第27話 帰還

 曇天とした空の下を、まるで風のような身軽さで、天閣は頭上に広がる雲に向かって宙を駆けていた。

 並外れたエーテルのコントロールによって瞬時に足場を作り、そこを蹴ることによって天へと昇っていく姿はもはや侍というよりも忍のようにも映る。


 するとそんな彼の後方から、同胞の巨大なエーテルが接近してくることを男は感じ取った。


「……随分と手間取ったようだな」

 

 真横に並んだ相手に向かって天閣が声をかける。

 すると箒に乗って不機嫌そうな表情を浮かべている朱音が苛立った口調で言う。


「なーにが野蛮な戦い方は嫌いやねん! めちゃくちゃ武闘派やんけあのくそババァっ!」

 

 そう言って自分が飛んできた方向をギロリと睨みつける朱音。見ると、あれほど汚れることを嫌っていた彼女の服装は見るも無惨なほどにボロボロになっているではないか。


「ってかどーすんねん天閣! このまま手ぶらで帰ったらウチら絶対しばかれるでッ!」

「……仕方ないだろ。それにあれは捕獲できるような状態ではなかった」

 

 怒りの矛先を自分に向けてきた相手に、天閣は相変わらず落ち着いた口調のまま言葉を返す。


「だーくそぅッ! それやったらせめてあの兎の耳でも引きちぎってたらよかったわ!」

 

 何やら隣でプンスカと怒りを露わにしている相手を見て、天閣は珍しく僅かに口端を上げる。


「おい、何がおもろいねんッ」

「いや……楽しそうなお前を見るのは久しぶりだなと思っただけだ」

「は?」

 

 突然意味不明なことを言ってくる相手に、朱音が不愉快そうにぎゅっと眉根を寄せる。

 けれどもそんな彼女の様子など特に気にすることもなく、チラリと朱音の姿を見た天閣は一言忠告を入れる。


「しかし朱音、その恰好で戻ればあの変人男のツマミにされるぞ」

「……せやな」

 

 今の自分の姿を見てやっと冷静さを取り戻したのか、少しズレれば肝心な部分が露わになってしまいそうな胸元を押さえながら朱音が恥ずかしそうに声を漏らす。

 そして大きく息を吐き出すと、彼女は再び鋭い目つきで後方を睨んだ。


「にしてもアイツ……ウチをこんな目に合わせといてあそこで死んだら許さんからな」


 そう言って目を細める朱音の視線の先には、異様なスピードで成長を続ける大樹の姿が映っていた。

 するとそんな彼女の言葉を聞いた天閣は「どうだろうな……」とぼそりと口を開くと、同じように大樹を見つめて目を細める。


「ただ……『あれ』を相手にするとなると一筋縄ではいかんぞ」

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