第19話 地下道

 嫌な音を立てながら地響きを繰り返す状況に、団員たちに向かって咄嗟に声を上げるアイリス。

 するとその直後、敵がいる足元の地面が激しい音を立てながら一気に崩れ落ち始めた。


「リリック!」

 

 叫び声を発したアイリスの視線の先では、陥没によって生まれた大穴にリリックが敵と共に呑み込まれていく。

 それを見たコルンが咄嗟に術を発動して再び尻尾を伸ばすも、その先端がリリックに触れるより前に、彼女の身体は暗闇の中へと飲み込まれてしまった。


「リリック……」

 

 地響きが鳴り止むと同時に、大穴まで駆け寄って中を覗き込むメビウスの団員たち。

 おそらくかなりの深さがあるのだろう。

 ぐっと目を凝らしても、その穴がどこまで続いているのか目視することはできない。


「リリック、だいじょうぶかな……」

 

 穴の中を覗き込みながら、今にも泣き出しそうな声を漏らすユーニ。

 するとそんな彼女を見て、一人冷静な表情を浮かべていたアイリスが言う。


「心配しなくても大丈夫よ。リリックはたとえ死んでも化けて出てくるような根性悪だから」

『おいテメェ! 誰が根性悪だって!』

 

 アイリスがユーニに向かってそんな言葉を口にした直後、彼女の頭の中に突然リリックの怒声が響く。

 そのあまりにうるさい声に、アイリスが思わず片目を瞑る。


「あら、無事だったのね」

『けっ、なーにが無事だっただ。どうせ索敵で気づいてたんだろ』

 

 白々しい副団長の態度に、相変わらずいつもの悪態で声を返すリリック。敵と共に陥没に巻き込まれてしまった彼女ではあるが、どうやら穴の下でも健在のようだ。

 

 アイリスの言葉からそれを察した団員たちが、ほっと嬉しそうな表情を浮かべて互いに顔を見合わせる。


「それで、さっきの敵は倒せたのかしら?」

『ああ。身体は無傷だが、もうピクリとも動かねーぞ』

 

 リリックからの返答に、アイリスは「そう」と静かに声を漏らすと大穴の奥を見つめる。

 あれだけの攻撃とこの地割れに巻き込まれていながらも、傷一つ付けることができなかった過去の遺産。

 改めて科学文明の恐ろしさを実感したアイリスはそっと目を細めると、今度は顔を上げて前方に映る大樹を見上げる。


「リリック、あなたがいる場所は地下道になっているわね?」

 

 不意にアイリスが口にした言葉に、『え?』と間の抜けたような声を漏らすリリック。

『あー、言われてみればそうだな……』 

 

 アイリスからの言葉で辺りを確認したのか、彼女の頭の中でリリックの声が響く。

 するとアイリスは静かに意識を集中させると、索敵の力を使ってリリックがいる場所からさらに広範囲に渡っての空間把握を始める。


「……どうやらその地下道はあの大樹の真下へと続いているようね」

『ってことは……もしかしてこれが『門』へと続く道ってことか?』

 

 アイリスの言葉を聞いて状況を察したリリックが声を返す。その返答を聞いたメビウスの副団長は、「おそらく」と静かに頷く。


「私たちはこのまま地上から大樹へと向かうわ。向こうに辿り着けば、何かしらの合流方法が見つかるでしょう」

 

 アイリスはそう言うと、周りにいる団員たちの顔を見る。


「あなたの方は一人になってしまうけれど、それでも大丈夫かしら?」

『はっ、アタイを誰だと思ってやがる!』

 

 少し心配した声音で尋ねるアイリスの言葉に、リリックはふんと鼻を鳴らすと強気な口調で答えた。すると彼女のそんな姿をありありと想像したアイリスがクスリと笑う。


「さすがはメビウスが誇る炎豪ね」

『ったりめーだろ! むしろこんな任務一人でも十分だ』

 

 調子が良いのか威勢が良いのか、穴の下でそんな言葉を豪語する団員にアイリスが今度は呆れたように肩を落とす。

 けれども彼女はすぐに意識を切り替えると、地下にいる団員含めて仲間たちに向かって言った。


「それじゃあ任務続行よ」

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