第四話「冷やかし歓迎、買ったら感謝」

「フォルク、あんま緊張しなくても大丈夫だ。緊張するなら座って支払いの手伝いをするようにしても大丈夫だ」

「うん。できる限りのことはやってみるよ」

「よし、頑張るぜ」

 店長は紙の束を持って声を張り上げた。


「冷やかし歓迎、買ったら感謝、世にも珍しい紙を持ってきたぜ!」

 彼の言葉に興味を持った人たちが彼の元に寄ってくる。

 しかし、見物人は不満を持ち込む。


「なぁそこの商人さん、これは俺らの国で使っているものと同じじゃないか!」

 見物人が一人、質問を投げると”あー…確かにそうかもな”と、あからさまな態度を見せた。

 見物人は”なんだ、そんな程度のものか…”と興味を失う。しかし店長は怯まずに語っていく。


「しかし、この紙はお前らの知らない特別な紙だぜ」

 見物人は目を疑うようにまた、いや、先程よりも多くの人々が寄ってきた。


「特別だぁ?」

「こいつは加工が効きやすいんだ」

 彼は黒や青の紙を見せる。普段見かけない色に目が離せなくなっているようだ。


「すごい…」

「フォルク、ちょっと端の方を持ってくれないか」

「う、うん」

 彼は反対の端の方を持って両手を広げたくらいの大きな紙を見せた。


「沢山作れちまうから、当然、こんくらいのデカい紙も作れちまうんだ」

「衣服の素材として作れそうだ…!いくらだ、いくらで売っている!」

 気分が上がった見物人の一人は彼に声をかけた。

 うーん、言ってしまってもいいのだろうか…とでも話しているかのようにちょっと彼は粘る。


「聞いてくれたそこのお前さん。このデカい紙はいくらで売ってそうだ?」

「そ、そうだな…200円だ!一枚200円じゃなきゃこんな量で大きな紙は作れない!」

「あー…本当にそうか?その値段にしちまうか?」

「なら…300円か!?」

「よし、そんくらいで行こう!」

 詐欺と言ってもおかしくない価格で彼は取引をし始める。

 嘘だろ。そんな高いと買うわけがないだろう…と見物人はざわめくが、

 手元に持っている羊皮紙を見て考え込んだ。


「ちなみに、このデカい紙の6分の1のサイズで80円。白以外は110円。どうだ、買うか?」

 聞いていた客達は次々に手を挙げ、大きな紙を買いたいと声を上げていく。

 彼は嬉しそうに笑って売り出す。

「フォルク!こっちの客の方に赤2枚だ!」

「はい…!!」

 豪雨のように忙しい時間がすぐに訪れた。


「ねえちゃん!俺は白20枚くれよ!」

「は、はい…」

 疲れてきた。


「ひ、ひえ…」

「大丈夫か、もうちょっとだ」

「はい…ひえ……」

 あれ、正面ってどっちだっけ…

 地面が揺れて、うぅ…わからない…


「フォルク、おい、フォルク…!?」

「ふぇえ…」

 急に夜が訪れたような気がした。


──宿だ。ここまで運んでくれたのかな。

「起きたか。お疲れ様」

 気絶していたらしい。たくさんの人が同時に一気に話しかけてきて混乱していた自分が情けないが、”初めの内だしあんな繁盛するのは珍しい事だから仕方ない”と言ってくれた。


「とても安い原価でこんなに大きな利益を得られるとはな……最高だな」

「原価、利益?」

「材料費と収入だな。この紙の材料費は0円で魔力で伸ばす程度、一方収入は一枚で300円はいける。ここまでいいものは無いぜ」

 凄い適当らしいけど自分には理解できた。

 植物から作る紙と、動物から作る紙。どっちもいい点はあるけど、売り出す時には植物の方がいいらしい。


「自分、お手伝いが出来なかったな……」

「お前さんは知らないなりに手伝っていたぜ。偉いぞ」

「ありがとう、ちょっと照れるなぁ」

 店長がベッドに座って体を伸ばすと、”ポキ、ポキポキッ”と体が鳴る。

 骨が折れているのでは無いかと心配するが、問題は無さそうだ。


「んー…まだ成年にもなってないんだがな。体が凝ってしまったか」

「自分で良ければ肩揉みとか…手伝うよ」

「ん、頼んだ」

 店長はシャツを着たまま肩の力を抜いてくれた。

 へたりと音を立てていそうでちょっと可愛らしい…子供みたいというか。

 自分は両手に力を入れながら、悩み事を言ってみた。


「こんなに店長は優しくしてくれて、自分はお礼ができなくて……羨ましいんだ。自分の憧れてる人だって思ってるんだ」

「へぇ、嫉妬とかしないのか?」

「ううん。しないよ。凄いな、自分もこれくらいできる様になったら楽しいのかな……って感じるんだ」

「そうか、そう、なるのか……」

 彼は表情を暗くして聞いていた。自分のせいで思い出させてしまったのなら──と言いかけたが、彼自身が悪いと答えて珍しく話をしてくれた。


 育て親を超える存在になりたい。何十人もの仲間がいて、その人達のリーダーで、知ってることがとてつもなく多いのだとか。

 できることを尽くしたけど、やればやる程嫉妬してく自分が嫌いになってやめてしまったらしい。


「親かぁ、自分の親は優しかったから全くそう思ったことないよ」

「優しすぎるのも問題にはなるけどな……………というかフォルク。手の力強すぎないか?」

「ご、ごめん!!優しく撫でておくね」

「いてて……」

後日、”揉み返しが痛すぎて動けないので今日は休む”と書かれた紙を置いてどこかに行ってしまった。

……もうちょっと優しくすればよかったかな。


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