第12話   ★

 西堀に行くとすでに長屋周りや俠客あたりが周りを囲んで一般人に見せないようにしている。

 銀時が入って行くとみんなだ避けるように割れる。

 堀のそばに行くとすでに引き揚げられ、筵に載せられた遺体があった。

 襦袢も襤褸襤褸。髪はバサバサ、身体中から血を流して顔も半分剥がされている。髪も随分引っ張っぱられたようで引きちぎられた後がある。

 縄で縛られたのかかなり圧迫の跡が。


「竜、こっちだ」

 腕を取られ進んでみれば顔で判別できないほど傷だらけで全身が赤い。


 その胸元で握りしめてるのは・・・

 俺が渡たした櫛入れと桜の簪・・・


「何でだよ!」

 生かすために渡したんだ!!なんでそんなもん守るように抱えてるんだ・・・。


 ポツポツと降ってきた雨は俺の顔を濡らした。

 やっと奉行所から検分しにきた連中が銀時に話を聞いて、仏になった女を軽く調べた。体裁っぽく何かしら書き付けて戻って行く。

 

 やった人間が分かっているから詳しく検分されない。分かっちゃぁいるが虚しいな。


 銀時の手下たちが櫛も簪も手に戻してやって。遺体を筵で巻いて桶に入れて運んでいく。


「竜、行くぞ」


 身寄りのない人間は寺の集団墓地に埋葬される。

 雨もいまだポツポツと落ちてくるが、そのまま進む。

 

 裏の雑多な墓地に入って行くと足元の土がフカっと足を沈ませ、雨に染みた泥がベタっと感触を伝える。


 手下たちが住職に指示された場所を掘り起こし桶を下ろした。


「姐さま~」 

「芙蓉姐さま~」

 振り返ると常盤屋の芙蓉の世話を受けていた禿や新造たちが泣きながら掛けてきていた。後ろに店の丁稚達がついて来ている。


「お前たち、今は外に出るなと言っただろう」

 娘達に銀時の手下たちが怒るが聞き入れずにまだ土を入れていない桶の所まで来て泣き崩れた。

 良く楼主が外に出してくれたな。


「姐さま・・・私たちのせいであんな奴のところに」

「私たちを庇って、こんな・・・」

「いやだよ!姐さま」

 着物も化粧も酷いことになって土に平伏すように縋り泣いてる。

 こんなに慕われてたんだな。


 口々に出てくる代官への罵倒。店で随分酷い遊び方をしてたんだな。

 庇って見受けが良くわからんが、芙蓉が死んだ以上、またこの娘らも狙われるんだろう。

 銀時達が目線で確認し合っている。

 娘達を少し遠ざけて土を被せていく。

 啜り泣きが酷くなっていくにつれて雨足も悪化して。

  

 丁稚と手下達で娘達を抱える様にして送っていった。


 俺は何となく離れがたくて動けない。

 たかが女郎一人。たまたま少しばかり気が合ったが、いちいち情を掛けていたら心が持たねぇ。

 ただの細工師が仲良くなった女郎を見受けするだとか助けるだとか無理な話だ。


 蘇芳や銀時達だって、お人好しだけどそこまでしねぇ。キリがねえ。

 見受けしたところで一生世話出来るわけでもねぇ。

 ただの感傷だ。


「竜!帰るぞ」


「・・・先帰れよ」


 雨が激しく降って。随分激しい弔い雨だな。

 冷えて来た体にふと熱さが届く。

 目元を大きな手で塞がれ、

「一人に出来るか」

 後ろから抱き締められて、肩に頭を載せられた。


「お前は昔から情に厚すぎる。言い方が悪いがいちいち他人に深入りしたところで俺たちは報われない」

 でも銀時は手下や子飼いを見捨てられないじゃねえか。


「・・・私怨で動くことは許さん」

「まだまだ被害が出そうなのに私怨なのかよ?」

 納得がいかねえ。女だけじゃ無い、子供にも害が出てるのに。


「外部から依頼が無いんだから私怨だろう。大義名分があろうが自分の意思で動けば私怨だ」

    

 足を洗ったつもりでも結局は掟を破ることもできず、枷を嵌められたままなんだよ。


「私怨で動いたらただの罪人に落ちる。お前を俺に殺させるな」


 銀時だってもう正式に抜けてるのに、掟だけは縛られる。


 人として生きていくためには守らなくちゃいけない一線があるのはわかってる。

 でもとんでもねぇ奴らがのうのうとのさばってるんだ。


「うああぁぁーーーー!!」


 足抜けしてなかったら俺は仕事しても良かったのか?抜けたのは間違いだったのか?

 俺はどう生きるのが正解だったんだよ!?


 銀時は叫ぶ俺をずっと抱き留めたままでいた。





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