第7話 温泉! バレなければセクハラじゃない

 夕食を食べ終えてしまった。

 彼女が寝る前になんとかもっとセクハラしなければ。

 

「うかつちゃん、この後ってもう部屋に帰っちゃうの?」

「まあ。それってお誘いですの?」

「うん。もっとバイトしないといけなくてさ」

「あら。そうですか。バイトですか」


 不機嫌になった……まぁ家庭教師が疎まれるというのはヘンではないが。


「先にお風呂に入ります。わたしが終わらないと先生が入れないそうですから」

「あ、うん。ありがとう」


 風呂に入るのは俺は最後となっている。うかつちゃんや、メイドさんたちが終わってからだって。ちなみにおじさんは朝風呂派だってさ。そうそう、おばさんはどうしてるのかと思ってたが、今は海外にいるとのこと。

 しかし風呂か……。風呂は1階にある。

 俺が言われているルールは、3階には進入禁止。トイレでセクハラはしなくていい。

 その情報からすると、つまり風呂でセクハラはしてもいい。ということになるな。

 時間を有効に使うように、という指示からすると答えはひとつだ。

 覗け、ということです。

 ポイントはちゃんと見つかるということ。見つからないように覗いたらそれはただの犯罪なのだ。バレなければセクハラじゃない。

 また偶然を装ってもいけない。偶然覗いてしまうのはラッキースケベであって、セクハラではない。俺がすべきはあくまでセクハラだ。

 1階の風呂を覗くなら、庭からがいいだろう。着替えを覗くというのもいいが、せっかくだから風呂を覗きたい。

 か、勘違いしないでくれよ? 俺はあくまでセクハラを教える立場として、まだ脱いでなかったとか微妙な状態じゃなく、完全に全裸確定で行った方が効果的だと。そう、効果的だと思うからだよ。

 風呂は内風呂と露天風呂がある。温泉らしいよ。金持ちはすごいね。

 今日は雨も降ってないし、寒くもない。きっと露天風呂に入るだろう。

 サンダルで覗きに向かう。なんとなく悪いことをしている気がして、泥棒みたいに背中を丸めて音を出さないように歩いてしまうが、俺は何も悪いことをしようとしているのではない。セクハラをするだけだ。


「……こんなところにちょうどいい台が」


 露天風呂を囲む柵に、覗くのにもってこいの台があった。台を登ると、首だけが柵の上に。いいぞいいぞ。

 ……これ、誰か覗いてないか?

 いや、そんなことを考えてはいけない。なんかあるんだよ、なんか。

 しかしいいのだろうか、裸を見てしまっても……。さっきおっぱい見ますかって聞いてきたくらいだから、本人はいいんでしょうけど。じゃ、いいか。

 バレないといけないわけなので、思いっきり顔を出す。

 おー、いい露天風呂だ、後で入るのが楽しみ……って、もういるじゃないか。

 なんだ、トマトより全然大きなおっぱい……うわー!?


「なんだ? ヘンタイか?」


 やばい!

 いたのはうかつちゃんじゃなくて、カビンさんだった!

 なんというナイスバディ! 大きすぎず、ちょうどいいくらいの胸と尻で、痩せ過ぎてない、ちょうどいいくらいの……ってダメじゃないか、これじゃただの覗きだ。

 ちゃんと俺だと名乗り出ねば……


「覗きだったらコロス」


 ひい!?

 殺される!?

 うかつちゃんだったらセクハラだといえばいいのだが、カビンさんにはそれは通用しないわけで。

 ここは隠れていよう……。


「あ、お嬢様。ワタシは出ますので、ごゆっくり」


 おっと、交代してくれたみたいだぞ。

 じゃ、改めて。


「やっぱり覗きだったカ!」

「ぎゃー!」


 頭を出したら、カビンさんが待ち構えていた。なんてこった!

 騙したね!? 俺を騙したんですね!?


「お前、後で、ロビー、来い」

「はい……」


 大人しく、ロビーへ。

 トボトボと庭を歩き、玄関から屋敷に入る。

 ソファーで正座。

 しばらくすると、カビンさんがやってきた。メイド服じゃない。風呂から上がったら仕事が終わりなのかな。Tシャツと短パンみたいな、ラフな格好。スタイルの良さがわかるなあ。まあ、裸の方がスゴイんですけどもね。フフフ……


「イヤらしい目で見るなヘンタイ」

「ぎゃー!」


 目が! 目があ!

