は剣を選ばんのだよ」


クレイ 「いや、それじゃ多分無理だろう、試しにちょっとリリ、ちょっと軽く打ってみろ?」


クレイの目で促され、リリがラルクの剣に向かって小太刀を振るう。慌てて受ける姿勢のラルク。だが、ラルクの持っていた剣は一合で刀身の中程から切り飛ばされてしまった。


ラルク 「おお、すごい切れ味の剣だな…」


クレイ 「斬れ過ぎる―――それで模擬戦はさすがにちょっと危ないな。じゃぁ…コレを使え」


クレイはマジックバッグから大小の木剣を取り出した。長い方をラルクに、短い方をルルに渡す。


ラルク 「おいおい、(猫娘では)相手にならのは先刻分かったろう?」


クレイ 「それはどうかな……? リリ、ルル、これを装着しろ」


リリ 「なんにゃ? 新しい装備?」

ルル 「新しいアクセサリにゃ?」


クレイ 「新しい装備だ」


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