第8話

「・・・芙蓉は見受け先に行ったぞ」

 あれから数日経って、蘇芳が知らせに来た。

 宴の話も何も聞か無かったな。ケチ臭い旦那に当たったなぁ。


「そうかよ」


 蘇芳が自分で茶を入れて手土産に持ってきた菓子を頬張る。


「何も聞かんのか?」


「聞いてどうする。」


 銀時が調べるって言ってたが何か分かっても知らせてこないなら手出しさせたくないんだろ?


「わかってんならいい。しばらくは常盤屋の周辺に出向くなよ?」


 お前も銀時も過保護だな。


「ふん、依頼が入ったら行くしかねぇだろ?蜻蛉屋や蝸牛楼にも上客がいる」


 花町は並びで建ってるんだから通りの店を避けたら飯が食えんだろうが。まぁすぐさま食い詰めるほど貧しくもねぇがよ。


「お前の腕ならもう大店に卸すだけで良い稼ぎだろ?」


 いい評価されるのは嬉しいが。


「お客が望むものを直接聞いて喜ぶ顔を見るのがいいんだよ」


 据え置きや卸用だって別に手を抜いたりしてねぇが、客とのやり取りの中で出てくるモンもある。


「仕事に口出す気はないが他の店に行くにしても気をつけろよ。お前は迂闊に手を出す心配はねぇが巻き添えが出ないとも限らんよ」


「へぇへぇ」


 ここ数日、助左が大人しくて良かったのにこうるせぇこった。


「憂さ晴らしに抜きてぇって言うんなら俺がしてやるから大人しくしてな?」

 からかい混じりに言われて側にあった大福の包みを投げてやった。まぁ軽く受け取られた。


 そこまで若くも青くもねぇわ。


 戸口から軽い音がして見やると、お蝶さんが声をかけてきた。


「お邪魔だった?」


「邪魔じゃないよ。どしたい?」

 なぜ蘇芳が迎え入れるんだよ!


「うちに稽古に来てくれる娘がね、竜さんに渡してくれって」


 手拭いに何か包んだ物を渡された。


「常盤屋の雛菊ちゃんってね、芙蓉さんが世話してた新造なのだけど」


 常盤屋と聞いて蘇芳が眉を寄せる。


「お蝶さん、その子は慌てた様子だったかい?」

「いいえ?いつでも良いからって預かったと聞いたわ」


 蘇芳が目で促して来たので包みを開く。

 綺麗な色合いの組紐が出て来た。

 手紙も添えられていたが組紐を託した経緯が書かれているだけで何か問題があったと言う内容では無かった。気持ちホッと息を吐いた。

 

「・・・東の方の組み方だな」

 なんでも詳しいのな、蘇芳。


「この辺りのとは違って面白い柄ねぇ」

「随分前に手に入れたけど仕舞い込んでて忘れてたんだと。似合いそうだからどうぞってな」

 本当はもっと細々書かれているが、個人的な事を話す気は無い。


「確かに似合うわねぇ、美人さんが増すわ」

 ニコニコと蘇芳に出された茶と菓子を食う。

「男が美人になっても仕方ねぇだろ」

 お蝶さんはいつもこんな感じでちょいと抜けた雰囲気だ。


「うふふ、竜さんが美人さんだと私の目が幸せよ?」


 俺を欲の籠った目で見ないしさっぱりした性格で付き合いやすい人だがこう言った冗談を良く言うのが玉に瑕。


 また戸口から気配がして視線をやってみれば、不機嫌そうな銀時がいた。


 無言で入って来て寛ぐのは構わないが流石に四人も居ると狭いな。


 トリは今どこに預けてるんだ?

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