第6話 晩餐! セクハラしてるだけでヘンタイではない
夕ご飯の時間です。
楽しみにしていたよ、普通にね。いなり寿司も美味しかったからさ。
だが、そんな余裕はありません。しなければならない、セクハラを!
おじさんも同席するのかと思ったが、うかつちゃんと二人で食べるようです。いたらさすがにセクハラできないから好都合だ。
うかつちゃんは私服に着替えている。白くフリルのたっぷりついたワンピースで、まるでドレスのような部屋着だ。似合いすぎ。
彼女になんとかうまく食事中のセクハラをしなければ。そうだ。
「ソーセージ! ソーセージは!?」
「ないぞ」
くそーう!
メイドのカビン・タカンさんが容赦なく答えたよ。そりゃそんな都合よくソーセージなんか出てこないか。
「先生はソーセージがお好きなんですか?」
「そうでもないよ」
「……???」
ぱちくりとする、うかつちゃん。ちくしょう、かわいいな……。セクハラなんかしないで、普通にディナーを楽しみたいよ……。おじさんに叱られてるからな……。なんとしてもしなければならない。セクハラを。
夕食のメニューはイタリアンとのこと。本格的なので、アンティパストという前菜から出された。最初の一皿は、トマトの中にアボカドサラダを詰めたものだって。オシャレだなー。
うかつちゃんは上手にナイフとフォークを使って食べ始める。
トマト……トマトを使ったセクハラ……そんなもんあるか?
「えっとー。うかつちゃんのおっぱいはこのトマトくらいかな?」
あんまり上手くないな。いや、なんで俺は上手にセクハラしようとしてるんだ。いいんだよ、別に。
親父のセクハラ武勇伝聞いてると、やっぱりイケてるイケてないがあるからな。俺の仕事はイケてるセクハラを披露することではない。質より量だ。手数で攻めよう。
「こんなに大きくないですよ」
うふふ……と笑う、うかつちゃん。いいなあ……別にこのリアクションでいいと思うけどな……いや! いかん! ちゃんとセクハラを指摘できるようにしなければ。指摘する前にうかつちゃんは余計なことを言った。
「かびんさんは大きいですけど。うーん、トマトより大きいかも」
なんということでしょう。うかつちゃんがカビンさんにセクハラしてしまったよ。このメイドさんはなんでもかんでもセクハラじゃないかと疑うタイプ。さぞやこの台詞に憤慨してくれることだろう。
「そうですね、大きいかもしれないです」
「いいなあ~」
いいなあ~。じゃないんですよ。おいおい、なにこれ。なんでいい感じなんだよ。
「ちょっとちょっと、カビンさん」
「なんですか? セクハラはしないでください」
「いやいや! セクハラされたじゃん。今。うかつちゃんに」
「ハア? 何言ってる。お嬢様がセクハラするわけない」
うーん? あれ?
「カビンさんは、おっぱいの大きさの話されても平気なんだ」
「セクハラ! セクハラだ! ヤメロバカ」
「ええ……」
あれね、カビンさんは何を言われたかじゃなくて、誰に言われたかが重要なタイプなのね。そういう要素もあるでしょうけども。
「えっ、先生、かびんさんにセクハラしたんですか?」
「うっ」
そう言われるとつらい。
したくてしたんじゃないんだ……。なんと謝れば。
「ずるいです」
「えっ」
むむむと非難するように俺を睨むが、その表情は拗ねてるようにも見える。
「わたしにセクハラしてくださいっ」
してるんですよ~。してるけど気づいてくれないから困ってるんじゃないですか~。
「うかつちゃん、おっぱいの大きさについて話したじゃない。俺が」
「そうですね。トマトよりは大きくないです。見ますか?」
「見せちゃダメ! ゼッタイダメ!」
「見たくないんですか?」
「見たいよ! 見たいに決まってるでしょ!」
「見たいんですか~」
なんで嬉しそうなの……。
実は見せたいタイプとか……いや、そんなことを考えている場合ではない。真面目にセクハラのことを考えないと。
おっぱい見たいか聞いちゃうのもセクハラなんだが、その説明はいいだろう。おじさんにもする側はどうでもいいと言われたしな。うかつちゃんに「おっぱい見ますか?」って言われるなんてお金払ってもいいくらいだもんな。うん。
そこで、メイドさんが皿を下げながらボソリと。
「おい。お嬢様のおっぱい見たいとか言うな。ヘンタイ。サイテー」
「しょうがないだろ! セクハラしてるんだから」
「セクハラするな、ヘンタイ」
「それが仕事なんだよ! 俺はセクハラしてるだけでヘンタイではない!」
真面目に仕事をしてるのにヘンタイとかサイテーとかヒドイだろ。女子中学生におっぱい見たいか聞かれて「見たい」って言っただけじゃねーか。聞く方がセクハラなんだから、こっちはセクハラの被害者ですよ?
