第三話「その辺の草。」
──森にある、いやどこにでもある雑草。その辺の草。
そんな草を売るらしい。
「お前さん、この紙を触ってみてくれないか」
「紙は既にあるけど……」
ザラザラしている、至って普通の動物の布を伸ばした紙だ。
店長はこの紙が動物でできているという点に目をつけたらしい。
「俺の故郷では紙は植物から紙ができている。たくさん作れるからな。それで、紙ってのはたくさんの種類がある」
「ふむふむ?」
「お前さんの持ってるソレは
森で雑草を刈りながら彼は話を続ける。
結構面白くて聴き入っちゃいそうだ。
ある程度雑草が狩れたので宿に行くらしい。いつの間に宿を取っていた。
「紙の作り方は簡単だ。雑草を集めて、繊維をほぐすために水とアルカリを混ぜたものに浸けて圧をかけて水分を飛ばして出来上がる」
「アルカリって何?」
「気にしなくても大丈夫だ、今回は魔力を流した水で代用する」
宿の個室で小さな鍋みたいな魔道具に雑草と水を合わせて混ぜている。
目が離せない。魔道具を見るのは初めてで……
「それにしても、雑草から紙を作るのは凄いね……売れるかな」
「お前さんは商売の基本を知らないようだな。よし、ちょっと大通りで夕飯の買い出しでもいくか」
そういえばいつの間にかお腹が空いていた。彼の手を繋いで小さな鞄を背負って歩く。
夕方の街も綺麗でいいなぁ。眩しさは抑えられてるけど、それでもやっぱり眩しい。
「そこの兄ちゃん、ナイフいるか」
突然声をかけられて驚くが、彼は私の肩に手を置いて話を続けた。
「そうだな……いくらだ?」
「300円だ」
「うーん、ちょっと高いな」
本当かな……手のひらくらいの大きさだけど切れ味はかなり良さそうだ。逆に安いんじゃないかと思えるくらいなのに。
「そう言われてもなぁ、兄ちゃん。このナイフは切れ味がいいんだ。300円でも安いくらいだぞ」
「うーん、そう言われてもな……そうだ、5倍の値段を出すから売り場をくれないか?3週間で十分だ」
「何だ、兄ちゃん達も商人なのか……それなら無理だ」
「俺らは国々を渡っている承認欲求の足りない大道芸人なんだ。商人ではないぜ」
自分達が大道芸人なわけがない。これは完全な嘘だ。
店員が疑うと、芸を一つ見せてみろと言われた。
「一度だけだ。いくぜ──」
彼が指を鳴らすと、大量の札束が空から降ってきた。
一体どこからどんな様にして降らせているのかわからない。
ただ言えるのは、この規模の魔法を常人が扱うのは無理に極めて近いと思えるということだ。
「代金は支払ったから売り場は借りるぜ」
「え、え?え!?」
自分が驚く間に何があったのかわからないけど、売り場を手に入れたらしい。
「買収した。ちなみにアレの半分くらいはただの葉っぱだ」
「何が起きたのか全く理解できないよ……」
「商売の基本は”客と会話する”って事だ。堅苦しい会話よりも自然な方が安心するだろ」
確かに、アレはとても自然な会話だった。
自然に相手の隙に入り込んで自然な嘘を
「無理に買わせるよりも会話した方がいいんだ。マルチ商法もそう言ってる」
「マル……?とにかく、会話した方がいいんだね」
よし、自分も負けてられないぞと気張っている様子を見ていた彼は背中を押してくれた。物理的に。
行ってこい、頑張れよって言われている様だった。
「え、えっと……」
「いらっしゃい〜〜、何を買いに来たのかしら」
「あ、あのえっと…」
メモに入っているリンゴ2つを確認して、リンゴを指差す。
店員が把握したのか、リンゴが欲しいんだね?と言う。
「はい。リンゴください……2つ」
「わかったわ。……あら、紙が切れちゃったわ。伝票が無いけど大丈夫かしら?」
「えっと、自分が持ってるのでそれに書き込んでくれたら……!」
「ありがとう。……はぁ、伝票に使う紙がもっとあればいいのだけどね…。なんて、暗いことを言ってられないわね。はいどうぞ」
「ありがとうございます!」
紙が足りない事を聞けた。あと、他の人と話せた……!!
とても嬉しい。
「……よし、飯作るからさっき買った場所で早速売るぜ」
大量に出来上がっていた紙を片手に彼は準備を進める。
──これから自分達は商売を始める。
とても緊張するけど、頑張るぞ。
「さて、商売前のお料理タイムだ」
「わぁい」
リンゴ二つの種を取る為、縦にナイフの刃を入れる。
隙間ができたところに砂糖を入れて熱すると……
「丸ごと焼きリンゴの完成だ」
「自慢そうに言ってるけど、これだけで美味しいの?」
「そういうなら口開けろ、はい。あーー」
「あむ……わりと美味しい……!!」
気力ができたので今度こそ頑張るぞ。
売り場でリンゴを頬張っていると、準備OKができたと彼が言う。よし、いくぞ。
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