第12話 戦闘開始 〜その①〜
廃墟と化したドームを出ると、目の前に広がっていたのは同じく荒廃とした世界だ。
空は分厚い灰色の雲に覆われ、陽の光は乏しい。荒れ果てた大地の上では至るところで建物が崩れ落ち、まるでそれらを
肺に取り込む空気は重く、この地に近づいている幻影雲の影響で負のエーテルが薄くなっているとはいえ、大気が汚れていることがすぐにわかる。
かつては何十万という人間たちが暮らしていたであろう街の景色は、今となっては過ぎ去った夢のように朽ち果てていた。
世界各地を股に掛けるメビウス飛空艇団とはいえど初めて目にするその光景に、団員たちが思わず足を止める。
「酷い有様ね……」
眼前に広がる終末を迎え終えた街の景色に、アイリスがぼそりと声を漏らす。
すると彼女の隣に並んだコルンがぶるりと肩を震わせた。
「うわー……ぜったいヤバそうだよここ」
そう言って身を守るように自分の身体を抱きしめるコルン。そんな姿を見て、今度はリリックが呆れたようなため息を吐いた。
「なんだよコルン。もうビビってんのか?」
「べ、別にビビってるわけじゃないよ! ちょっと警戒してるだけ」
小バカにしてくるリリックの発言に、コルンがムッと頬を膨らませる。
そんないつものやり取りを繰り広げる二人の隣では、ユーニを抱いたシズクが不安げな声で言う。
「ねえアイリス、本当にこんな場所に研究施設なんてあったの?」
もはやまともな原型を何一つ残していない街の光景に、厄災の元凶となった場所が本当に実在していたのか疑問を抱くシズク。
するとそんな彼女に対して、アイリスが「ええ」と静かに頷く。
「確かにこの都市にはエーテルの研究施設があったはずよ……ただ」
アイリスは何故かそこで言葉を止めると、今度は険しい表情をして辺りを見回した。
「……そう簡単には通してくれないみたいね」
「え?」
急に険しさの増した声音でそんな言葉を呟くアイリス。
そしてその鋭い視線の先を他の団員たちが追いかけた直後だった。彼女たちを囲っている瓦礫の隙間から、次々と黒い影が姿を現す。
「はっ、さっそく現れやがったか」
好戦的な口調で言葉を発したリリックが背中にある大剣を引き抜いて前へと出る。
同じように臨戦態勢を取る彼女たちメビウス飛空艇団の前に現れたのは、鋭い牙と爪を剥き出しにして被食者を狙う魔物の姿。
狼にも似た形をした魔物たちは、不気味な唸り声を漏らしながら彼女たちへとゆっくりと近づいてくる。
「来るわよ」
相手が放つ殺気の変化にいち早く気づいたアイリスがそう言った直後だった。
鋭い爪で大地を蹴った魔物たちが一斉に彼女たちへと向かって襲いかかる。
【属性展開・
真正面から襲いかかってきた敵の群れに対して、リリックが術の発動と共に横薙ぎの一撃を放った。
その瞬間、まるで刃の軌道を追いかけるようにして凄まじい炎が生まれる。
『ギャウッ!』
強烈な熱風と斬撃によって、その身を一瞬にして灰と化してしまう魔物たち。辺り一帯に放出された熱量によってリリックの周囲が陽炎のように揺らぐ。
「コルン! そっちにいったぞッ!」
先手を取ったのも束の間、リリックの一太刀を逃れた魔物たちが次の標的に狙いを定める。
その鋭い牙を向ける先にいたのは、「ひっ」と怯えた声を漏らす狐耳の少女だ。
だがしかし、そんな彼女とてリリックたちと同じくメビウス飛空艇団の一員。
口を開けた魔物の牙が自分の身体に刺さる寸前、エーテルの力で強化した両足で真上に跳躍したコルンはそのまますかさず術を発動する。
【エーテル変幻・
空中でくるりと回りながらコルンが術を放った直後、彼女の身体が一瞬白い光に包まれる。
そして次の瞬間、光が止んだと同時に現れた巨大な槌が魔物たちの頭上に勢いよく直撃した。
「へへっ、どんなもんだい!」
術を解いて元の姿に戻ったコルンが、倒した魔物の亡骸に向かって満足げに言葉を放つ。
だがその直後、隠れていた一匹が彼女の背後に向かって突然襲いかかった。
【防壁展開・エーテルウォール】
コルンが危うく敵の餌食になりかけたまさにその時、彼女と魔物の間に輝かしい光の壁が姿を現す。
アイリスの援護によって間一髪のところで命拾いをしたコルンは、「うわッ」と驚いた声を漏らすと慌ててその場から離れた。
「コルン、油断は禁物よ!」
鋭い声音で団員を叱りつけるアイリス。その間も彼女は自分の周囲にエーテルを放ち続けると、それを次々と光の壁に変化させて魔物たちの攻撃を遮断。
そしてすぐさま意志の力によって光壁のエーテルに働きかけると、今度はそれらを光の槍へと形を変えて容赦なく敵を串刺しにしていく。
その圧倒的かつ広範囲に渡る攻撃に、魔物たちはアイリスに近づくことすらできない。
「はっ、これだと楽勝だな!」
アイリスたちの前で一人敵に向かって大剣を振るっていたリリックが声を上げた。数は多けれど、早くも勝敗が見えてきた戦いに彼女は余裕のある笑みを浮かべる。
だが、その直後だった。
「きゃあッ!」
突如聞き慣れない叫び声が耳に届き、団員たちが驚きの表情を浮かべる。
慌てて声が聞こえた方を見てみると、少し離れた瓦礫の山の真下で、人の子と思わしき幼女が魔物に追い詰められているではないか。
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