第15話うねり⑩
万の屍を築き上げてから1時間半
私はゆったりと目標地点の山まで足を進めていた。
「点在する山、小山そして……」
魔力を眼球と脳みそに集め強化する。
こうする事で無理矢理視力を上げて遠く見れるようになり情報収集にも役立つ。
「このダンジョンは歪だ。赤い空、存在しない太陽そして視線の先8キロにいる仮面を付けた巫女服のナニカ」
良く観察する。
黒い鳥居がある、そしてその下に構えるように立つのは巫女服のナニカ。
私達を襲った万を超えるモンスターが来たのもナニカがいる方向だったか。
更には溢れる魔力が周囲を陽炎のように歪ませていた。
ただそれだけだが並の存在では無い事は見てとれる。
「あの溢れた魔力による周囲の歪みは高位の存在特有の現象。自身と周囲が噛み合わない事によって起きる。
昔相手にした事がある土地神も同じだったな周囲を魔力で歪め力に従い全てを壊そうとして来た……だがどれも仮面は付けてなかった」
過去の記憶を掘り起こす。
しかし足は緩めず山へと進む。
少しずつ山の麓に近づいて行く。
「ダンジョンは基本的に階層型しか出てこない。だが稀に土地神のダンジョンは階層ではなくここみたいに世界が広がる場合がある……そして普通の階層ダンジョンは必ず1階に出口と2階層への階段がある」
そう必ず出口がある。
意識しなければ分からないが出口とダンジョンのボスは繋がっていたりもする。
ダンジョンのボスは出口に行かないように、ダンジョン内のギミックで出口近くまで転移する魔法陣を守ったりする。
これに関しては全てのダンジョンで平等の真理だ。関連付けて考えるのならこの歪なダンジョンでもそれは同じ。
「ダンジョンを作るのなら必ず逃げ道を作らなければ成立しない。見つかりにくくてもただただ難しくても良い、必ずボスを殺す存在に慈悲を与えなければダンジョンは成立しない」
……おかしいこの十数年によって判明した法則や条件に当てはめるのなら初手で万を超えるモンスターの軍勢をあってはならない。
殺意が透けて見えるダンジョンのモンスターやギミックは当然存在する、だが!確実に殺そうという意思は無い。
しかし私が殺したモンスターの軍勢からダンジョン内にいる私達を確実に殺そうという意思を感じた。
ふと、1つの可能性が浮かんだ。
「待てあり得ない……待て待て待て!!!法則や条件に該当しないのならここはダンジョンじゃ無い事になるぞ?!」
私らしくも無い
本当に心の底から焦りが生まれる。
それは私でも出来ない『魔法による世界の再現』によってここが作られた可能性が生まれたからだ。
本格的に思考の大海に沈もうとすると声が聞こえて来る。
どうやら無意識のうちに山を道なりに進み皆の所に近づいたらしい。
思考を止め歩く。
2分ほどで皆が建てたと思われるテントと焚き火がある仮の拠点が見えた。
「栞はいるかーー!!」
声を張り上げるとハンターではない市民が私に気付き立ち上がった。
「あっ!さ、斎藤さん!!殿の人が帰って来ました!!」
「何?!」
離れた所で警戒をしていた斎藤と呼ばれたハンターが急いでこちらに走って来た。
「お疲れ様です!愛崎さんのお母様お怪我はありませんか?!」
「ない。あの程度で私は怪我を負うほと弱くはないのでな過剰な心配は無用だ」
「少し奥で休まれませんか?怪我はないと言っても休憩は必須かと。それに愛崎さん達は念の為に水分と食糧の確保に向かっているので場所が空いているんですよ」
「ふむ?」
斎藤の言葉と表情から糸を読み取る。
なるほど
「それならお前も休め」
「はい?」
背を向けると魔法を発動させる。
まずは硬い防御結界、そこに感知や微量の回復効果のある魔法を付与する。
「こ、これは?!」
「お前の表情は少し分かり易いな。私と話をしたいと思っているのが目に見えてる」
「……恥ずかしいですね。出来れば次からは遠慮願いたいです」
「ははは!すまない長年過ごして真意を読み取ろうとするのが癖になってしまっているんだ。次から努めて真意は読みとらんから今は許せ」
「そう言われては私も許すしかありませんね」
「そうか。早速で悪いが案内しろ」
「ではこちらに」
斎藤の案内によって木が切り倒され広場となっている場所に案内された。
そして1つのテント内に入る。
丁度無人だった為都合がいい。
座ると同時に予め準備されていたのか湯気のたつコーヒーを差し出された。
「ほう?準備が良いな」
「愛崎さんのお母様に話を聞くのです。あの愛崎さんのお母様に無礼は如何なものか……と」
「殊勝な心掛けだが少し堅い。もう少し楽にしないのか?」
「今はまだ緊張してまして」
苦笑いで斎藤が応える。
一口だけ飲む
「苦いが上品さが垣間見える。良いコーヒーだ。この様な状況下ではやや不釣り合いだとも言えるがな」
「インスタントとしては高級らしいんですよ。石丸さんがそう言ってました」
石丸??????
まぁ後で聞くか
そんな事より今は斎藤だ
「それで……お前は何が聞きたい?」
「っ!!ど直球ですね」
緊張しているのが喉を鳴らした。
「愛崎さんのお母様……貴女はこのダンジョンに対してどこまで予測を立てていますか?」
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