第102話 すみませんでした!
通信が終わるなり、室内で成り行きを見守っていたサブマスのゴーンがクレイに駆け寄ってきた。
ゴーン 「すっ、すみませんでした! 知らなかったものですから!」
クレイ 「ああいいよ、仕方ない。黙ってた俺も悪いからな。俺はヴァレット家を出た人間だから、家に迷惑を掛けないよう事情を話したくなかったんだ。その辺、サイモンは全部事情を知っていたから話が早かったんだが…」
ゴーン 「サイモンが居らずとも、最初から言って下されば……。ロッテ、お前も失礼な事を言ってないだろうな?」
ロッテ 「はいっ、いえ、その、私も、知らない事とは言え、色々失礼なことを言ったような…」
クレイ 「いや、もういいよ。俺も留置場に一ヶ月も入れられるのも嫌だったので色々抵抗したが、冷静になって考えてみれば、疑うのも分からなくはない」
ゴーン 「留置場? ロッテ? どういうことだ???」
クレイ 「俺のギルドカードが本人確認でエラーになってな、不正使用を疑われたんだよ」
ゴーン 「まさか、魔力紋が一致しなかったのですか…? もしそうなら、いくらヴァレット家縁の方であっても無罪放免とは行かなくなりますが」
ロッテ 「いえ! 魔力紋は一致したんです。ただ、その後、魔導具に一部にエラー表示が出ていて…何か不正を働いた結果なのではないかと疑ってしまいまして、申し訳ありませんでした」
ゴーン 「エラーとは? 魔力測定推奨でそんな話は聞いた事ないが?」
クレイ 「ああいや、それもちょっと事情があってな。俺は生まれつき魔力がなくてな。それを補うために補助装置を使っているんだよ。だが、それがギルドカードを作った当時のものと今とは違うものに変わってるんだ。その辺で、何かしら不具合が起きたんじゃないかと思う」
ゴーン 「なるほど…本人の魔力には違いないので魔力紋は一致したわけですな」
クレイ 「その前に奴隷の冒険者登録でもあまりよい印象はなかったようだから、カードにエラーが出て警戒するのは当然だ」
ロッテ 「いえ、クレイ様の言う事をもっとちゃんと聞いて、臨機応変な対応をすべきでした」
ゴーン 「うむ。ロッテは融通がきかないところがある、そういうところは直したほうがいい。ギルマスが戻ってきたら報告させてもらう、何らかの処分があるかもしれない、それは覚悟しておけ」
ゴーンの言いぐさにちょっとムッとした顔のロッテ。
いいからという風に手をあげるクレイだったが、そこに横からポルトスが入ってくる。
ポルトス 「我々も……! 申し訳ありませんでした!」
近づいてきて膝をつくポルトス。一瞬遅れて衛兵達も全員膝をついた。
クレイ 「ああいいって。立ってくれ」
(※この世界ではあまり頭を下げるという習慣はなく、貴族など上位の者に対する場合は膝を付く事が多い。)
クレイ 「ただ、…ちょっと気になる事はあるけどな。随分無茶な取り締まりをしている様子だったが…?」
ヤーマ 「すっ、すみませんでしたっ! ポルトス班長は悪くないのです、ポルトス班長の担当する二班はそんな乱暴な取り締まりはしていません。さっきのは俺の独断で…俺はこの間まで一班だったのです…」
クレイ 「その一班というのはいつもそんな取り締まりを…?」
ヤーマ 「はい、割と強引に強気で行くのが一班のゲバン班長のやり方で。…ただ! 無理やり逮捕しても、その後ちゃんと調べて無罪の者はすぐに釈放してるのです、決して冤罪などは起こさないように注意しています」
ポルトス 「ゲバンも、いつもそんな取締方法をしてるわけではないのです。やるのは非常時、相手は裏社会の者など明らかに怪しい相手に対してだけです。善良な住民相手にそんな事はしない、…はずです」
クレイ 「それならまぁギリセーフ……なわけないだろうな。衛兵の狂言で逮捕というのはなぁ?
まぁ、ポルトスも言ってたが、治安維持のためには綺麗事も言ってられないというのも分かる。だが、度がすぎると衛兵が住民に嫌われるようになるぞ。
いくら相手が怪しかったにしても、公正なはずの衛兵が嘘をついて無理やり逮捕なんて行為が横行していると広まれば、信頼が失われる事になるだろう。ひいては領主家の監督責任にもなる。
家を出た身の俺が口を出す立場ではないが、それでも、あまり領主家が信頼を失う事はしないでほしいかなぁ…」
ポルトス 「はい! 申し訳ありませんでした。今後は隊長のダイスとも話し、信頼を失わないよう綱紀粛正に努めます!」
クレイ 「街を守る衛兵の仕事は大切だ、上手くやって下さい。
…さて、じゃぁ金を受け取って帰ろうかね…」
ロッテ 「あ、待って下さい、ギルドカードのランクを元のCランクに戻させて下さい」
クレイ 「ギルマスが居ないとできないんじゃなかったのか?」
ロッテ 「サブマスの権限で! 構わないですよね? 事情が事情ですから」
サブマス 「うむ、王都のギルマスに連絡を取っています、返事が来次第変更を…」
クレイ 「いや! やっぱりいいや。Fランクのままで…」
サブマス 「え? でも…いやそれは……困ります。クレイ様はAランクのラルクと互角の戦いをしたと報告を受けています。そんな実力のある者を最低ランクにしておくなど……」
クレイ 「ランクアップしてもあまり良い事なさそうだしな。必要になったら、またその時にランクアップ試験を受けるよ」
サブマス 「いや、そうおっしゃらずに…」
クレイ 「というか、様とか敬語とかやめてくれ。俺はただの平民の冒険者、そういう事でよろしく」
結局、クレイはランクはFのまま、金を受け取ってギルドを後にした。
ゴーン 「ったく。鉄の爪のくだらん報告を真に受けて失敗したな。ポルトスも? まさかダイスがそんなすぐに動くとは思わなかったぞ?」
ダイスとは衛兵東隊の隊長だが、ゴーンとは古くからの友人なのであった。知った間なので軽い気持ちで “鉄の爪” のキムが言った話を流してしまったのだが、それを聞いたダイスが部下にクレイを調べておくように指示を出したのだ。
ただ、ダイスとしても、さり気なく探りを入れておけという程度のつもりであったのだが…、部下たちはそうは受け取らず。特に、一班から二班に移籍したてだったヤーマは功績を焦り、一班譲りの強引な手法をとって早期解決を狙ってしまったのであった。
ゴーン 「後でちょっと鉄の爪の連中にも釘を刺しておくか」
ロッテ 「鉄の爪、ですか? ボーサ・ズウ・キムの三人組のパーティですね。ボーサとズウはともかく、キムについては少し良くない評判も聞こえてきているのですよね…」
ゴーン 「そうだったのか。ちょっと注意が必要だな…」
* * * *
ギルドを出たクレイは、ルルとリリを連れて武器屋に向かう事にした。ルルとリリに近接戦闘用の武器を買ってやるためである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます