第17話うねり①②


「この地域では巫女服に纏わる伝承は聞いた事がないと言っていたな?どう言う事だ?」


「そのままの意味です。私はここら近辺に住んでいますが親はおろかじいちゃんとばあちゃんからすら聞いた事はありません。

 京都方面になら巫女服の伝承があると思いますよ?ですがここら辺はどちらかというと恨みを抱いた女性が男を殺すっていう話の方が有名ですね」


「話は気分転換の旅行に来たからここら辺の事情はさっぱりだな。斎藤悪いがコーヒーのおかわりを貰ってもいいか?」


「もちろん」


快く快諾した斎藤は私の差し出したコップを持つとそばに置いてあったセットで用意をした。


「男に恨み、巫女服と仮面……どう考えても仮面は後付けだと思うがお前はどう思う?」


「そこは私も同意見です。やはり仮面と言えば京都方面にいた女性が狐のお面を被り恋敵を呪った話を思い出します」


「詳しいな」


「ちょっと趣味でして……!」


恥ずかしそうにしながら答えるが今はその趣味が間違いなく役に立つ。


「恋敵を呪い殺した女性、男に恨みがあった女性……黒い鳥居については分からないが何だか複数の伝承を組み合わせた感じが凄いな。

 黒い鳥居に纏わる伝承があれば教えてくれないか何かがあるかもしれない」


斎藤は顎に手を添えて考え込む。

だが黒い鳥居に関する情報が思い浮かばないのか難しい顔になる。


魔力を経て受肉するダンジョンの中にはごく稀に……主に世界で確認されているその事例はたった1つだけ確認されている。

それは本来別のダンジョンとして出現するはずだった伝承の受肉が1つに集約され、強化されて出現した。


イギリスのアーサー王伝説とそれに関する逸話が最も有名である。

聖剣エクスカリバー世界一有名な武器と言ったら間違いなくトップを争えると言える。

エクスカリバー以外にもアーサー王が所持した武器や円卓の騎士の持つ武器、魔女モルガン、ガラハットの聖杯伝説に世界を去った龍の話。


ゲームから知る人間が殆ど、だがゲームを殆ど触らない私でさえ長年この世界で住んでいても耳にする程度には有名だったりする。

そしてその話の中での強さと有名度が高ければ高いほどダンジョン化した時のランクも高位になる傾向にある。


それが1つに集約されればどうなるか想像に難くない。

ダンジョンが出来て5年が経った時イギリスに出現しその2ヶ月に政府を通して私に攻略してくれと依頼が入った。

初めは私1人で攻略に向かった。

だが5年掛けて受肉したそれは近隣の国にダンジョンが出来ないほどに集約されたもの。

流石の私でも初戦は情報集めしか出来なかった。

元の世界から援軍を2人呼んでようやく攻略が出来た正真正銘世界一の化け物ダンジョンだった。


そのイギリスのダンジョン行こう確認されていなかった複合型のダンジョンの可能性。


「聞いた事のない伝承だがお前も知ってるだろうがイギリスの世界で唯一確認されている複合型ダンジョンよりはマシだろうな」


「……勝つだけなら問題無いとおっしゃいましたよね?不確定要素が多すぎますよ?」


「安心しろ、勝つだけなら出来る。だが巫女服のナニカと対峙して実力が分かるまで栞やお前達の安全は私でも保証しかねると言っておく。

 更に付け加えるのなら私達が離れた時にモンスターの大群が襲って来る可能性も頭に入れておけ」


「そっかそれがあった……!」


項垂れる様子の斎藤を見て思わず溜息が溢れる。

まぁ少し脅し過ぎた私にも責はあるから咎めはしないよ

しかし実力と視野の狭さは比例するのかもな


「斎藤私の掛けた結界を忘れたのか?」


「あっ!」


「さっきも言った通り私はサポートに特化した戦闘スタイル故に防御にも特化している。だからそう簡単にあの結界が破られる事はないと断言する。

 破られるとしたらそうだなぁ……私の正真正銘本気の殴りを5発は耐えられる」


斎藤は遠目とはいえ私の振り下ろした千罰・大幻刃を見ている。

それを思い出して私の本気の殴り5発に耐えられると言う言葉と合わせて考えるとかなり安心したのか少し強張っていた表情が和らいだ。


一応付け加えておくと私の本気の殴りを5発耐えられる結界はイギリスの化け物ダンジョンでも活躍した。


斎藤が淹れてそのままにしてあったインスタントコーヒーを飲む。


そう言えば栞は探索に出掛けて数時間経つだったな?もうそろそろ帰って来ないのか?


「ん?」


「あれ?」


ガサガサと木の揺れる音がした。

敵襲かと思い一瞬身構えたが聞こえてくる音の中に足音もある事に気付く。


「帰って来たか!」


「そう見たいですね!」


私と斎藤は急いでテントから出ると音が聞こえた方に向かう。

向かった先には栞達と一緒に探索に向かったハンターと市民を守る為に残っていたハンター数人がいた。


「あっ!」


「栞探索のせいかは?!」


「予想以上に条件が良かったよ!新鮮な水にダンジョン外の物と変わらない果物や野菜!これでもしこのダンジョンの中で数日サバイバルしたとしても石丸が偶然用意していたダンジョン内での非常食も合わせれば嫌でも1ヶ月は安心だよ!」


「「「おぉ?!!!」」」


居残り組のハンター達から小さな歓声が上がる。


「更に朗報だ諸君、私はこの山に来るまでにこののボスも見つけている!食事を摂り万全に整えてまずはボスの調査そして、会議に討伐!上手く行けば今日含めて最短3日でダンジョンを攻略出来る!

 帰って来た者は収穫した物を市民達の所にいるハンターに預けて休憩を含めた会議をする!悪いが1番デカいテントを少しの間使わせてもらう!会議はなるべく早く終わらせる!」


声を上げると異論は無いのかスムーズに動き始めた。


それにしても……


「肌に纏わりつくこの違和感は何だ」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る