第8話 試験! セクハラの壁
「はあ……」
全然セクハラできていないのに、風呂に入る羽目に。怒れるメイドから「さっさと風呂入レ」と言われちゃ仕方がない。
この屋敷は基本的に洋風。大理石みたいな壁と、赤いカーペット、そして西洋の壺やら絵画。そんな感じだが、風呂は和風というか完全に温泉旅館のそれだ。
入り口に暖簾がかかっていて、女湯と男湯のリバーシブルになっている。このコントロールはメイドさんがするそうだ。俺はこの暖簾が男湯となっているときだけ入ることができる。
ここまでちゃんとしたルールがあるのに、俺は堂々と女湯を覗いたわけだ。そりゃ無事ですみませんわね……。
脱衣場のかごに衣服を入れ、中に入る。
「おお」
六畳くらいの黒い石が敷き詰められた風呂場に、ダブルベッドくらいあるひのきの風呂。
カランとシャワーと椅子が、2つずつ。ふたり同時に入浴することを想定してるってことか。カビンさんとうかつちゃんも一緒に入ってたもんな。
さらにサウナと露天風呂があると。贅沢すぎる。
ひのき風呂もいい匂いがしているが、まあ露天が気になるよな。さっき覗いてるときから早く入りたいと思っていたんだ。
軽くかけ湯だけして、からりとガラス戸を開け、外へ。
夜の爽やかな冷気。さっきも浴びていたが、裸だと全然違う。
俺のおいなりさんもギュッとなるね。
「……ん?」
「じー」
「じいーっ」
「うわあっ」
急いで股間を隠す。
「な、なにやってるんですか!?」
竹の柵の上から頭を出しているのは、お月様の光を浴びた女性ふたり。うかつちゃんとカビンさんだった。なにやってんのマジで。
「セクハラですよ」
「セクハラに決まってるダロ」
ですよねー。
いやあ、みごとなセクハラだ。教えた甲斐があるなあ(棒)
「どうですか、セクハラ。上手ですか!?」
うかつちゃんは、目を北極星よりも輝かせている。
いや、あの。確かに俺はセクハラを教えてるけど、それはされないようにしてるんであってですね。上手になって欲しいわけじゃあないんですよ。
「うふふ、セクハラって楽しいですね」
いや、あの。勉強を教えてるなら楽しさが伝わるのは嬉しいのですが、セクハラの楽しさを伝えたいわけじゃないのよ。しちゃダメなのよ。
だいたい覗きは通報って言ってたのに、なんでそんな全力で楽しめるのでしょうか。
「先生はとても楽しそうにセクハラをしているので、少しわかってきました!」
……。おかしいなあ。俺はこのバイトすっごく大変だと思っているのになあ。
「あのー。うかつちゃん、セクハラを理解してきたのはもうわかったんで」
褒められたと思ったのか、満足そうにするうかつちゃん。
勘弁してくれ。
セクハラがしつこい人は嫌われるよ? セクハラっていうのはね、もっとこう、さらっと自然に、あくまでコミニュケーションですよって顔で行うもんなんだ。
なぜか隣のメイドが腕を振り上げた。
「おい、股間見せロ! ウブなネンネじゃあるまいし!」
カビンさん? 俺よりセクハラうまいのでは?
ちょうどいい下品さですよ。
「見られて興奮してるから見せられないのか、このヘンタイ!」
俺が教える必要ある?
うかつちゃんの家庭教師はこのメイドさんでいいんじゃないですか?
「どうだ、お前ほどじゃないケド、まあまあやれたカ?」
「いや、もう俺なんか教えられることはないです」
ひゅーっと風が吹いた。寒い。
露天風呂に入る。
あぁ、いい風呂だ……覗きさえいなければ。
「ううっ。ちょっと寒くなってきました。先生と一緒に入っちゃだめでしょうか」
「男湯の暖簾のときは入っちゃダメですよ、お嬢様」
覗くよりはマシですけどね?
ルールは守れるけど、ルールの理由はわかってないのかな?
