終幕「これまでと、これから」
「すまない、一本吸わせてもらうぜ」
箱の中から小さい棒状の物を一本手に取って、口に咥えた。
火をつけて息を吸っている。
……離れたくなるようなちょっと嫌な匂いがした。
「それ、何?」
「
「そっか…………自分がいなくなって怒ってる?」
「哀しかった。だがコイツが埋めてくれた」
ネクタイのピン留めを眺めた。
いつのまにか新しい物がついている。誰かから貰ったのだろう。
「そうなんだ。……お疲れ様、体調は──良くなさそうだね」
机や棚に置いてある大量の空瓶、前よりも細くなった体が物語っている。
どれだけ無理をしたのだろう。これ以上無理をすれば……
「あぁ、でもお前さんが、北風が来るってわかってたんだ。流石に死ねないなって思ってな……だから、せめて生きないとって思って……俺に会えて嬉しいか?」
素直に喜ぶべきだったのだろう。彼がそう求めていたから。
でも、彼の持っている価値は、輝いているものは光を失っていた。
──だからなのかな。自分は怒っていた。
「店長──いや、ニスト。そこまで無理してまで、自分を追い込んでまで待たれるのは嬉しくないよ」
「聞き間違い──」
「じゃないよ。自分は死にたくて死んだ訳じゃないけど、君が2年の間に何をしていたのかわからないけど、ニストが喜ばないと自分も嬉しくない」
わがままな事を言ってるかもしれないし、傲慢な事を言ってるかもしれない。でも、自分の為に犠牲になった人がいたとしても、自分の為に身を削ってくれる人がいたとしても、その人達が嬉くないなら自分は嫌だ。
「……お前も、裏切るのか?」
予想は裏切っているけど、その気は全くない。
「違うよ。これから一緒にご飯を食べて、一緒に寝て、沢山話して、それで……何にも縛られることもなく一緒に暮らすんだよ」
ぎゅっと抱きしめる。彼の家だから他に見る人はいない。
何も言わず、彼は細い糸が途切れたかのように抱きついた。
「俺……親を殺したよ、嫌だったから、いつもあいつが俺の人生を見ているみたいで、すごく嫌だった……!!」
「復讐っていうのかな。ダメって言っちゃ悪いかもしれないけど、全部終わった?」
「あぁ。どこへでも飛びたくなる程嬉しい。……もっと抱きついてもいいか」
昔の自分を思い出させるような話し方になっている。多分これが本当の彼ってことだ。夢の中で見た彼みたい。
「もふもふだ……よしよし、よし、…………」
疲れで寝た。本当に疲れ切っている様子だ。寝息は立ててるから生きている。
「お礼──」
ポケットの中にあった100円玉を触る。
……でも、今は隣に居るだけでいいや。その方がとても幸せだ。
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