第81話 昔の仲間は……

数日後。領主の屋敷でクレイは父と兄にダンジョンのスタンピードについて詳しく聞いていた。


ダンジョン「ペイトティクバ」は極めて完成されたバランスの良い安定したダンジョンであると聞いていたので、スタンピードが起きる可能性について、クレイは考えたことがなかったのだが、詳しく聞いてみれば、大体十~二十年に一度、スタンピードが起きていたという。


ちゃんと街の歴史を学んでいればクレイも気づけたはずなのだが、領主として後を継ぐのは兄に任せ、只管魔法陣の研究だけに邁進してきたクレイは、その辺の常識が欠落していたのである。


そして、偶々運良く? クレイが生まれてから街を出るまでの間に、一度もスタンピードは起きなかったのだ。


ダンジョン内の魔物の分布や環境のバランスが良ければ、あるいは定期的に冒険者によって魔物が駆除されていれば、スタンピードは起きないはすであるが、深層まで到達できていない未管理のダンジョンの場合、深層で何かが起きてスタンピードが始まってしまう事はどうしようもない。


クレイ 「つまり、ダンジョンを最終層まで制覇してしまえば、スタンピードは起きなくなる?」


ブランド 「最終層に辿り着き、ダンジョンコアを破壊するか、ダンジョンコアの所有者となって管理ダンジョンとなれば、スタンピードの自然発生は抑制できる可能性が高い。もちろん、何らかの予想外のアクシデントで発生してしまう事はありえるがな。なんせ、ダンジョンについては分かっていないことが多いからな」


ブランド 「まさか、ダンジョン踏破を考えているわけではあるまいな? ペイトティクバは歴史の長いダンジョンだ。階層は増え続け、今では何階層あるのか分からない。当然深い階層になるほどモンスターの危険度も高くなっていくのだ…お前もリジオンの深層で歯が立たずに死にかけたと言っていたじゃないか…」


ワルドマ 「まぁ、クレイはリジオンを、リルディオンを手に入れたからそう考えるのも分からなくはないが、リジオンの場合は転移魔法陣でショートカットしただけで、最終階層まで自力でたどり着いたわけではないのだろう? ペイトティクバも同じ方法が通用すると? まぁ可能性がないわけではないが…」


もちろん、以前のクレイならば不可能と考えただろう。だが、今のクレイは違う。リルディオンの、古代の超文明の技術を手に入れたのだ。それは転移魔法だけではないのだ。


クレイ 「俺一人では無理でしょう……」


※家族団欒ではないので、クレイは少し余所行きの喋り方をしている。


ワルドマ 「……仲間が居れば可能だと? 歴史上、Sランク級の冒険者が何度も挑戦して、誰も成功していないのだぞ?」


クレイ 「確かに、簡単ではないかも知れませんが。もし、踏破できれば、今後、スタンピードによって被害が出る事はなくなるのですよね?」


実は、2日ほど前にクレイは冒険者ギルドに顔を出してきたのだ。当然、アレンやノウズ、パティと会えると思っていたのだが……三人の姿はどこにもなかった。また別の街に移動したのかも知れないと思ったが、ギルドマスターのサイモンから、三人がスタンピードから街を守るために命を落とした事を聞かされたのであった。


三人は、街と若い冒険者を守るため率先して前線に立ったのだ。立派な最後であったとサイモンは言っていたが、アレン達らしいとクレイも思う。


それほど深い付き合いがあったわけではないが、知り合いが死んだ話を聞くのはやはり寂しかった。そして…


…クレイは同じような悲劇を起こさないために、ダンジョンを踏破してしまおうかと考え始めたのだ。


以前のクレイとは違うのだ。今のクレイは、リルディオンで得た知識で以前よりもパワーアップしているのだ。とは言え(ダンジョン攻略は)そう簡単な事ではないのは分かっているが、どこまでやれるか、行けるところまで試してみてもいいだろう。


クレイ 「まぁ、行けるところまで行ってみますよ。危険? かもしれないけど、ほら、危なくなったら私は転移で脱出できるから」


ブランド 「そうだった、お前にはその手があったな…。まぁそれでも心配だが、くれぐれも無理をするなよ?」


クレイ 「まずは仲間を集めてから、ですけどね」


ワルドマ 「冒険者を集めるのか? 先のスタンピードで冒険者は大分数が減ってしまって、今は新人ばかりだけどな」


ブランド 「領兵の中から優秀な人間を貸してやったらどうだ?」


クレイ 「いや、それは……まぁ、ちょっと考えてみるよ…」


仲間を集めるとは言ったが、クレイは冒険者や兵士を使うのは躊躇するところがあった。なぜなら、クレイの武器を与えて使わせる予定だったからである。クレイの武器は強力すぎるのだ。それこそ、世界の支配構造をひっくり返してしまう事も可能なほど……


下手に野心のある人間にそれを託すのは危険だと考えていたのである。


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