第一節「冥土の土産とラップバトル」
──冷たい、いや暖かい?生ぬるい空気が流れている。
石でできた地面だ。ここは……?
「よー元気?俺歓喜。隣のコイツは根暗な速記野郎」
「
独特なリズムで会話する二人組。
白黒のストライプ柄の服だ。自分も同じものを着ている。
「自分はフォルクです」
「OKオーケー、どうもフォルク。俺はネスター、クラスターの頂点に立つモンスター。どうも見たところ、死んだとこ?こんなとこ?そういうこと?」
「えっと、そうです」
流れを持ってかれてしまう。話しているのはこっち側だけど主導権を持ってるのは向こう側の様に思える。
ちょっとだけこっちが握れる様に対抗してみよう。商談と思えばいい。会話すればいいんだ。
「死後の世界、四、五で死す。その間にやり残した奴やり倒して潰しておくんだなってな」
「自分から死んでない、生きて会いたい人がいるから生き延びたい。──錆びず知らず吸わず背負わず添わずな未練タラタラな人生。俺は抜けて出せて越えて肥えるこの心を埋めてやりたい……!!」
思わず熱が入ってしまった。”俺”とか言って自分がカッコつけたい訳じゃないけど心の底に眠っていた熱を帯びた何かがそう言わせたんだ。
「Dj根暗、ブース出せるか。久々に戦いたくなった」
「わかったっスよネスター氏」
根暗が手を3回叩くとDjブースと呼ばれるものが空中に出てきた。一体どんな原理なのかわからないけど、魔法の力なのかな。全くわからないけどそう言う事にしておこう。
「一試合、フリースタイルだ。さっきみたいに言い合う様にすればいい」
「え、えっと……わかりました。頑張ります」
檻の奥から歓声が上がる。体型の大きな男性から小さくて可愛らしい女性まで年齢も問わずたくさんの人が見ている。
緊張するけどやってみよう。
「根暗、遅くしな」
「うっす」
ゆっくりだけど重みを感じるバラードみたいな曲だが、どこかかっこいい…!
「いくぜ。田舎の初心者ちゃんに教えてやるぜ、良い仲作るな、恋活じゃねえぜ、ポイ活みてーに、少しずつ稼ぐ。観客の歓声で完成すんだよ。初心なりに見せてくれよ」
なんだかかっこいいが…自分のターンみたいだ。
とりあえず、何かリズムに乗れそうな物…
「…自分は初心、正直初診みたいに心臓バクバク。それでも噛んでも勘で感情伝えるんだよ、勘定頼むぜ」
「めっちゃ韻踏んでるんスけど、マジで初心者なんスかね…」
「…久々にやべーやつに会ったわ」
二人は驚いている様子で自分の方を見ている。
咄嗟にここまで思いつくとは思ってなかったけど…割と口が回れそうだ。
後ろから投げられる歓声が凄い。
数日前の商売の時みたいだ。
「お前のグルーヴ、グレートだぜ最高。だがお前が
「すごい…」
実際に掴まれていないのに、胸をぎゅっと掴まれている様な感覚がする。
見物人達も同じく掴まれたのか、何処からか歓声が投げられた。
──負けられない。
「
(注釈:大三元は麻雀における役のひとつ。
「なんだよマジであいつ…!!」
「とんでもない語彙力してやがる…しかもしっかりと韻踏んでやがる」
観客達の歓声は最高潮になり、試合が終わったみたいだ。
咄嗟にあそこまで単語が出てくるとは思っていなかった…。
「…根暗。ジャッジ頼む」
「ジャッジ…?」
「歓声の大きさで決めるんだ。てか麻雀とかよく知ってんな…」
「大家さんの趣味で…たまに巻き込まれてた」
根暗はネスターの腕を持って手を挙げさせる。
「ネスター!」
大きな歓声が上がる。
緊張ばかりが高まってしまって、負けてしまうのではないかと不安になる。
「ビキナーちゃん、名前は」
「…レガート・イスカトーレ」
誤って本名の方を出してしまった。
レガート家って、血に染まってる危険な一族の奴らなんじゃないかと見物人はどよめく。……こう言われてしまうから本名は出したくなかった。
怖くなって離れようとする見物人を見て、フォルクは声を出した。
「本人に対するブーイングする前にラップの評価をしてやろうぜ。別に目の前でやべー事はしてないだろ?するとしても今死んでるんだがな!!」
「それはそうだね」
周りの人たちも笑い出す。一つの劇を見ている様だった。
納得した見物人の一人は”すごかったぞー!!”と声を投げてくれた。
それに連なっていく様に、一人。また一人と歓声は大きくなってくる。
拍手をする人もいるが、一部の人は怖がって動かない人もいた。それでもとても嬉しかった。
「わぁぁ…!!」
ちょっとはずかしいけど…初めてだけどとても嬉しい。
「もう一度、ネスター!」
大きな歓声が上がる。私よりも大きいとわかる。やっぱり凄いなぁ…!!
「勝者、ネスター!!」
「久々にヤベー人材がやってきた…後で話に来てくれないか」
「あっと…はい!」
人生の中で一番楽しい時間が終わってしまった。
でも、最高な気持ちは熱を帯びていて楽しかった。
──場が落ち着いた頃、ネスターは改めて自己紹介をしてくれた。
「
ひょっと根暗が指揮棒を持つ様に指を動かすと他の檻の人が連なって話す。
「労働量が倍増し!」
「記憶を消され!」
「更に出られない様にされちまう!……っス」
「で、でも自分はここから抜け出したいんだ」
「そう言われてもっスね──」
「待ちなさい、その話に興味を持ったわ」
黒髪の女性は自信そうに会話に割行った。
胸に視線があるまるのは仕方ないけど、それ以上に綺麗な人だなぁ……
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