第103話 たいていのモノは作れますが?

街の武器屋にやってきたクレイとルル・リリ。


ルルとリリの二人は元々冒険者であり、慣れた得意な武器というものが当然あるわけであるが、クレイはその事についてあまり考えていなかった。武器は基本、魔導銃を使う前提だったし、近接戦闘用にも拳銃を渡すつもりでいたからである。


ただ、それ以外の武器(例えば短剣など)も補助的には持たせるつもりではいた。それをメインに使う事はないだろうが、やはり、銃以外の武器も携帯しておくべきだろう。だが、どうせ携帯するのなら慣れた武器のほうが良いのは当然である。ルルとリリとラルクの模擬戦を見てクレイもそう思い至ったわけである。


ただ、二人の武器は獣人の里で作ったものだったため少々特殊であり、この街の武器屋にはなく、特注になってしまうと言う事であった。


ルルは手甲鉤、この街で普及しているところの籠手(ガントレット)に爪のようにナイフを装着した形であるが、そのような武器を使う者はこの街ににはいなかったため、武器屋に在庫があるわけではなかったのだ。


また、リリは小太刀を希望したが、意外にもこれも珍しいものであった。リリが欲しいのは反りのある片刃の剣であるが、基本、この街で普及しているのは両刃の直剣なのである。反りの入った片刃の剣は、ルルの爪ほどレアな武器というわけではない。そのため冒険者ギルドには小太刀を模した木剣があったのだが。ただ、真剣でそれも小太刀となると、普通の武器屋には在庫はなかったのだ。


特注で作ってもらう場合の価格と納期を確認したが、品質はピンキリで値段次第、納期は3~4ヶ月は見てもらうと言われてしまった。


そこでふと、クレイは思いついた。リルディオンで作れないか?


自分(とリルディオン)の魔導具製作技術を合わせれば、面白い武器が作れそうな気がしたのだ。


クレイは心の中でリルディオンを呼び出す。(クレイの左目はリルディオンと繋がっているので、いつでもエリーと連絡が取れるのである。声に出す必要はない、思念だけで通信が可能なため、外からは一瞬沈黙しただけにしか見えない。)


リルディオンのインターフェースであるエリーが通信に答えた。二人の武器の製作が可能という事だったので、ならばそのほうが良いと、クレイは武器屋での発注を諦める旨を店に伝えた。


二人を連れてリルディオンに行こうかとエリーに尋ねたが、二人の身体的データは二人を治療した際にリルディオンに保存されているので必要ないという。


クレイが自分のイメージする武器の構想をエリーに伝えると、数分で製作可能ということであった。さすがにクレイも早すぎると思ったが……考えてみれば、リルディオンの施設のすべてを維持している、その補修用部品等もすべて自給自足で製造する、リルディオン内にある工場で作るのである。設計もリルディオンの超高性能人工頭脳が担当するのだ。それほど時間が掛からないのは不思議ではないかもしれない。


しかも、完成した武器は亜空間を通じてクレイのマジックバッグ内に納品してくれるそうだ。


クレイ 「これは便利だな…。他のモノも頼んだら作って送ってくれるのかな?」


エリー 『必要なモノがあればなんなりと。リルディオンはそれ単体で一つの街、一つの世界として機能するように作らていますので。およそ作れないモノは存在しません』


クレイ 「へぇ、それは、便利だな。今度なんか頼もう…」


そんな会話を脳内でしながら、クレイはルルとリリを連れて街の城門へと向かった。


新しい武器が届いても、街中でそれを振り回すわけにもいかないので、外に出てしまう事にしたのだ。


ここは魔物が跋扈する世界。城門は日が暮れたら閉じられてしまうのが一般的である。街の人間は用がなければ街の外には普通出ない。出る必要がある時は、護衛を雇う。


だが、例外がある。それは冒険者である。


陽も大分傾いてきた時間、城門から入ってくる者は多くても、出ていく者はほとんど居ない。訝しがる門番であったが、冒険者証を見せて、クレイ達は外に出たのであった。


街を出たクレイは城壁に沿って門に出入りする者達から見えない位置まで移動した。


ちょうど、マジックバッグにルルとリリの新しい武器を納品したとエリーから知らせが来たので、さっそく出して二人に渡した。


素振りをして感触を確かめる二人も嬉しそうだ。


ルル 「これは…! しっくり来るにゃ! 誂えたみたいだにゃ」


リリ 「不思議にゃ。初めて持ったのに手に馴染むにゃ。バランスも最高、今までより速く振れるにゃ」


クレイ 「ルルとリリの身体データに合わせて作ったオーダーメイド品だからな、合わないはずがない。ああだが、調整してほしい部分があったら遠慮なく言ってくれ、直してもらうから」


ルル 「エリーちゃんが作ったにゃ?」


クレイ 「エリーがというわけではないが、まぁ同じようなものか」


ブンブンと素振りをする二人。だが、ここではそれ以上できない。


クレイ 「ちょっと切れ味も見てみたいから、ダンジョンに移動するか」


転移魔法陣がクレイとルル・リリの足元に浮かび、三人は、ペイトティクバダンジョンへと転移した。


クレイが街を出て人目に付かない位置まで移動したのは、転移魔法を見られないようにするためであった。狭い城郭都市の中では、意外と人目につかない場所というのが少ないのだ。宿に戻って部屋の中から転移してもよかったのだが、武器屋の位置が宿より城門に近かったのだ。


クレイ 「さっそく獲物だ」


ダンジョン一階層。近くに居た数匹のゴブリンがクレイ達に気づき、襲いかかってきた。


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