第83話 奴隷商へ行ってみたクレイ

「へへへ、旦那、どんな奴隷がお好みで?」


すぐに奥から男が出てきた。男は下卑た表情を浮かべながらクレイをジロジロ見ながら言った。


クレイはその男の情報を視界に表示させる。クレイの左目は、リルディオンで再生された義眼であるが、実は常時リルディオンと亜空間通信で繋がっており、いつでもリルディオンから情報を引き出せるのだ。


古代都市の遺物であるリルディオンが何故現代の情報を表示できるのか? それは、世界に記録されているデータベースにアクセスできるかららしい。


なんでも、この世界には亜空間に世界の全てを記録したデータベースがあるのだそうだ。そのデータベースには、リアルタイムで世界の事象が全て記録されているらしい。それは、リルディオンよりももっと古い、古代の賢人が作ったとも、あるいは神が作ったとも言われているが、リルディオンでさえも真相は不明だそうだ。


リルディオンはそのデータベースにアクセス可能なのだ。


ただ、無制限にデータベースにアクセスできるわけではない。アクセスできるデータベースと、そこから引き出せる情報には制限があるのだそうだ。


この世界には【鑑定】というスキルや魔法がある。それを使うと知りたい対象の情報を得る事ができるわけだが、何故そんな事が可能かと言うと、このデータベースにアクセスできるかららしい。そして、どこまで情報を引き出せるかは【鑑定】のレベルに左右されるが、それは見方を変えると、どのような種類のデータベースにアクセスできるか、どこまでの情報にアクセス権があるか、という違いとも言えるのだ。


そして、どこまでの情報が引き出せるのかクレイも完全には把握していないが、リルディオンはかなり高レベルのアクセス権限を保有しているようだ。この世界に現在生きている人間の情報はかなり詳細に引き出すことができるのであった。


男の名はゴダン。公の犯罪歴はないようだ。奴隷商として裏ではそれなりに際どい商売もしてきているようだが、グレーだが完全な黒ではないというところか。まぁ奴隷商などはどこもそのようなものだろう。


クレイ 「…格安の奴隷が居たら見せてくれ」


どんな奴隷が欲しいのかと尋ねられ、一瞬迷ったクレイ。こういう場合、下手なやりとりをすると損をする可能性があるのではないか? と思ったのだが……、商売で駆け引きをするような才覚は自分にはないと早々に開き直り、単刀直入に要件を言うことにしたのであった。


だが、格安と言われて少し顔を顰めたゴダン。


ゴダン 「予算はあまりないということですかね?」


金もないのに奴隷商に来るなということだろう。


クレイ 「そういうわけではないんだが…」


マジックバッグを作れば作るだけ高額で売れるクレイの財力ならば高額な奴隷を買うことも可能ではあるのだが…


クレイ 「…そうだな、安く抑えたいのは確かだ。欠損奴隷とか、ワケアリの奴隷とか、そういうのはいないか?」


重犯罪奴隷(※)であれば別だが、そうではない一般の欠損奴隷は、商品としては需要がない。なので二束三文で売られているとクレイは聞いていたのだ。


※重犯罪奴隷は死刑より重い刑罰として課せられるものであり、命を含むあらゆる権利を剥奪されている。そのため、身体欠損があっても一定の需要があるのだ。当然、決して人道的とは言えない使い方をされるわけだが。


だが、一般の奴隷は、虐待は法律で禁止されている。奴隷というのは、衣食住を(最低レベルにせよ)持ち主が保証する義務がある。商品として持っているだけでも、食費などの維持費が掛かり続けるのである。


何かしら特殊な才能でもあれば別だが、単純な肉体労働を期待されているのが奴隷である。まともに仕事の成果を期待できない欠損奴隷では、買い手もほとんどつかない。


かといって、売れないからと奴隷商が奴隷を処分すれば罰せられる事になる。


なので、欠損奴隷は奴隷商でも引き取りたがらない。


だが、商売上の付き合い等で、引き取らざるを得ないケースもある。その場合はタダに近いような金額でいいから、できるだけ早く叩き売ってしまいたいわけである。


(悪徳奴隷商ともなれば、不良在庫が増えて困った場合は、表には言えないような需要のある特殊な相手―――主に法的にある程度隠蔽が可能な権力を持つ貴族―――に売却する事も多いのだが。悪徳奴隷商ともなれば、そのような客ともそれなりに繋がりがあるものである。ただ、そのような客も決して多いわけではない。)


一瞬不快そうな顔をしたゴダンであったが、予算がないわけではないと聞いてすぐに下卑たニヤつき顔に戻り、言った。


ゴダン 「欠損奴隷なんてのは、まともな奴隷商なら扱いたがらないんですよ。食費が掛かるばかりで売れないし。売れても二束三文で、赤字になるだけなんでね」


ゴダン 「ですが、お客さん、運がいい。今日入ったばかりの掘り出し物があるんですよ…」


そう言ってゴダンが連れてこさせたのは猫獣人の少女であった。片足がなく、周囲の椅子やテーブルに手をつきながら、ぴょんぴょんと跳ねて移動している。


ゴダン 「この娘は姉妹で冒険者をしていたんですがね、先日ダンジョンで大怪我をしたとかで。命が助かったはいいんですが、この有様で。冒険者を続けられなくなって、売り飛ばされちまったってわけでさぁ」


クレイ 「売り飛ばされた? それは違法奴隷じゃないのか?」


ゴダン 「違法? いえいえ、まったく。こいつとその姉には借金があったようで。まぁ、借金の経緯については私は知りませんがね。返済能力がなくなったと判断した債権者に売られたんですよ。そういう契約だったようでね、何も違法性はありません」


ゴダン 「まぁ、値段は普通の奴隷とあまり変わりらないんですがね。片足ないので肉体労働には向かないですが、そこそこ見られる容姿をしてるんで、性奴隷として売れば十分稼げるでしょうからね」


クレイ 「姉妹と言ったが、姉のほうはどうしたんだ?」


ゴダン 「ああ、姉のほうは両手両足を失って、顔も焼けただれているような状態でしてね。妹のほうだけ買い取ったんですよ。姉のほうは二束三文で別の奴隷商が仕入れていきましたよ。姉のほうも体はきれいだったんで、その手の店に売ればそれなりに需要はあるんでしょうが、私の店はそっちの方面にはあまり強くないんでね」


ゴダン 「どうです?夜のお楽しみもバッチリですぜ?」


そのセリフを聞いて猫娘は身を固くしたように見えた。


クレイ 「…いくらだ?」


ゴダン 「金貨三百五十枚……と言いたいところですが! お客さんは運がいい! 今ちょっと金が急ぎで必要でしてね、今だけ特別価格! 金貨百五十枚で結構ですよ!」


クレイ 「半額なら百七十五枚だろうが」


ゴダン 「おや、お客さん、計算早いですね。でもまぁ細かいことはいいです、サービスで、百五十枚で! どうです?」




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