第10話・到着と門番のおっちゃん
走って走ってひたすらに走って、丁度お日様がギラギラに輝いている昼頃、俺は町へと到着した。
もっと時間がかかると思っていたが、勇者の力の一つである無限(仮)の体力は想像以上に到着速度を速めてくれた。
町の前には門番が一人立っていた。
知っている顔であった。
お父さんと一緒に町へ肉や皮や薬草を売る際によくこの門番と世間話をしたのを覚えている。
俺もこの門番の人をおっちゃんと呼び、慕っていた。
「おお、坊主、どうした一人で?あ、もしかして今日は一人でお使いか?」
俺に気が付いたのか、優しそうな笑みを浮かべて話しかけてくる。
そして俺の顔を目を見ると、その笑みは消えて、変わりに悲しそうな顔をして俺に駆け寄ると頭を撫でて来た。
「坊主、そんな目をするな。その目は全てを憎み絶望した者の目だ。破滅へ進む者の目だ。何があったのかおっちゃんに話してくれないか」
「おっちゃん・・・。分かったよ。全てを話すよ」
俺は一瞬、勇者のことや魔王の四天王が来た事は隠そうかと悩んだ。あくまで魔物暴走が起きて俺以外全員が殺されたという体で話そうとした。
ただ、話したくなった。全てを話して楽になりたくなった。
「ちょっと、待ってくれ。今、門番の仕事を変わって貰うからな」
そうして3分程待ってから、変わりの門番の人が来て、俺はおっちゃんに連れられておっちゃんの家に入った。
「さて、坊主、何があったのか話してくれないか?大丈夫、この場には俺と坊主以外誰もいないからよ」
そして、俺は全部話した。
魔物暴走に襲われて村が壊滅してしまったこと。
俺、意外全員死んでしまったこと。
俺が勇者に覚醒をしたこと。
そのせいで魔王軍の四天王が襲い掛かって来て、友人とお父さんを殺したこと。
俺が弱かったから誰も・・・誰も守れなかったこと。
全部を話した。
おっちゃんは何言わずに、俺の話をひたすらに聞いてくれた。
「坊主、そんなに背負い込むな。悪いのは魔物であり、魔王軍だ。坊主は悪くない。もちろん復讐が悪いなんて馬鹿なことは言わねえ。ただ、復讐に囚われるな、憎しみに囚われるな。その結果待つのは破滅だ。門番として何十年間も色んな人を見て来た俺が言うんだ。間違いねえ、だからこそ、聞く。坊主はこれからどうした」
「どうしたい。・・・・・・・俺は、強くなりたい。強くなって強くなって強くなって英雄になりたい。誰もが認めて誰もが知っている。強くて優しくて全てを救う物語に出てくるような英雄に、俺はなりたい」
「そうか英雄になりたいか。俺も若い頃は英雄になりたいって思ってたな。良い夢じゃないか。そして良い目じゃないか。そうだ、その方がずっと良いぞ。少なくとも復讐に囚われているさっきの目よりもな」
「おっちゃん。・・・ありがとう、心が楽になったよ」
「何、良いってことよ。ただ一ついいか」
「どうしたの?」
「坊主が勇者だということは隠せ。絶対に誰にも言うなとは言わないが、信頼出来る人にしかいうな。
勇者というのは坊主が思っている以上に重いものだ。いや、重いなんて言葉では言い表せないな。
そうだな・・・、良い例えば思い浮かばねえや。まあ、とにかく、もしも勇者というのがバレたら、坊主は速攻で教会のお偉いさんに捕まえられてから洗脳魔法をかけさせられて一生操り人形コース確定だな。
もちろんそれ以外の可能性もあるが、まあ基本ろくなことにはならない。少なくとも自由意思ってのは無くなると思え。だから、勇者と言うのは隠せ。絶対に隠せ」
そう俺に熱く語ってくれたおっちゃんの言葉は何処か実感がこもっているように感じた。
「わ。分かったよ。おっちゃん。ありがとう」
「何、良いってことよ。あ、もちろん俺は坊主が勇者だってことは誰にも言わないから安心しろよ」
「ありがとう、おっちゃん」
「あ、それで?坊主は今からどうするのか?ギルドにも入るのか?」
「うん。その通りだよ。ギルドに入ろうと思ってるの。冒険者ギルドに入って依頼をこなして強くなって、いずれは最高の英雄に俺はなる」
「それは良いと思うぞ。陰ながら応援させて貰うよ」
「ありがとう、おっちゃん。じゃあ、俺、冒険者ギルドに登録しに行ってくるね」
「ああ、気をつけてな。何か困ったり、悩み事があれば来いよ。いつでも相談に乗ってやるからよ」
「ありがとう、おっちゃん」
かくして俺はおっちゃんの家を出て冒険者ギルドへと向かうのだった。
――――――――――――――――
門番のおっちゃんのおかげで精神的に立ち直った主人公。
次回、冒険者登録
テンプレの匂いがプンプンするぜ。
因みに門番のおっちゃんは強いです。
普通に強いです。
どれくらい強いかと言うと、それはお楽しみという訳で。
ただ、流石に魔王軍四天王のアーゲインストとかには遠く及ばないです。
精々人間の中では強いって感じです。
過去に英雄を目指して必死に努力をしたがそこまで才能がなく、本物の天才を前に挫折してしまったが、それでも諦めきれずに現在47歳になっても一人剣の鍛錬に励んでいる。
それがおっちゃんです。
いわゆる努力の剣の使い手です。
魔王殺しの英雄譚~そして勇者は真の英雄となる~ ダークネスソルト @yamzio
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