第84話 猫娘を買ったクレイ
結局、クレイは奴隷商が推していた猫獣人の娘を購入する事にした。
値引き半額というのが気に入ったのと、猫耳が気に入ったからである。
―――というのは言い訳で、【眼】による鑑定でクレイは娘の事情を知ってしまったのだ。
どうやら娘は実家が没落しかけて、両親を助けるために姉と二人で自分達自信を担保にして借金をしたようだ。二人は冒険者になって稼いで借金を返そうとがんばっていたが、無理をして難度高めのダンジョンに潜り続けていた。何度かは上手く切り抜けたが、結局失敗して奴隷に落ちる事になってしまったわけだ。金を貸したほうも欠損状態になられて、奴隷として売るにしても値が下がってしまい、損をしたようだったが。
クレイも、もし育ててくれた両親が困っていたら、助けられるなら助けたいと思うだろう。気持ちは分かるので、少し同情してしまったのである。
また、奴隷商が姉妹について言っていた内容には、概ね嘘はなかった事になる。叩けばホコリが出るのはどの奴隷商も同じだが、それほど悪質な奴隷商というわけでもないようだ。
娘は、このままでは、近いうちに娼館に売られて、死ぬまで使い潰されるだけだろう。
姉妹は猫系の獣人であるので、欠損がなければ身体能力は高いはずである。当初の予定よりは高い買い物になってしまうが、多少の出費が必要になる事も想定はしていたし、クレイの目的は達せられるので問題はない。ということで、クレイは娘を購入したのである。
金を払い、隷属契約を変更。クレイが主として登録された。ちなみにこの世界にはローンとか手形とかそういうものはほとんど普及していない。ギルドカードなどに貯金しておいてそこから直接引き落とすような技術はあるが、この世界のギルドという組織がいまいち信用できず、現金をマジックバッグに溜め込んでいるのであった。
余談だが、クレイがダンジョンで落としたウェストバッグ型のマジックバックはリルディオンに頼んで回収してもらった。(数日経っていたが、マジックバッグは変わらずそこにあった。落とした洞窟が入口に転移魔法陣があるため誰も入れないし、生物ではないのでダンジョンに吸収されてしまう事もなかったのだ。)
クレイ 「少し内密な話があるので、二人だけにしてくれるか? すぐに終わる、終わったらそのまま帰るから構わなくていいぞ」
ゴダンは言われた通り部屋を出たが、何を話すのか気になる。ゴダンは急いで裏に回り、盗聴用の伝声管に耳を付けて話を盗み聞きしようとした。
だが、話し声は聞こえず。それどころか物音一つしないので、不審に思い部屋に戻って見ると、そこにはもう誰も居なかった。
クレイは、ゴダンがドアを出た瞬間、転移を発動し、猫娘もろとも消えてしまったからである。
* * * *
クレイは猫娘ルルをリルディオンに連れていき、エリーに治療を任せると、折り返し王都に転移し、先程の奴隷商を再び訪れた。
ゴダン 「おや! …どうしました? 忘れ物ですか?」
クレイ 「先程買った娘だが…」
ゴダン 「まさか、気が変わって返品したいとか!? それは受けられませんよ?」
クレイ 「そうじゃない。確か姉が居ると言っていたな? その姉はどこにいる? 姉を買ったという奴隷商がどこか分かるか?」
ゴダン 「おや、ほう、姉のほうも買うつもりですか? なるほど~姉妹一緒にね、お客さんもお好きですなぁ」
クレイ 「なにか勘違いしてないか?」
ゴダン 「いえいえ、なんでもありません。姉のほうを買ったのは、多分ヴーミの奴だと思いますぜ。欠損奴隷ばかり扱ってる、格安の奴隷商でさぁ」
その奴隷商ヴーミは市場の外にテントを張って営業しているそうだ。
さっそくそこに向かったクレイ。テントに入ると、片手のない男が居た。どうやらこの男が奴隷商のヴーミらしい。
ヴーミ 「お客さんかい? 先に言っとくが、まともな奴隷が入用なら他に行ってくんな。うちは確かに値段は安いが、扱ってるのは欠損奴隷ばっかりだぜ?」
クレイ 「…ここに、手足を失った猫獣人の少女が居るな? その娘を買い取りたい」
ヴーミ 「あ? ああ……あれは……、駄目だよ。あれは明日、娼館に売る予定なんだ。手足も全部なし、顔も焼け爛れて半死半生だが、幸い体はキレイだったんでな、買い取るって娼館があったんだ。そういうのが好きな客も結構居るんだとさ」
クレイ 「娼館にいくらで売るのだ? それより高く買い取るぞ?」
ヴーミ 「話が早いね。そうだなぁ、金貨五ま…二十枚だな」
クレイ 「いいだろう」
即答で懐から金貨を取り出そうとしたクレイを見て、慌ててヴーミが言った。
ヴーミ 「いや! 違った! 間違えた! 金貨五十枚の間違いだった」
クレイ 「……いいだろう」
一瞬間をあけて、しかしクレイは承諾し金貨五十枚を取り出した。
実は、娼館に売っても、価格は金貨一枚程度になる予想であった。それが思いの外高額で売れてヴーミは大喜びである。
クレイも店主が足元を見て値を吊り上げているのは分かっていた。それでも文句を言わなかったのは、他の人間に買われてしまって、そこから買い戻すとなったら、どれだけふっかけられるか分からない。金でかたがつけば良いが、もっと厄介な話になる可能性もある。そうなる前、まだ売られておらず、店主に売る気があるうちに、言い値で買い取ってしまおうと思ったのだ。
手続きを済ませリリを受け取ったクレイは、ヴーミが背を向けた瞬間にリルディオンに転移する。
ヴーミ 「あれ、居ない。…帰ったのか? せっかちな客だな」
一瞬、
* * * *
もちろんリリもそのままエリーに引き渡し、治療を受けさせる。手足の欠損の復元、そして顔の火傷もキレイに治った。魔導具による義手義足ではあるが、普通の肉体と感覚的な遜色はない。
身分は奴隷のままではあるが、再び五体満足で再会できた姉妹は泣いて喜び、クレイに感謝し、誠心誠意クレイに仕えると決意したのであった。
狙い通りである。奴隷として渋々命令に従うだけの兵隊はいらない。積極的に、共に戦える(そして絶対に裏切らない)仲間が欲しいのだから。
ルル 「ご主人さまは良い人ニャね。このご恩は忘れないニャ」
リリ 「治療費はとても払えないけど、一生掛けてご主人さまに尽くすニャ」
身体欠損の治療は、ルルの借金の額を数百倍も上回るような高額な治療費が必要であるのをルルも知っていた。だからこそ、欠損奴隷が欠損を治療してまで売られる事がないのだから。
クレイ 「別に治療費とかかかってないから気にしないでいい。それよりも、奴隷としてお前にいくつか命令しておかなければならない」
ルル 「なんニャ?」
リリ 「私達にできる事ならニャンでもするニャ」
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