第二話「((何だコイツ……))」
人、人、人の波が流れている大通り。
火山も天気も顔色一つ変わらない。
「にしてもこの国は銭湯が多いな。火山の恩恵ってやっぱすごいな……日本に住んでたから実感なかったな」
「温泉が沢山沸いているから生活に必要な水よりも使いやすいんだよ」
日本って何だろう……別の国かな。
「よし、銭湯に着いたな。えっと──お前」
「……うん?」
あ、名前聞かれてるのか。”お前”呼びもあまり良くないか。
えっと……本名だと嫌われるかもしれないから偽名で、何かあったかな。うーん。
「フォルク」
「よし、フォルク。男女で分かれるが、体の洗い方くらいはわかるか」
「んえっと……あなたは女性なの?」
「──え、いや俺男……」
微妙な雰囲気が漂う。変な事言ったかな……
彼は顔を近づけて確認すると、問いを投げる。
「お前さん、俗に言う男の娘ってやつか?男?女?」
「男だよ。髪が長くてわかりにくいけど」
「そうなのか……んじゃ、風呂行くか」
気が抜けている様子の彼がちょっと面白い。何を考えているのか全くわからないけど、彼の顔の周辺に小宇宙みたいなものが見えた気がする。──実際にはない。
「めっちゃ綺麗で声が高いからそうだと思ってたんだよな……頭洗うから座りな」
「うん」
頭を洗ってくれる。あー、そこすごい痒い……正確に掻く彼がすごい。
うん、耳の後ろも……あれ、手が止まった。
「お前さん……なんか、耳みたいなのが出てるぞ、ケモ耳か?」
「ふぇ!?」
脱力しすぎて忘れていた。まずい、変な事を言われる……事もなく、興味がある様に耳を洗う。
「おぉーー、おぉ?すご……これが
「触るのは初めてかな……珍しいよね。嫌じゃ、ない?」
「全く」
「え……」
「よし、流すぞ」
私がビーストな事に批判しない。おかしい……やっぱりこの人おかしい。わざとわからないふりをしているのかな。そうでもなさそうだけど──いや、さっきまで嘘ついて私の事をいじめていた人だ。嘘ついてるかもしれない。
「あったけー、やっぱ風呂よりも銭湯だな」
「私の事見てどう思う……?」
”え、何言ってんだよコイツ”みたいな顔をしているが、思っている事を率直に言う。
「可愛い奴だなぁ」
「そ、それだけ?」
「それだけ。逆に何か……あぁ、なるほど」
周りの男性が私の事を冷ややかに見ている。
「獣人は凶暴化する危険な種族だと本で読んだことがあるが……あんなに嫌う必要あるか?」
「獣人はね──」
──時々自我が無くなる程暴れる時がある。それで、家族を傷つける。最悪殺してしまう事もあって、殺してしまった事を思い出して自分から死んでしまう。
その事を伝えると、”優しい種族なんだな”と軽く流した。
「それだけ!?」
「反抗期の子供と変わらないだろ。大丈夫だ、気にすんな。よし、髪乾かしにいくぞ」
「うん……」
嘘はついていなさそうだけど、ここまで嫌がらない人を見るのは初めてだ。優しい人かわからないけど、少なくとも良い人であるのは間違いない。疑った自分を謝りたい。
「綺麗になったな!モッフモフだ」
「わぁ……すごい」
青白い長い髪が綺麗になっている。寝癖もないストレート髪だ。
耳を隠して……着替えられた。
「そんな可愛い耳があるのに隠すのか?勿体無いぜ」
「えっとね、あれが見てるの……」
私服に紛れた生気のない人物を指差す。
自警団。自分の国の権利と安全を守るためにいる。ビーストから被害を受けた人が多く、見かけ次第隔離するのが仕事に入っているらしい。というか1度捕まったことがある。
「ふむ、危険な奴らって事で覚えるか。暮らし辛くて嫌になるな」
「そうだね……そうだ、名前を聞いてなかった。教えてよ」
「俺は──、店長って呼んでくれ」
「なんで溜めたの?」
「お前さんの真似。後、仕事のためにたくさんある名前を教えるのは面倒だから」
彼も大変なのかな。名前を隠さないといけないほど危険な事をしている……??疑いはしないけど、昔何をしていたのかが気になる。
「お前さんも溜めてたじゃないか。明かせない事情があるんだろ?これでお互い様だ。それよりも、お前さんの一人称くらい変えたらどうだ?女子っぽいから間違われやすいぜ」
「それなら……自分。自分にする」
「自分か、マシになったな。陰気っぽさに滑車が掛かった気がするが」
一言多いなぁって思うけど、なぜか納得する私がいた。
「さて、金稼ぐか。ちなみに今の入湯料で金は無い」
「え、ええぇ……!!」
「大丈夫だ、何か見つけて売り出しゃ何とかなる」
「そうだ、自分の家にある作品を売り出せば何とかなるかもしれない。家まで来て……!」
「ちょっと嬉しそうだな、わかったぜ」
そうして家に戻るが──作品全部がなくなっていた。
割られたというわけではなさそうだが、盗まれたと言っても過言では無い。立ち退きするからという意味で無くなってるのかな……
「ふぇ……、自分の作った陶器が無くなってる」
「お前さん器用なのか。すごい事だな……お、新しく人がここに住むらしいな。そりゃ無くなっててもおかしく──」
ピタリと止まってる彼は紙に目を通して固まっていた。
「どうしたの?」
「……これだ、これを売ろう」
「店長、売るものが決まったの!?」
「おう。俺らはこれから雑草を売りにいく。だから手入れのされてない森まで案内してくれ!」
な、何言ってるんだこの人……。
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