第13話 恋心! セクハラ効果で勘違い
……ムラムラするな。
いや、間違えた。太ももを撫ですぎてムラムラしているのではない。
……イライラするな。
そう、イライラする。
なぜかというと、お友達にセクハラしてくれとか頼むから。
そして、お友達にセクハラしている俺を見てもなんとも思ってないから。
そりゃもちろん、自分が頼んだわけだから。それで怒り出すのはヘンな話だ。
実際、うかつちゃんが「なんで太ももを撫でてるんですかー」などと言い出したら「おいおい、君が頼んだんじゃあないか!」と反論するだろう。
でもさ?
言ってたじゃない?
うかつちゃんは俺のこと大好きだって言ってたじゃない?
嘘じゃないですよね。嘘じゃないよ。
宇生奈さんは嘘をつくような女の子じゃあないよ。
だからうぬぼれとかじゃあなく、彼女が俺を好きだと考えていいと思うわけ。
でもね、だとするとね。
おかしくないかなー?
普通さ、好きな男が他の女の子の太ももをイヤらしい顔でナデナデしてたら怒るんじゃないのー?
なんであんなに平気なのー?
おかしいよ、まったく……
――いやいや!
おかしいのは俺だ!
恋愛は禁止!
つまり、彼女が俺を好きになるのはNG!
だからいいんだよ、これで。
嘘じゃないんだよ、きっと。宇生奈さんの勘違いなんじゃないかな。
あるよね、あるある。
あいつのこと好きなんじゃないのー? なんつって。
しょうがない。しょうがないんですよ。
中学生なんて、自分の気持ちすらわかんないくらいだもん。
だから今回わかったってことよ。
目の前でさ、お友達にセクハラしてさ、それで喜んでるわけでしょ。
そんな男を本当に好きなわけないじゃない。
そうだよ、そんなわけないよ。
あっぶねー。うかつちゃんが俺を好きになってなくてよかったー。
「…………がくうっ……!」
三歩歩いて膝から崩れ落ちた。
うかつちゃんが俺のことを好きじゃないという事実を受け止めきれなくて、心が折れた……。
つらい、つらすぎる……そんな現実の世界で生きていける気がしない……!
――いやいや!
落ち着け。落ち着くんだ。
そんなわけないだろう。
べ、別に彼女のことなんてなんとも思ってないんだからねっ!
あれだし、ちょっと好みなだけだし。
いつから俺が彼女を好きになったと勘違いしていた?
そうだよ、宇生奈さんも俺も勘違いしてるだけ。
吊り橋効果ってあるじゃん。
一緒に吊り橋を渡るとドキドキして、それを恋愛のドキドキと勘違いするやつだ。
セクハラもドキドキするから、それで好きになっちゃったかもしれないと思っちゃんだ。
そうだし、セクハラ効果だし。
あぶねー、うっかり好きになっちゃったかと思ったわー。あぶねー、セクハラ効果だったわー。
ふー、やれやれ。
キーンコーンカーンコーン
お、放課を知らせる音だ。
今日はお友達ばかりにセクハラしちゃったからね。
帰りの車では、うかつちゃんにセクハラしないとね。うん。
ロータリーで待っていると、小さく手を振りながら、小走りで寄ってくる制服姿の美少女。
落ち着け……あまりの可愛さにときめいている場合じゃない。俺はセクハラをするのだ。
「先生、帰りましょう」
「うん」
さ、ここで自然に、ごくごく自然にお尻を触るのだ……。
ごくり……。
大丈夫、これは仕事なんだから、お尻を触っていいんだよ……。
ドキドキ……。
そりゃお尻を触ろうとしているんだから、ドキドキもしますよ。
ドキドキ……。
ドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキ
――うおおおおおお!
ドキドキしすぎてセクハラできねえええ!
「どうしたんですか、先生。顔が赤いですけど」
「ちょ、ちょ、ちょっとね」
「そうですか。さっきはありがとうございました先生。ねんねちゃん、とっても喜んでいました」
「あ、そう。そっか……」
「ど、どうしたんですか、先生。なんか顔が暗いですけど」
「ちょっとね……」
くそっ、どうしちまったんだ俺は。
セクハラはできないし、ドキドキはするし、彼女が俺を好きじゃないと考えると死にたくなる……。
でも上目遣いで心配そうに見てくる彼女を見ているだけで、生きる希望にあふれる……自分の感情の波が激しすぎて船酔いしそうだ。
「ところで先生」
「な、なにかな」
平静を装う俺。
落ち着け……。
「先生ってお付き合いしている人はいないのでしょうか?」
「!?」
ドキドキバクバクドキドキバクバクドキバクドキバク……!
心臓があああ!
破裂しそうだよおおおお!
「な、ななな、なんで、なんで、なんでそんな質問を?」
なんでそんな事聞くのかな、それって、それってええええ!
恋人になりたい人の質問ですよねえええええ!?
「セクハラばかりしてたら、彼女さんが悲しむんじゃないかと……」
「……」
はー。
なにそれ。
がっかりだよ……。
わかってないよ、男の恋心がさあ……。
……ん? 恋心?
「どうしました、先生?」
「いや!? なんでも? 恋なんてしてませんよ?」
「? そうですか、恋人さんはいないんですね」
「はは。そうだね……」
はあ~。
どうしてしまったんだ、俺は……。
そもそも恋愛は禁止なんだから。
俺が好きになるのもNGだし、それがバレるのは超NGなわけで。
なのに、俺が彼女を好きであることをわかって欲しいなんて、まるで理屈が通らない話だろ……。
いや、これはむしろ好都合。
いまのうちに、セクハラ効果を打ち消して、この勘違いの恋を終わらせるのだ。
息を大きく吸って~。
吐いて~。
吸って~。
吐いて~。
よし。平常心!
「先生?」
「わあっ!?」
気づいたら、ものすごく顔を近づけていた。
ほんのりと女の子の香りに、癒される甘い声。
心配そうに覗き込む瞳は、どこまでも純粋で。
間近で見る彼女は、信じられないくらい美しくて。
深呼吸を終えたばかりの心臓が、あっという間にフルスピードで動き始めた。
セクハラもしてないのに、このドキドキバクバクは……間違いない。
俺は、この子に恋をしている……。
これが勘違いなんかのわけがない。
好きだ……どうやら、好きになってしまった……。
しかし、この恋、バレるわけにはいかない。
このセクハラ家庭教師の仕事、恋愛感情があると知られたらクビだ。
そしてもっと問題なのは、この手。
もはや、彼女のお尻を触ることすらできない……。
セクハラ家庭教師が、セクハラできなくなったら、やっぱりクビだよな……。
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