第二節「100億円の美女、100円の飼い犬」
レガート・イスカトーレ、自分の本名。
この名前のせいで人から距離を取られ、大家さんがしばらく家を追い出さなかった。
レガート家は死者が遺体に留まり続けない為に体と魂の境界を切り離す為にいるのだけど、間違われやすくて批判を受けやすい。そして距離も取られやすい。
……というのに、今、女性は自分を背負わせられている。背負っているのではなく背負われている方だ。なんで?って思うけど、
「あなた可愛いから飼い犬として私が飼ってあげるわ!」と強欲な一言を投げられて飼い犬にされた。
嫌な気がしなくて不思議だ。
「あの、レガート家って事わかっていながらこうやっておんぶされたり」
「うん?」
「食堂でご飯食べさせてたり」
「うん。はい、あと一口よ」
「寝床でたくさん撫でてくれるんですか……自分が怒って怪我させるかもしれないじゃないですか」
監獄の石でできたベッドに座って撫でられながら、純粋な疑問を投げた。
「犬を飼うのが初めてだからかしら?育ててくれた人が”人にも動物にも優しくしろー”って言ってたからかもしれないわ」
「へ、へぇーー……でも流石に距離が近すぎるからもう少し離れたいです……」
ひゅーひゅーとヤジを根暗とネスターに飛ばされて恥ずかしい。
自分はそう言う趣味とかないし女性との付き合いとかもわからないから本当に無理。可愛いけど幽世に一刻でも早く出ていきたい。
「散歩するわよー。イスカトーレ──名前が長いわね。うーん……エリザべ──」
「
「本人がそう言うなら仕方ないわね。北風、ちょっと抜け出して運動をしに行くわよ!」
彼女は自分を抱えて檻の外に出る。
天井に穴ができていたから出れたのか……出ていくのは容易なのかも。
「ここで待ってなさい」
「はい……」
彼女は外に出ると歩き回っている幽霊みたいなものに挑発する。
気づいた幽霊は仲間を呼んで囲い込む。
「
来いよ、というサインを送ると一体ずつ殴り、蹴りで消し飛んでいく。
こんなことやってていいの!?って声を掛けたいけど、嬉しそうに消している彼女を見ることしかできなかった。
「ふぃー、これで行けるわよ」
「すごいね……」
「さて、現世にお散歩しに行くわよ」
「…………え?」
彼女はコウモリの様な羽を出して飛び上がる。いや、蹴りの力で跳んでいる。
どんな筋力を持っているのかわからないけどすごい高さだ。頭上にあった大きな木を飛び越えるほどの高さ──2、300mくらいはありそうだ。
「ひ、ひえええ……怖い、怖いぃぃ!!」
「大丈夫よ。よしよし〜」
店長の撫でる手を思い出す位に優しい。
ちょっとだけ怖さが和らいだ。
「店長を思い出したよ。自分の事を大事に思ってくれて、自分のために頑張ってくれて……今は家族の元にいるけど」
「私の育ててくれた人に似てるわね。私にお菓子を買って贈ってくれたりご飯作ってくれたりするのよ。こんな感じの髪型でーー……」
そうして書いてくれた絵は店長の特徴を全て掴んでいた。
前髪が長くて流れていて、猫みたいな目で、ネクタイをつけている。
まさかと思うけど、この人は彼女の家族なのかな。
「店長だ……!!この人知ってるよ」
「店長?」
出会いから別れまでの話を全て話すと、彼女は納得する。
出かけた時と帰ってきた時が同じらしい。
となると──この人は店長の家族と呼んでいる人なのかもしれない。
「ニストの事を知ってたのね……あなたが彼の言っていた大切な友人ね。なら名前を教える必要はありそうね。私はダベリジャ・ピットボス。ダリでいいわ」
「ダリ、彼に会いたいから幽世から出ていきたいんだ。できないかな……」
「……できなくもないけど、
幽霊。
まぁ死んでしまったから納得できるけど、彼が自分の事を見れないのはとても辛い事だろう。でも、今は彼の姿が見れるだけでも嬉しい。是非頼みたい所だ。
「お願いします。幽霊になってでも見に行きたいんだ」
「わかったわ。任せなさい!その人との土産話を持って必ず帰ってくるのよ!」
「はい……!!」
彼女は自分を抱えると、遠くに見える大きな鳥居の前まで投げ飛ばした。
物理法則とか全くわからないけど、ただ真っ直ぐに、とても早かった。
「ダリ、行ってくるね!!」
「行ってらっしゃい北風、また会いましょう!」
眩しい光が消えていくと現世に戻った…………らしい。
実感ないけど、海岸に横たわっている自分の死体を見て納得できた。
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