第82話 絶対裏切らない仲間を集めるには?

ダンジョン攻略に当たって、クレイは、自分の武器を与えた軍団を作って望むつもりであった。


クレイの武器はリルディオンの技術で大幅にパワーアップしている―――ダンジョン深層を一人で闊歩しても問題ないほどに。


実はクレイはダンジョンの深層の魔物相手に新しい武装のテストをしていた。そして、パワーアップした武器は十分深層の魔物相手に通用した。


だが、どれほど強力な武装を持っていても、やはり一人では限度があるのも実感した。一人でダンジョン内を彷徨えば、予想外の事態に出遭ったりもするものである。


ペイトティクバの攻略を『クレイ一人でやれるか?』と訊かれれば……おそらくやれる。やれるのだが、やはり一人だけでは色々と面倒な事も多いのも容易に想像がつく。


ダンジョン踏破となると、ただ魔物を倒していれば良いというものでもない。休憩や食事も必要だし、やっかいな罠や、やっかいな能力を持った魔物が居ないとは言えない。


万が一窮地に陥ることがあっても、今のクレイならば転移魔法陣で瞬時にダンジョンを離脱できるのだが。とはいえ、想定外の全ての状況に一人で対処するのは、不可能とは言わないがやはり大変な気がする。


例えば、群集型モンスターによる飽和攻撃などもありうる。とんでもない “数の暴力” で襲ってくる魔物相手に、仮に弾が永遠に尽きない超強力なマシンガンを持っていたとしても、やはり一人では限界があるだろう。


だが、クレイの新たな武装は強力過ぎるので、うかつに人に預けられないのだ。強力な武器を考えなしに世界に流出させ、もしそれが狂人の手に渡れば、世界を滅ぼしかねないからである。


武器はクレイの指示がなければ使用できないような安全装置を取付けておく


と言う事はもちろん考えている。というか、以前からすでに導入している。だが、いざという時、とっさに武器が使えないと問題が起きる可能性もないとは言えないだろう。


では、絶対に信頼できる人間だけを集めて武器を渡すようにしたらどうか?


これも、難しいと思う。父の人脈を頼ればある程度信頼できる人材は集められるかもしれないが、集めたすべての者の本性までを把握するのは不可能だとクレイは考えていた。クレイは前世の経験があるため、表向きは信頼できるような人の良さそうな人が、実は腹の底では腹黒い人物であった、などと言う事もあるのを経験的に知っていたからである。結局、人を信じるとは、裏切られても恨まない、本望だと諦められるかどうかじゃないかとクレイは思っていた。


だが、そこで、クレイはひとつのアイデアを思いついていた。あまり気が進む方法ではなかったが、エリーに相談し、その方法でやってみることにしたのだ。


そして、クレイがやってきたのは王都にある奴隷商であった。そう、その方法とは、奴隷を使う事である。


この世界の奴隷は単なる身分ではない、強力な隷属の魔法で縛られている。裏切られる事はない。秘密を漏らされることも、暴走して世間に害をなす事もない。場合によっては命を捨てるような命令さえも可能である。兵士として奴隷は使いどころがある。実際、戦争の際には奴隷が使われる事は非常に多い。もちろん、モチベーションは高くないので積極的な戦果を期待する事はできないが、重犯罪奴隷が捨て駒として使われる事は多いのだ。


※重犯罪奴隷は死刑よりも重い罪を犯した者達なので殺しても法的には問題はない。


ただ、クレイはヴァレット家の出身である。そしてヴァレット家は曽祖父の時代から奴隷制度に反対している立場である。それなのに奴隷を使うとなるとおそらく父や兄達は良い顔はしないだろうが仕方がない。


ただ、クレイも奴隷に対して非人道的な扱いをするつもりはなかった。むしろ、命令に従うだけの奴隷ではなく、仲間として積極的に戦って欲しいと思っている。


当然、仲間として信頼できると言う意味で、犯罪奴隷は使いたくない。犯罪奴隷ではない奴隷となると、違法奴隷か、それに近いグレーな奴隷(借金のカタに親に売られたなど)になってしまうだろう。そういう者たちを助けてやるのも悪いことではないだろう。


王都にやってきたは良いが、クレイには奴隷商に伝手などない。もちろん父親達を頼ってもそんな伝手はないだろう。仕方がないので、街にある奴隷商の店に適当に飛び込むしかない。


まぁ、多少悪質な奴隷商であったほうが、違法奴隷を助けてやれる確率は高くなるのでそれもよいかとクレイは割り切って、王都の裏通りにある一軒の奴隷商の門を潜った。


扉を開け中に入ると、店内は狭く、カウンターがあるだけであった。なんとなく、日本にあった古い質屋を想起させる。


クレイはカウンターに座っていた女に声を掛けた。


クレイ 「奴隷が欲しいんだが……?」


訝しげにクレイを見るカウンターの女は、よく見れば首輪をつけていた。この女も奴隷のようだ。


カウンターの女 「……少々お待ち下さい」


女はジロジロとクレイを見た後、カウンターの奥へ消えていった。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る