 目にハリセンはダメだって! ハリセンは頭にして!

 カビンさんは、ハリセンをパシーンパシーンと打ち付けながら、俺を蔑む。


「おい、おしり出せ」

「えっ」

「早くシロ」


 逆らえる状況じゃねえ……。

 ズボンを半脱ぎし、お尻を突き出す。


「パンツもずらせ」

「はい……」


 生尻を出す。


「ヘンタイ!」

「ぎゃー!」


 豪邸のロビーで、ソファーの上で四つん這いになり、生尻をハリセンで叩かれることになるとは!

 こんなに情けないことがあっていいんでしょうか!?


「ヘンタイ!」

「ぎゃー!」


 これ何回叩かれるんですか!?


「なんで覗いた」

「セクハラしようと思いまして」

「ワタシにセクハラするな!」

「うぎゃー!」


 痛すぎる! なんかスナップが効いてるというか。カビンさんのハリセンの武器スキルが向上してる!


「違うんですよ、俺はうかつちゃんを覗こうとしたんです」

「お嬢様の風呂を覗くな!」

「ぎゃああああ!」


 理不尽!


「ちが、だから、俺はうかつちゃんを堂々と覗くことでセクハラしようと」

「言い訳するナ!」

「あんぎゃああああ!」


 もう何を言っても叩くんじゃないですかー!

 

「女の風呂を覗いて許されると思うナヨ!」

「んぎゃあああ! それはそうかもしれませんけどー!?」


 くそう、やはり覗きはリスクが高すぎたか!

 

「何か叫び声みたいなものが聞こえるような……あら、どうしたのですか?」


 うかつちゃんが来てしまった。みないでくれ、俺を……尻を出してハリセンで叩かれている俺を……。


「お嬢様。コイツが風呂を覗いていたのです」

「まあ!? 覗きは犯罪ですね。通報しましょう」

「待って! ちょっと待ってください、うかつちゃん、いや! うかつ様」


 容赦なし!

 本当にアンドロイドなんじゃないのかしら!

 セクハラにはあれだけ寛容なのに、犯罪だと異常に厳しい! いや、犯罪に厳しいのは当然なのかもしれないが……うう。


「うーん。でも犯罪は犯罪ですので。正当な理由なく風呂場を覗く行為は……」

「ある! あるんです、正当な理由が」

「まあ。そうだったのですね? 聞かせてください」


 話を聞いてくれた!

 ありがたや!


「セクハラしようと思ったんだよ」

「セクハラ? セクハラは犯罪ではないのでは?」

「じゃなくて、堂々と覗こうとしたんだって。堂々と覗くのはセクハラなんだよ」

「まあ。そうなんですか」

「嘘をつけ!」

「あんぎゃああああー!」


 なんでうかつちゃんとお話中なのに、ハリセンを!?


「お嬢様、コイツはコソコソしてました」

「それはうかつちゃんだと思って覗いたら、カビンさんだったから!」

「まあ、わたしのお風呂を覗きたかったんですか」

「そうですよ、カビンさんを覗きたかったんじゃないんです」

「なんかシツレイ!」

「んぎゃあああーっ!」


 どないやねん!

 どないせーっちゅーねん!


「ちょ、ちょっとカビンさん? セクハラしてないのにハリセンするのはルール違反では?」

「覗きたくなかったのに覗いたなんて言われて許せるかバカ」

「うう……」


 そう言われると……すみませんとしか言えないが。


「うーん。どちらにしても、お風呂を男性に覗かれて平気ということはないので、さすがにそれは教わらなくてもわかります」

「アッ、ソウですか。ハイ、スミマセン」

「堂々と覗かれたとしても、通報します」

「アッ、ハイ。それでいいと思います」

「もう覗きはダメですよ?」

「ハイ、わかりました。ごめんなさい」


 死にたい……。


「ほら、いつまでお尻出してるんだ。セクハラだゾ」

「ぐぐぬぬぬ」


 くそう、カビンさんめ……。

 カビンさんの裸は偶然覗いてしまったわけだが、完全にアンラッキーだった。

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