第10話

 一息ついて座り直したのは良いんだが、大男一人増えてさらに狭ぇ。


 蘇芳達が助左に説明して助左と助左のお客達にも注意するようにって。

 なんか代官ってどんだけ性欲の塊なんだよ。キメェ。


「・・・はぁ、結局身分がありゃ好き放題なんだな」

 助左が渋い顔して呟いた。


 町人が何か言っても無礼打ちで消されて済んじまう。現状目に留まらんよう過ごすしかないが暮らし向きもあってずっと引きこもれるやつばかりじゃ無いから、運が悪けりゃ・・・。


「竜はうちで預かるが助左も来るか?」

「いや俺は狙われんだろう」

 何かムカつく。俺だってしっかりした体付きだし、助左だって銀時には負けるだろ。

 

「ほれ、荷物まとめな」

 蘇芳が行李に着物を勝手に詰めて仕事道具を纏めろと指さす。

「俺も一人でいいのによ」

 

 結局は、蘇芳と銀時が強引に決めて俺は引きずられて行く。

 助左はニヤッとしながら手を振って。

 俺の家は助左や長屋の連中が適度に管理してくれるらしい。銀時の子飼いは優しいねぇ。けっ。


 お蝶さんの家にも寄って当面のいる物とかを持ち出す。こっちは蘇芳の雇用人が住み込んで防犯対策。並びとはいえ、多少金持ち風の一軒家だからな。


 蘇芳がお蝶さんを連れて、俺は銀時と周防に自宅に向かった。

「銀時がお蝶さんを預かれば良かったのに」

 大きな男が肩を落としてしょんぼりしてるもんだから言ってやった。

「うちは男所帯だ。ましてや荒っぽいやつばっかりだ」

 

 蘇芳の家に入って適当に荷物を置いて居間で寛いだ。


「・・・茶屋に預けるのもどうかと思うがななぁ」

 男心は複雑ってやつか?

 いくら昔から働いていたとは言っても、俺ならちょっと入れたくねぇかもな。


「いい女を隠すなら女ばっかりの場所がいいだろう。表に出すわけじゃなし」


 そう言うもんかね?まぁ町で一人で暮らして出歩いてるよりは心配はないかもな。


「代官の被害者ってどれくらい出てる?」

「・・・家に戻されたのは7人。町人の妻とか大店の後妻、美人だが男慣れしていると言う噂のあるのが多い」

 ん?慣れてる女がいらんってことか?

 でも芙蓉はどの枠だったんだ?


「戻されてないのは、数は断定できていないが婚約者のいる娘やまだ成人していない少年、評判の美人達らしい」


 とりあえずどう取っても下衆だな。


「俺が避難しなくちゃいけねぇ理由ねぇ!」

 そう、俺は少年でもないし、男慣れ・・・はねぇけど女慣れならしてる方だと思う。


 隣で銀時が呆れ返ってるが、何でだ。おっさんに好きにさせるほど弱くもねぇぞ。

「俺たちが心配なんだ。大人しくしてろ」


「蘇芳だって美人枠だろう?何で俺だけ・・・」

 蘇芳は確かに俺より背がデカいし胸回りも厚いが顔は中性的で整っている。


「はぁ、お前と蘇芳じゃ種類が違うだろう?」

 美人ならなんでもいいんじゃねぇの?


「銀時、俺は今だってちゃんと戦えるのはわかってるよな?蘇芳は素人じゃねぇか!」

「お前が弱いから言ってるんじゃない。アイツらがタチが悪すぎるんだ」

 銀時は蘇芳の煙草盆を引き寄せてから懐から出した煙管に火を点ける。


「そんなタチが悪いとこに芙蓉は?」

 あちこちに手を出すならなぜ大枚払ってわざわざ見受けしたんだ?


「可哀想だが楼主がろくに吟味もせずに許可したんだろう。そこは俺たちもどうにもできん」

 そりゃそうなんだが。


「この件は竜は関わるな。雪火って言えばわかるな?」

 

「・・・銀時は関わって良いのかよ」

 銀時は俺の頬を親指で撫でて笑う。


「俺は拾ってくれた親爺の跡を継いだんだ。この町で子分たちを守っていかなきゃならん」


「俺に手伝えって言わねぇの?」

「必要な時は頼むさ」

 

 俺向きの仕事が有りそうなのにやらせる気はないんだろうな。いつまでもガキ扱いだ。

 まぁこの町で再会した時俺がボロボロだったから、仕方ねぇんだろうけど。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る