とはいえ、俺が先に覗いた手前、覗くなとは言えないんだよなあ。
堂々と覗いてるし、なんだったらカビンさんが上手だからな。うかつちゃんも勉強になってるんじゃないだろうか。
「ところで、いまのところどれがセクハラだったのか教えていただけますか?」
「全部だよ全部!」
全然わかってなかった。
うかつちゃんへの家庭教師は当分忙しそうだな。
「さ、お嬢様。いつまでも覗きなんてしていたらお体に障ります」
そこのセクハラ免許皆伝メイドさんや、お嬢様への優しさを少しでもいいから分けてくれませんかね。
「では、先生。あとで試験をお願いします」
「試験?」
「一日の最後はテストをしないと」
ええ……言いたくはないが、テストするほど教えられてないんですけど?
俺の気持ちを知らず、顔の横で手をふりふりして柵の上から消えた。
やれやれ、風呂に入りながら一応考えるか。テスト。
着替え終わって暖簾をくぐって出ると、そこにふたりが待ち構えていた。
「うかつちゃんの~」
「壁~!」
えっ?
どゆこと?
うかつちゃんがマルとバツが先についている棒を持っていた。
「今からシンシくんがなにか言動を起こします。それがセクハラだと思ったらマル。セクハラじゃないと思ったらバツを出しますので、正解かどうかを答えてください」
「は、はあ」
進行役をつとめる? カビンさんが解説してくれたけども?
なにこれ、バラエティ番組なの?
誰が考えたんですか?
構成作家いるんですか?
疑問符だらけですけど?
「じゃあ、どうぞ」
「ん? ん~」
まぁ、一応テスト問題は考えてたからな。
最初はこれだろ。
「うかつちゃん、どんなぱんつ履いてるの~?」
朝のセクハラの復習だね。サービス問題だが、わざとキモい声で質問してみる。
「これは……」
うかつちゃんが出したのはマル!
「正解!」
「えっ? それカビンさんが言っちゃうの?」
正解かどうかをジャッジするのは俺のはずでは?
いや、カビンさんもそのくらいはわかるんだろうと思うけど。
ほんとに俺必要か?
「ほら、解説して」
「あ、はい」
解説は俺がするんだってさ。
「えっと、下着についての質問はセクハラとなります」
「先生が勃起するからですよねっ」
「……俺用のマルの棒はないの?」
「あっ、これもセクハラなんでしたね。うふふ」
楽しそすぎるでしょ。
ほんとにバラエティ番組なんじゃないの、これ。
「次」
「はい」
カビンさんのMCに従うだけの簡単なお仕事です。
「えっと、名前はなんですか」
「あっ、これはバツですね」
「正解! さすがお嬢様!」
「そうだね、名前を聞くことはセクハラじゃないね」
「難しい問題だったナ」
どこがだよ……名前聞くだけでセクハラだと思うのはあなただけですよ。
「生まれはどちらですか」
「これもバツでしたね」
このカビンさんとの朝のやり取りは、学校から帰る車の中でしておいた。これは理解しやすいってさ。そりゃそうだろう。うかつちゃんだって普段からそのくらいの会話はしている。
「……」
「カビンさん? 正解ですよ?」
なんで俺を睨んでいるの?
「そうか? セクハラじゃないか?」
「だから違うって」
「エロい村の出身でもか?」
「エロい村!? なにそれ!?」
「ほら、やっぱりセクハラなんじゃないのか」
「ぐぬぬ……」
確かに、ここで詳細を聞いたらそうなる可能性もある……しかし気になるな。
「いいから、次」
「あ、はい」
いつか聞いてみたいものだ。カビンさんの出身地について。
「うかつちゃんのオッパイはトマトくらいかな?」
「あっ、ハイ! そんなに大きくないのでマル!」
「正解ですお嬢様!」
「大きくないのでという理由ならバツなんですけども」
「難しいですね」
「難しいですかねえ」
「先生は大きい方が勃起するんじゃないんですか?」
「それはセクハラなんですよー」
「間違い。お嬢様がセクハラするはずナイ」
はあー。
家庭教師って、大変な仕事だよなあ。
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