「じゃあワタシのも見たいのか」
「えっ?」
まさか……そういうこと?
やきもちってこと?
なんだー。そういうことだったのかー。かわいいところがあるじゃないの。俺は極めて紳士的に爽やかスマイルで答えた。
「もちろん、見たいよ」
「ヘンタイ! ヘンタイだ!」
「いってー!?」
ハリセンで頭を叩かれた!
なんでハリセン!?
こんなデカいハリセンどこに隠し持ってたんだよ。1メートルくらいあるだろ。
「ご主人さまからは、セクハラされたらコレで叩いてイイ。言われてる」
「まさかの支給品!? 俺は聞いてませんが?」
「お前はセクハラするなと言われなければセクハラするのか。ダメに決まってる。ジョーシキだ」
「ぐぐぐ」
この異常な現場で正論言うのズルいぞ。あと俺のこともう「お前」呼ばわりされてるし。くっそー。
「先生、かびんさんにセクハラしちゃ駄目ですよ。セクハラしていいのはわたしだけ、です」
「う、うかつちゃん……それは……」
「あら。まさか今のもセクハラだったんですか?」
「いや、セクハラじゃなくて……その……」
口説き文句というか、愛の告白に近いだろ……正直、顔が赤くなってるのがわかる。
そこへ2皿目を持ってきたカビンさんが耳元でボソリと。
「お前、お嬢様のこと好きになってないか」
「ちょ!?」
カビンさん! あんた本当余計なことしか言わないね!
「ご主人さまに言われてる。お前がお嬢様に惚れてないか見張れと」
「なんだって……それも聞いてませんが」
「恋愛は禁止。ちゃんと言われてるハズ」
「むむ」
カビンさんの報告次第ではクビということか……なんと厄介な。
「お二人、内緒話なんて、ズルいです」
「あー、あー、えっと、そのちょっと仕事の話だから」
「むう」
くっ。むくれるところがますます可愛い……。
「じー」
くっ。カビンさんが疑惑の目で見ている……。
話を逸らすしかない。
「わー、このパスタうまそうだけど、なんだろうこれは」
ちょっと棒読みになってしまったが、カビンさんの視線は外れた。やれやれ。
「これはコンキリエですよ」
「こんきりえ」
なにそれ。初めて聞いた。
「コンキリエは貝殻のような見た目のショートパスタです。我が家のプリモピアットではよく食べる方です」
「ぷりもぴあっと」
「プリモピアットはイタリア料理の1皿目という意味です。アンティパストが1皿目だけどそれはカウントしないんですよ」
「へえー、そうなんだ」
「クリームソースのコンキリエにパルミジャーノ・レッジャーノをたっぷり振って食べるのが好きなんです」
「ぱるみじゃーのれじゃーの」
知らん言葉がずっと出てくるぞ。
「パルミジャーノ・レッジャーノというのは……」
軌道修正して、普通のディナーになった。普通に会話を楽しみながら2皿目、セコンドピアットの鴨のソテーと、食後の甘味であるドルチェとして桃のコンポートを食べました。美味しかったです。まる。
とてもいいことのような気がするが、バイトとしては失敗だ……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます